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第1章
31 調査へ
しおりを挟むルティスが治療士として派遣されて一週間。
シャウはルティスと共に治療室に通い詰めていた。
ルティスから傷の治療の仕方を習いながら、効率よく魔力を変化させる仕方を習っていた。
ルティスに習い始めてから、大分魔力回復が速く出来るようになった。
そして、傷の治療も出来るようになってきて、擦り傷や小さい切り傷は治せるようになった。
そんな頃、ラオスとイラザが治療室に訪ねてきた。
「シャウ、いるか?」
顔を覗かせたラオスがシャウを呼んでいた。
「どうしたの?」
ルティスに治療の手ほどきを受けていたシャウは一旦止めて、ラオスに近寄った。
ラオスの後ろにはイラザが立っていた。
「今、時間あるか?」
「うーん、ちょっと待ってて」
サーラさんに席を外していいか聞くと、大丈夫と言われたのでラオスのもとに戻る。
「大丈夫だって」
「そっか、じゃあちょっといいか?」
そう言うとラオスは歩き始めた。
イラザも僕を見ると一緒に歩き出した。
警備隊の休憩室に着くと、椅子に座るよう促される。
全員が椅子に座ると、ラオスが話しだした。
「シャウ、俺達、明日魔物退治に行くことになった」
「えっ」
「やっぱり驚くよな」
「うん」
ラオスもイラザもまだ子供だからと言われて魔物退治には参加させてもらえてなかった。
例え行ったとしても、後方支援だけだった。
「今日、ウルガ隊長に言われたんだ。魔物退治に行く覚悟があるかって」
「俺達は前々から行きたいと思っていました。他の隊員と同じくらいは実力もあると思ってますし、足手まといになることはないと」
「だから、二つ返事で答えてた」
それは前から言っていたから願いが叶って良かったと思う。
ただその割には2人は嬉しそうじゃないように見える。
「ただ返事したあと、なんか急に不安になってきてさ、ただ緊張してるだけだと思うんだが」
「それで、落ち着くためにシャウに報告でもしようってことになったんですよ」
ラオスの言葉を引き継ぐ形でイラザが言葉を続けた。
「そうなんだ」
シャウが言葉を返した後、不思議な沈黙が落ちた。
その空気感がもぞもぞとしてなんか気持ち悪かった。
シャウがその空気感に困惑していると、ラオスがじっと見つめているのに気づいた。
そして、ラオスにしては珍しく遠慮がちに言葉を発した。
「シャウ、抱きしめてもいいか?」
「えっ? 何言ってるの?」
「……んー、そうだよな。はは、なんか急に抱きしめたくなっただけだ」
ラオスは不思議な顔して頭を掻いていた。
「はあー、ふざけるのもいい加減にして下さい」
イラザもいつものおふざけに感じたのか、呆れた顔をしていた。
「そうだよな。すまんすまん。ちょっとふざけただけだろう?」
「ラオスの悪ふざけは笑えないんですよ」
「そこまで言わなくてもいいだろう?」
ラオスの情けない顔にシャウは笑ってしまった。
「はは、確かに笑えないよね」
シャウが笑い始めると、つられたようにラオスもイラザも笑い始めた。
先ほどの不思議な空気がなくなってホッとした。
ラオスもイラザも初めての魔物退治に緊張しているのだろう。
本人もそう言っていたのだから、いつもとちょっと違ってしまっただけなのだろう。
「じゃあ、明日、見送りに行くよ」
「そんなのいいって。明日も治療室行くんだろう?」
「そうだけど」
「そうですよ。俺達は明日早朝出発ですからゆっくり寝ててください。シャウは朝苦手でしょう?」
「そうだけど…」
「夕方には戻ってくるんだから大丈夫だよ。そしたら、魔物退治の話聞かせてやるからさ!」
ラオスがニカッと笑った。
「分かった。楽しみに待ってるよ」
「おう、じゃあそろそろ戻らないとな」
「そうですね。シャウももう戻らないと行けないでしょうし」
「うん」
2人はシャウを治療室まで連れてきてくれると、そこで手を振って帰っていった。
「ラオス、イラザ、気をつけて行ってらっしゃい」
「おう、行ってくる」
「ええ、行ってきます」
シャウの言葉に手を振り返してくれた。
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