6 / 67
5 王様が来ました
しおりを挟む「お嬢様、国王陛下がいらっしゃいました」
「えっ?」
ウルミス様が帰った後は来客もなく、ラマは中断していたフィーリアの部屋の確認を進めていた。
その間フィーリアは邪魔をするわけにもいかなかったので、大人しく窓から見える景色を眺めて時間を潰していた。来たばかりでその辺を探索するのは流石に良くないと思い、出歩きたい欲求を抑え、静かにお茶を飲みつつ窓から見える風景を観賞した。
陽も暮れて、室内に灯りが灯され始めた頃になると、ラマもようやく一段落ついたのか、フィーリアの元へと戻ってきた。そして、夕食の支度をいたしますと言って、テーブルの上に並べられていく料理を見て驚いた。とてもひとりでは食べきれる量ではない料理の数々が、テーブルの上に並んでいた。もしかしなくとも、お城ではこの量が一人前なのだろうか。だとしたら、次からはもっと減らしてもらおうとラマを呼ぼうとしたら、国王陛下の来訪を告げられたのだ。
「お兄が来たの?」
「はい。お通ししてよろしいですか?」
「お願い」
フィーリアの返事を聞いたラマは、すぐにお兄を連れて戻ってきた。
「おう、ちょうど良いタイミングだったみたいだな」
部屋に入ると同時に、お兄はテーブルの上に並べられた料理を見て、笑顔になる。
「旨そうだな」
そういって直ぐさまフィーリアの向かいの席に座った。
当たり前のように席に座るお兄を見て驚く。
「もしかして、一緒に食べるの?」
「そうだが、聞いてないのか?」
不思議そうに見返すお兄を見て、フィーリアは事情を知っていそうなラマを見る。
「仕事が終わったら、いらっしゃると伺っておりました。しかし、その伝言を伝えにいらした侍従は無理でしょうとも仰っておりましたので、確定になるまではお伝えしないことにいたしました」
お兄に対しては何故か昔から厳しいラマは、曖昧なものはないものとして扱っていた。今回も確証が得られるまではフィーリアに伝えるつもりはなかったのだろう。実家にいれば、必ずお兄が直接来る前に連絡が入るけれど、お城ではまだ伝達がしっかりしていないということだろうか。
……それとも、まだ仕事が終わっていないのに来たのだろうか。
「そうなんだ」
フィーリアはお兄に向き直り、一応確認してみることにした。
「お兄、お仕事終わったんだよね?」
「……まあな」
僅かな間があった後、首の後ろをなぞっている。後ろめたいことがあるときの仕草だった。
「本当に?」
フィーリアの疑うような視線に、すぐに観念するように息を吐き出し、非を認めた。
「──明日、やるから大丈夫だ」
そして目の前にある料理を食べ始めた。
「それよりも、冷めないうちに食べないとな。──んー、フィーリアと食べる飯は旨いなあ」
どうやら強引に話題を変えるつもりのようだ。
呆れて見ているフィーリアの前で、一口二口食べると「これ旨っ」と言って、料理を夢中で食べ出したお兄に、とても心配になってきた。
……もう、本当に大丈夫なのだろうか。
じっと見つめて動かないフィーリアに、お兄は不思議そうに食べていた手を止めた。
「食べないのか? 旨いぞ?」
フィーリアの心配をよそに、またパクパクと動くお兄の口の中に料理が消えていき、テーブルの上にあった料理がどんどん減っていく。
「……食べるけど、──いただきます」
心配する必要がないかのようなお兄の姿に、一度息を吐いてフィーリアは目の前の料理に目を向けた。
湯気が立ちのぼるスープ、新鮮な野菜たっぷりのサラダ、食欲をそそる香ばしいソースがかかった肉料理。他にも色とりどりの料理に、フィーリアのお腹が刺激されて、気がつけば夢中で食べていた。
多いと思っていた料理の大半は、お兄の為に用意されていたようで、三分の二をお兄が食べ、たくさんあった料理は綺麗になくなった。
お城の料理は、実家の料理に負けず劣らずとても美味しかった。
「お茶をご用意いたしました」
食事が終わったところでラマに声をかけられ、お兄とフィーリアはゆったりと座れる長椅子へと移動した。その前にあるテーブルにお茶を用意すると、ラマは食事を終えた食器を片づけ始めた。
一口お茶を飲んだお兄は、フィーリアに向き直った。
「それにしても、本当に綺麗になったな」
突然真面目な顔をして、お兄の手がフィーリアの顔に伸びる。
すると、ラマから鋭い咳払いがする。それを聞いたお兄はピタリと伸ばしていた手を止めた。
「本当に俺には容赦ないよな」
「お兄?」
「何でもないさ」
そう言うと、お兄は座っていた長椅子に身体を投げ出して横になる。
ダラッと手足を広げて寝転んだ姿はとてもだらしなかった。そんな姿を見ると、本当に国王陛下になったのか疑問を感じてしまう。国王陛下ってもう少し威厳とか必要ないのだろうか。
まあ、四年前まではよく見ていた姿なのだけれど。
「なあ、フィーリア」
「なぁに?」
「……気になる奴とかいたか?」
窺うような物言いに、お兄を見つめる。
気になる奴?
それは同じ妃候補者の中で、という意味だろうか?
「二人……」
「二人?!」
ガバリと起き上がり、フィーリアの肩を掴む。
「誰だ?」
「ニルン様とウルミス様」
お兄が自分の妃候補を知らないとは思えないけれど、フィーリアからの印象も聞きたいのだろうか。
そう思って、口を開こうとしたフィーリアの前で、お兄が深いため息をついた。
「いや、大丈夫だ。知っている」
「そう?」
「ああ」
お兄は疲れたように、また長椅子に横になった。ぐったりした様子に仕事の疲れでも出たのかと流石に心配になり、ラマにかけるための布を持ってきてもらうようにお願いする。少しの間だけでも休んで元気になってもらおうと思った。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる