上 下
49 / 67

45 ウルミスの告白

しおりを挟む

 クトラの気持ちを知ってから二日経っていた。
 次はダウール様に頼まれたように、ウルミス様のところへ行って、元気になれるように話を聞いたり励ましたりしなければ、とは思っているのだけれど……。ウルミス様に嫌われているとわかっているから訪ねていくのも気が引けていた。嫌がっている相手のところへ行くのは嫌がらせにしかならないのではないだろうかとも思うとやはり訪ねて行けなかった。

 ウルミス様にはズルいと泣かれ、嫌いと言われたときから一度も会っていなかった。
 あの時以降、体調を崩されたのか部屋から出てこなくなって、それで会う機会がなくなったとも言えるんだけど……。
 だからこそウルミス様がセイリャン様に攻撃されることもなくなり、不正行為にいそしんでいたセイリャン様の証拠集めは容易だった。

 うーん。
 どうしたらいいだろうか。
 ずっと考えていても、答えが出せない。
 ウルミス様のことがやはり嫌いにはなれなかったから、できれば仲良くなりたいと思っているけれど、ウルミス様から見たらフィーリアは妃候補のライバルでしかないし、嫌われているし……。
 迷惑にはなりたくない。その思いが強すぎて身動きが取れなかった。
 いい方法が思い浮かばず、どうしようと悩んでウルミス様のところへ行けずじまいで、二日経ってしまった。

 ハウリャンが毎朝変わらずその夜、誰の部屋へと夕食に行くかを伝言に来ているので、ダウール様が今日ウルミス様と食事を取ることを知っていた。
 食事を済ませ、なんとなくモヤモヤとした気持ちになったフィーリアはラマを伴って夜の散歩に出ることにした。クトラから聞いて気になっていた東屋へと足を向けると、話し声が聞こえてくる。目的地である東屋の一つに先客がいるようだった。
 先客の邪魔をするつもりはなかったけれど、東屋から眺める星空が綺麗だと聞いていたので、気分転換のために来たフィーリアは先客の邪魔にならないなら離れた東屋の一つで星空を見ようと、誰が居るのかを確認するためにそのまま足を進めた。

 声がはっきりと聞こえてくるようになると、男性の話し声と、その声にたまに相づちを打つ女性の声が聞こえてきた。
 なんとなく聞き覚えのある声だなと思って足を進めていると、大きなため息が聞こえてきた。

「はあー、俺はそんなに男としての魅力がないのだろうか」

 まさかと思って、目の前の角から東屋がある方を覗けば、月明かりに照らされたダウール様が見えた。
 初めて見る弱気なダウール様は項垂れ、その口から弱音が零れ落ちる。

「っ、そんなことございません。……わたくしは素敵だと思っております」

 姿は東屋の陰に隠れて見えなかったけれど、ウルミス様の声だった。

「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。慰めてくれるなんてウルミス嬢は優しいな」
「……ぉ世辞ではございません。わたくしはダウール様をお慕いしておりますから、本気で言っ──っ!」

 聞こえてきた言葉は途中で途切れた。
 フィーリアはウルミス様の口にした言葉に息を呑み、胸が張り裂けんばかりにドクドクと打ち始める。

「……ウルミス嬢?」

 戸惑ったようなダウール様の声が響く。

「──っ、失礼いたします」

 顔を両手で隠して逃げるように東屋から走り去るウルミス様を、追いかけ損なったように手を伸ばした状態のダウール様の顔には驚きが浮かんでいた。
 その顔が次第に戸惑いと照れたような僅かばかりの嬉しさを浮かべた。
 ダウール様もウルミス様の気持ちがわかったのだろう。

 ダウール様のその顔を見て、胸が先ほどよりもより一層締め付けるように激しく掻き鳴らした。

 苦しい。……なんでこんなに苦しいんだろう。

 これでダウール様とウルミス様は両想いになって結ばれる。
 喜ばしいはずなのに、願っていたはずなのに、どうして嬉しく思えないのだろう。
 ……なんでこんなに胸が痛いの。

 自分の不可解な苦しみに、意味がわからなかった。

「……お嬢様」

 そっと囁くように声をかけられ、そういえば側にラマがいたことを思いだした。

「大丈夫でございますか?」

 心配しているのがわかって、動揺して言葉を詰まる。

「えっ、あっ、大丈夫」

 ラマから見ても分かるほどに不自然な態度を取っていると指摘され、咎められたようで後ろめたくなる。
 ラマにはウルミス様を応援すると言っていたのに、今その瞬間を見たのに喜ぶことが出来なかった。

「……部屋に戻る」
「かしこまりました」

 ラマの視線を避けるように俯き、早足でその場を去る。
 今は誰にも顔を見られたくなかった。酷い顔をしているとわかっていたから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もふもふうさぎの元最強魔術師~無実追放されたオレ。本当は草うめぇぇして引きこもっていたいけど……。草ぱわーで大事な人を守り、地上を目指す~

花月夜れん
ファンタジー
【短いあらすじ】  追放されて、うさぎになった。草うめぇー!もふうさライフ楽しむぜ!のつもりだったけど。オレ、やっちまった。 【長いあらすじ】  最強魔術師だった主人公ユーリ。彼は生還者と呼ばれる祖父を持っていた。祖父は錬金術や優れた魔術を使えた。それらはある穴から生還して得た物なのだそうだ。虚空の穴と呼ばれるすべてを飲み込む穴。一度中に入ってしまえば、脱出はほぼ不可能。そんな穴から生還した祖父から知恵を受け継いでいるだろうと主人公は穴に放り込まれた。二人目の生還者に仕立て上げるために。  放り込まれた主人公が目を覚ますとそこにいたのはたくさんのもふもふうさぎ達。  自身もその中の一匹、白いうさぎになっていた。  おぉ、これがじーちゃんの言っていた世界か!  ちょうど今世に絶望していた主人公はここで草うめぇぇぇを楽しむことにした。可愛い番の茶耳うさぎもいることだしっ!!――と。  これは覚えているかぎり【四度目】の人生がうさぎ生になってしまった男が草うめぇぇぇぇぇぇしながら、茶耳うさぎ獣人やボクっ娘竜人、三眼幼女と一緒に旅するお話。  守りたい。その思いとともに――。

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

巻き戻りした令嬢はあなた達を許さない!

にのまえ
恋愛
 婚約者が持ってきた、毒入りクッキーを食べて死んだわたしは巻き戻りした。  わたしの死もだけど、無実の人に罪をなすりつけたのは許さない!

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

【完結】私は私で、運命の相手を探しているので、あなたにはかまえない。

BBやっこ
恋愛
「君、靴にサイズはいくつだ?」そう訊いてきたのは、お貴族様らしい顔の整った男子生徒。 制服から、1歳年上。ヤバい感じがする。 いきなり聞いてくることもだが、その質問の連想した事象に気づかないふりをした。 だって、私にも選ぶ余地は欲しいんです。

私の婚約者に、私のハイスペックな後輩が絡みまくるお話

下菊みこと
恋愛
自分のことは棚にあげる婚約者vs先輩が大好きすぎる後輩。 婚約者から先輩をもぎ取る略奪愛。 御都合主義のハッピーエンド。 ざまぁは特になし。 小説家になろう様でも投稿しています。

(完結〉恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜 え? 私のことはお気になさらずに

にのまえ
恋愛
夏のおとずれ告げる王城主催の舞踏会。 この舞踏会に、婚約者のエスコートなく来ていた、公爵令嬢カサンドラ・マドレーヌ(18)は酔って庭園にでてきた。 酔いを冷ましながらバラ園の中を歩き、大昔国を護った、大聖女マリアンヌの銅像が立つ噴水の側で。 自分の婚約者の皇太子アサルトと、妹シャリィの逢瀬を見て、カサンドラはシャックを受ける。 それと同時にカサンドラの周りの景色が変わり、自分の悲惨な未来の姿を垣間見る。 私、一度死んで……時が舞い戻った? カサンドラ、皇太子と婚約の破棄します。 嫉妬で、妹もいじめません。 なにより、死にたくないので逃げまぁ〜す。 エブリスタ様で『完結』しました話に 変えさせていただきました。

処理中です...