シャウには抗えない

神栖 蒼華

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第1章

 5 ライバルは他にいた

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「父さん、今日は何処に行くの?」

食べ終わった後、今日の仕事先を聞く。

「今日は警備隊の訓練を見に行く」
「行きたい!」

シャウは食い気味に主張する。自分の尻尾がブンブン左右に振れていることだろう。
父さんは一度シャウを見てから、真面目な顔で話しだす。

「連れて行ってもいいが、当分見学だけだからな。約束をやぶった罰だ」
「はい」

僕は父さんの目をしっかりと見返すと神妙に頷く。
昨日の罰が外出禁止じゃなければ、何でもいい。

「父さん、ありがとう」

父さんに抱きついてお礼を言っていると

「ガルアさん、俺も行っていいですか」
「俺もお願いします」

ラオスとイラザが珍しく父さんにお願いしてる。
いつもは訓練なんて嫌がって、父さんに無理矢理引きずられて行ってるのに。

「ああ、いいぞ」

ニヤッと笑って父さんは許可を出した。

「じゃあ、すぐに着替えてくるね」
「「俺も」」

父さんの気が変わらないうちにと、着替えるために三人は走り出した。


  ***


「父さん、お待たせ」

着替え終わって集合場所に着くと、父さんの側にはすでにラオスとイラザが訓練用の服に着替えて訓練用の剣を携えて待っていた。

「行くぞ」
「「「はい」」」

父さんの後について歩くこと15分、訓練場の敷地の外にまで訓練中の隊員の発声が聞こえてくる。
父さんが訓練場に入ると、訓練中の隊員の一人が気付き、警備隊隊長のウルガに耳打ちする。
ウルガが手を挙げると、訓練していた全隊員が父さんの方を向く。

「「「「族長、おはようございます」」」」

全隊員の声がピタリと揃い、挨拶した後、また訓練に戻っていった。
ウルガは隊員の様子を確認した後、こちらに近寄ってくる。

「おはようございます、ガルア」
「おう、今日も早いな、お前達は」
「慣れと効率ですよ。この後、見回りに出る者もいますし」

そう言って歯を見せて笑う顔がとても爽やかである。

ウルガはこの国の下町の警備と周辺地域の治安維持を任されている警備隊の隊長である。
灰色の髪と瞳を持ち、隊長に選ばれるくらいの実力者なので程よい筋肉と獅子族特有のしなやかさを兼ね備えた理想の体躯をしている。隊員からも尊敬と憧れの対象で、父さんと人気を二分している。
そして、父さんの右腕でもある。

「今日はどうしますか」

ウルガは父さんに今日の予定を確認してくる。

「ラオスとイラザは隊員と一緒に訓練だ。シャウは罰として当分見学だけだ」
「罰? また何かやらかしたのかい?しょうがない子だね」

腰を屈め僕の顔を覗き込みながら、優しく笑って頭を撫でる。
ウルガは僕が小さい頃から家にやって来ては遊んでくれた兄のような存在だ。僕がどんな失敗や無茶をしても、優しく諭して最後には頭を撫でてくれた。だから最終的にウルガには素直に従ってしまう。

頭を撫でられほんわかしていると、バシッと音がしてウルガの手が振り払われる。

「いつまで撫でてるんだよ」

ラオスの低い声が聞こえてくれば

「へーぇ、貴方、ロリコンだったんですか、知りませんでした。危険人物だったんですね。シャウ、そんな危険な人に近づいてはいけません」

イラザは人を馬鹿にしたような笑いを含んだ声をウルガに向けていた。
二人はウルガからの視界を遮るように、僕の前に立ち塞がる。

ーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーー

あまりのことに、固まっていた僕は慌てて二人の腕を掴む。

「なに失礼なこと言ってるんだよ! 今日の二人はおかしいよ」

僕が必死に腕を引っ張っても見向きもしないで、ずっと睨みつけたままだ。まるで毛を逆立てて威嚇している猫のようだ。いや獅子族だから獅子のようだ、になるのか?
ウルガの頭なでなでなんて、いつものことなのだし、二人だっていつも笑って見ていたはずなのに、今日に限ってはいつもと違うことばかり。
何がなんだか全然分からない。


「っははははっ!!!」
「ック、クッ、ククク!!」

突然響いてきた笑い声に、声の主を見てみると、父さんとウルガがお腹を抱えてわらっていた。

「なるほどなっ」
「クッ、そういうことだ」

まだ可笑おかしそうにしながらも、二人だけは納得がいっているようだった。
ラオスとイラザは嗤い声に驚いた後、苦虫をかみ潰したようなしかめ面をした。
そして、ラオスは両手で顔を隠し「あー…」と声を漏らしながら天を仰ぎ、イラザは片手で顔を隠して俯いていた。

僕ひとりだけがよくわかっていないみたいな感じになって、だんだん苛ついてきた。

「なんだよ、もう。僕にもわかるように説明して!」

頬を膨らませて抗議すれば

「まあ、気にするな」
「そうだよ、たいしたことではない」

父さんやウルガはそう言って僕の頭をぽんぽんしてくる。
絶対教えてくれ無さそうな空気を感じたので、ラオスやイラザに説明してもらおうと、ジト目を向ける。
向けられたラオスとイラザは慌てて言い募ってくる。

「そう!何でもないんだ、ほんとに」
「そうです!気にしないでください」

二人はいつになく顔を紅くして必死に訴えてくる。
まったく説明をする気がないのには不満を感じたけど、これだけは言わないと、とラオスとイラザの目を見つめる。

「でもさっきのは良くないよ」

それについては二人とも反論はないのか、ウルガに向き直り、頭を下げた。

「先ほどは大変失礼なことをいたしました。申し訳ありません」
「大変失礼な物言ものいいをしてしまい、申し訳ありませんでした」

「いい、いい、本能的なものだろ? ただし、今回は俺だったからこれで済んだが、他の者には通用しない。肝にめいじておけよ」

応えるウルガには怒りの感情もなく年下の若者を諭すように言葉を投げかけている。

「はい」
「肝に銘じます」

僕だけは全然納得いかなかったけど、真剣な眼差しで返事を返す姿に、とりあえず喧嘩にならなくて良かったと思った。





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