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第1章
48 ラオスに触れる手
しおりを挟む治療室の備品の買い出しをするためにルティスと街へ出かけていた。
生地屋と薬屋を回って、必要な分を購入して治療室に戻る途中、店が立ち並ぶ端の一角にラオスらしき人影が見えた気がした。
より近づくと曲がり角の先にラオスの姿が見えて、シャウは無意識に走り出していた。
すごく久しぶりにラオスの姿を見た。
声も全然聞いてない。
ラオスと目を合わせて話したい。
そんな欲求に突き動かされるまま、シャウはラオス目がけて走った。
「──っ、ラオス!」
曲がり角まで来て、会えた嬉しさで笑顔のままラオスの名前を呼んだシャウの目に入ってきたのは、アーリュセリアだった。
アーリュセリアはラオスの腕に自分の腕を絡めて、何かを話しかけていた。
その光景にシャウは息を飲んだ。
「っ!?」
「──シャウ!」
シャウの呼ぶ声に振り返った、驚きで目を見開いたラオスと目が合った。
シャウはラオスが1人で居ると思っていた。
それなのにアーリュセリアといたことに動揺した。
ラオスと会ったら色々とラオスの訓練の様子とかシャウの治療の訓練のこととか話したいことがあったはずなのに、舌が固まったように動かなかった。
それよりもラオスに触れているアーリュセリアの腕が気になって気になって凝視してしまう。
アーリュセリアもやってきたシャウに気づくと、ラオスにより密着して見せつけてくる。
そして、シャウを見て勝ち誇ったように笑った。
その笑みを見た瞬間、カッと頭に血が上って
『ラオスに触らないで! その手は僕のなんだから』と、そう言うつもりだった。
それなのに、唇が震えるだけで声が喉を通って出てこない。
声が出なかったことで、少し落ち着きを取り戻したあと、今一瞬カッとして言おうとした言葉の意味を理解してシャウ自身が驚いた。
なんでそう思ったのか解らなかったけれど、ラオスの隣にアーリュセリアがいることが嫌だった。
アーリュセリアがラオスの腕に触れているのが嫌だと思った。
そして、ラオスがアーリュセリアに腕を取られたままなのが一番嫌だった。
………なんで僕とは会えないのに、アーリュセリアとは会っているんだよ。
…………僕とは会いたくなかったってこと?
…そういえば、さっきも久しぶりに会ったのに嬉しそうな顔はしてなかった───。
そのことに気づいたシャウはショックを受けた。
本当にそうだったとしたら、シャウは悲しくて辛くてどうすればいいのか分からなくなった。
決闘のあとに、僕の護衛を他の人に任せたのは、本当は僕に会いたくなかったから?
だから、僕に直接言わずに会わなくなったの?
だから、父さんもウルガも訓練場には来るなって言ったの?
じわじわと涙が滲み出てきて、シャウは踵を返してこの場から逃げ出した。
ラオスに泣いてるところを見せたくなかった。
アーリュセリアには絶対に泣いていることを知られたくなかった。
「シャウ?」
後ろから聞こえてきた声を無視してシャウは走った。
出鱈目に走って、息が切れたところで立ち止まると、ルティスがいつの間にか側に居て声をかけてきた。
「シャウ、良ければ私の胸を使って下さい」
シャウが泣いていることに気づいているのだろう。
初めて会ったときのように、胸を貸してくれると言うことらしい。
ルティスの変わらない優しさに少しだけ借りることにした。
ルティスの胸元に引っ付きながら涙を流しているシャウには、追ってきたラオスがその姿を見つめていることには気づけなかった。
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