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第1章 番外編 ラオス*イラザ目線side
9 気にならない…か ラオスside
しおりを挟むシャウと共に捕獲した物を運んでいると、後ろから少し鼻にかかったような声で呼びかける声が聞こえた。
「ラオス様ぁ」
仕方なく立ち止まると、ポスンという衝撃のあと、俺の腕に抱きつく女がいた。
腕に抱きつかれたことに驚いたラオスは、抱きついてきた女の名を呼ぶ。
「アーリュセリア?」
オレンジ色の髪をかきあげながら、わざと上目遣いでラオスを見上げるのは、警備隊でも美人だと噂されている獅子族の女性、アーリュセリアだった。
確かに胸もでかくて腰もくびれてて、スタイル抜群で彼女にしたいと警備隊の人たちが言っていたが、俺は苦手だった。
「ラオス様ぁ、狩りに出られていたのですよね。お疲れ様ですぅ」
「ああ」
「もしかして、そちらのトントンを捕獲されたのですか? すごいですぅ。尊敬いたしますぅ」
「いや、今回は1頭だけだ」
「そうなのですか? それでもすごいですぅ。是非そのお話をセリアに聞かせてくださいませぇ」
「いや、まだ仕事の途中だから、な、シャウ」
俺が無愛想に返事をしても気にせずに話を続けるアーリュセリアに、早く話を切り上げたくてシャウに同意を求める。
すると、アーリュセリアが初めて気づいたようにシャウに話しかけた。
「あらぁ、シャウ、いらっしゃいましたの、薄っぺらくて気がつきませんでした。ごめんなさい?」
「まあ、ラオスよりは細いからね」
「ラオス様は常に鍛えていらっしゃる方ですもの。比べられるものではありませんわぁ」
アーリュセリアがなぜか俺とシャウを比較しはじめた。
いや、シャウが俺みたいに筋肉質になるのもどうかと思うし、シャウはしなやかな筋肉をしていて俺より俊敏だし今の体型で十分だと思う。固く見てくれだけの筋肉なんて意味が無いのをこの女は知らないのか?
侮蔑を込めて見ていると、アーリュセリアが胸をどんどん押しつけてきた。
押しつけすぎて俺の腕を胸で挟むような感じになって引き離すにはどうするかと悩んでいると、シャウがアーリュセリアの胸に押しつけられた腕を凝視しているのが見えた。
このままではいけないと振り払おうとして、母親の声がよみがえる。
母親から「女性に対して手荒に接してはいけません」「あなたは力が強いから優しく触れなさい」と言われていたが、今はそんなことは気にしてられない。
出来る限り優しくを心掛けながらも急いでアーリュセリアを振り払う。
「アッ、アーリュセリア。俺達はまだ仕事の途中だからもう行くよ」
俺はシャウの腕を掴むと、アーリュセリアにまた捕まらないように早足でアーリュセリアから離れる。
「ラオス様ぁ、あとで絶対にお話を聞かせてくださいねぇ」
後ろからアーリュセリアの声が聞こえたが聞こえなかったことにしてシャウを急かした。
「シャウ、行くぞ」
これ以上アーリュセリアに絡まれないように、卸売業の商会へ急いで向かう。
商会へ持っていたコクチョウとトントンを引き渡し、またガルアさんの所へ戻る途中、シャウがどう思っているのか気になっていた。
もしかして、女にだらしないやつとか思われていたりしない、よな?
女好きとか、周りにいる男共がからかいまじりに言ってたりするけど、シャウはそんなこと思ってないよな?
アーリュセリアとのことだって特別仲がいいわけじゃなく、俺の周りにいる女達は大体スキンシップが激しくて何かしら俺にくっついてこようとするだけだ。
でも、それを誤解されても困る。
不安になって誤解だけでも解こうと、シャウの手を掴み、目に入った細い路地へ入っていく。
誰もいない細い路地で立ち止まり、シャウを見つめる。
「どうしたの?」
不思議そうに見つめられ、勢いで連れてきてしまったことに恥ずかしくなった。
それでもシャウに誤解されたままなのは嫌だったので、視線を彷徨わせたあと、覚悟を決めてシャウを見つめる。
「あのさ、さっきのあれは何でもないんだ」
「さっき?」
「だから、さっきのことだよ」
「?」
よく分からない顔をしているシャウに気付き、俺は片手で頭を掻く。
はっきりと言葉にするのは恥ずかしくて、顔が紅くなり少し怒鳴るようになってしまった。
「アーリュセリアのことだよ」
「アーリュセリア?」
「そうだ、アーリュセリアとは何でもないんだからな。あれは、アーリュセリアが勝手にくっついてきたんであって俺がしたくてしたわけじゃないんだからな!」
「え? 分かってるよ?」
普通に返されてしまった。
どういうことだ?
女好きとか、女にだらしないとかは思ってないってことか?
「分かってる?」
「うん」
そうか、そう思ってないならいいんだ。
ただあまりにもあっさりしてて、もう一つのことが気になり始めた。
アーリュセリアがくっついていたことには何も感じなかったのか?
俺はシャウに他の男が触ろうとしただけでも許せないのに……。
「……気にならないのか?」
「何が?」
シャウのあっさり返ってきた疑問の言葉に、ラオスの期待した言葉は返ってこなかった。
「………気にならない、のか……」
「?」
「そっか……」
シャウにまったく気にしてもらえなかった事実にショックを受ける。
口からはハハハと乾いた笑いが漏れた。
小さく「ごめんな」と言って、シャウを連れて路地から出る。
だけど、シャウと一緒に帰れる心の余裕がなく「早く戻らないとな」と誰ともなく呟くと、ラオスはシャウを置いて走り出していた。
「ラオス?」
後ろから驚いたシャウの声が聞こえたが、足は止まらなかった。
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