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45 ウルミスの告白
しおりを挟むクトラの気持ちを知ってから二日経っていた。
次はダウール様に頼まれたように、ウルミス様のところへ行って、元気になれるように話を聞いたり励ましたりしなければ、とは思っているのだけれど……。ウルミス様に嫌われているとわかっているから訪ねていくのも気が引けていた。嫌がっている相手のところへ行くのは嫌がらせにしかならないのではないだろうかとも思うとやはり訪ねて行けなかった。
ウルミス様にはズルいと泣かれ、嫌いと言われたときから一度も会っていなかった。
あの時以降、体調を崩されたのか部屋から出てこなくなって、それで会う機会がなくなったとも言えるんだけど……。
だからこそウルミス様がセイリャン様に攻撃されることもなくなり、不正行為に勤しんでいたセイリャン様の証拠集めは容易だった。
うーん。
どうしたらいいだろうか。
ずっと考えていても、答えが出せない。
ウルミス様のことがやはり嫌いにはなれなかったから、できれば仲良くなりたいと思っているけれど、ウルミス様から見たらフィーリアは妃候補のライバルでしかないし、嫌われているし……。
迷惑にはなりたくない。その思いが強すぎて身動きが取れなかった。
いい方法が思い浮かばず、どうしようと悩んでウルミス様のところへ行けずじまいで、二日経ってしまった。
ハウリャンが毎朝変わらずその夜、誰の部屋へと夕食に行くかを伝言に来ているので、ダウール様が今日ウルミス様と食事を取ることを知っていた。
食事を済ませ、なんとなくモヤモヤとした気持ちになったフィーリアはラマを伴って夜の散歩に出ることにした。クトラから聞いて気になっていた東屋へと足を向けると、話し声が聞こえてくる。目的地である東屋の一つに先客がいるようだった。
先客の邪魔をするつもりはなかったけれど、東屋から眺める星空が綺麗だと聞いていたので、気分転換のために来たフィーリアは先客の邪魔にならないなら離れた東屋の一つで星空を見ようと、誰が居るのかを確認するためにそのまま足を進めた。
声がはっきりと聞こえてくるようになると、男性の話し声と、その声にたまに相づちを打つ女性の声が聞こえてきた。
なんとなく聞き覚えのある声だなと思って足を進めていると、大きなため息が聞こえてきた。
「はあー、俺はそんなに男としての魅力がないのだろうか」
まさかと思って、目の前の角から東屋がある方を覗けば、月明かりに照らされたダウール様が見えた。
初めて見る弱気なダウール様は項垂れ、その口から弱音が零れ落ちる。
「っ、そんなことございません。……わたくしは素敵だと思っております」
姿は東屋の陰に隠れて見えなかったけれど、ウルミス様の声だった。
「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。慰めてくれるなんてウルミス嬢は優しいな」
「……ぉ世辞ではございません。わたくしはダウール様をお慕いしておりますから、本気で言っ──っ!」
聞こえてきた言葉は途中で途切れた。
フィーリアはウルミス様の口にした言葉に息を呑み、胸が張り裂けんばかりにドクドクと打ち始める。
「……ウルミス嬢?」
戸惑ったようなダウール様の声が響く。
「──っ、失礼いたします」
顔を両手で隠して逃げるように東屋から走り去るウルミス様を、追いかけ損なったように手を伸ばした状態のダウール様の顔には驚きが浮かんでいた。
その顔が次第に戸惑いと照れたような僅かばかりの嬉しさを浮かべた。
ダウール様もウルミス様の気持ちがわかったのだろう。
ダウール様のその顔を見て、胸が先ほどよりもより一層締め付けるように激しく掻き鳴らした。
苦しい。……なんでこんなに苦しいんだろう。
これでダウール様とウルミス様は両想いになって結ばれる。
喜ばしいはずなのに、願っていたはずなのに、どうして嬉しく思えないのだろう。
……なんでこんなに胸が痛いの。
自分の不可解な苦しみに、意味がわからなかった。
「……お嬢様」
そっと囁くように声をかけられ、そういえば側にラマがいたことを思いだした。
「大丈夫でございますか?」
心配しているのがわかって、動揺して言葉を詰まる。
「えっ、あっ、大丈夫」
ラマから見ても分かるほどに不自然な態度を取っていると指摘され、咎められたようで後ろめたくなる。
ラマにはウルミス様を応援すると言っていたのに、今その瞬間を見たのに喜ぶことが出来なかった。
「……部屋に戻る」
「かしこまりました」
ラマの視線を避けるように俯き、早足でその場を去る。
今は誰にも顔を見られたくなかった。酷い顔をしているとわかっていたから。
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