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44・ちょっと不穏な授業参観2
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案の定、そう言われた男は怒りで顔を真っ赤にしていて、周りの他の傭兵たちも少しざわついている。
まだこの世界に足を踏み入れたばかりの、ファルコを含めた騎士見習いの少年たちは言わずもがな。
どう反応していいかすらわからないまま、オロオロと事態を見守るしかできない。
「戦場から戦場を渡り歩いてきた貴公ら傭兵の、その生き方を否定するつもりはない。
こちらとしても此度の戦争を終わらせる為に、協力を仰いでいる立場なのだから。
だが、貴公らも心のどこかで、己の将来の危うさを感じているからこそ、私の講義を受けたいと申し出てきたのではないのか?」
それでもあくまでも穏やかに諭すバアル様の言葉に、ざわついていた傭兵たちの目が、少しずつ変化していく。
だが、最初に絡んできた男だけは、呆れたように鼻で笑った。
「はっ……何を言ってんだ。
さっきも言ったろう。俺たちはこの国の『英雄』から剣技と戦法を学んで、次の戦場に…」
「講義がつまらぬと思うならばおまえが出ていけ。
真面目に授業を受けたい者には、迷惑だ。」
男の言葉を遮ったのは、別の傭兵の言葉だった。
男らしく通る声には、どこか色気もあり…これは。
「迷惑だと!?
リョウ、お前がなんでこんな戯言に耳を傾ける?
そもそもこの国の『英雄』は、お前の祖国にとっては『仇』だろうが!」
「戯言を抜かしているのは貴様だ、クラーク。
もう一度言う。
講義を受ける気がないなら出ていけ。
……教官殿、邪魔をして申し訳ない。
差し支えなくば、講義を続けて欲しい。」
彼の言葉で、他の傭兵たちが完全に静まり、文句を言っていたクラークと呼ばれた男だけが、言われた通り教室から出ていく。
どうやら傭兵たちの(厳密にではないのだろうが)リーダー格なのであろうその男は、ファルコの真後ろの席から立ち上がるとバアル様と、更に見習い騎士の少年たちにも一礼して、詫びの意を示した。
短く整えられてはいるが、やや癖の強そうな黒髪と、この国ではまず見かけない黒い瞳の、20代半ばの男。
急誂えの騎士服の襟を寛げた首元に、薄手のスカーフ?マフラー?が見える。
あとは額に白い鉢巻があれば、前世で好きだった格闘漫画の主人公が出来上がるが、恐らくはそこまですると訴えられかねないから、そのデザインは諦めたのだろうというのが、当時のファンの見解だった。
「君は………東の国の生き残りか。」
その男に歩み寄ったバアル様が、やや固い声で問う。
黒髪と黒い瞳を持つ民が住まう東の国との戦争が、国民が一斉自決して終わったというのは、ちょうど私が生まれた頃の戦史だ。
最初にこの大陸に攻め込んできた一軍を、バアル様をはじめとした初陣の騎士たちが奇抜な作戦で殲滅したというのが、この国で語られるバアル英雄譚の始まりだった筈。
なので、確かにかの国の生き残りというのであれば、英雄バアルは故国の仇であるわけだが……
「血筋はそうらしいが、俺が生まれたのも育ったのもこの大陸だ。
祖国の記憶など、俺に欠片もあろうはずがない。
何故かは今となっては知りようもないが、母はひとふりの剣を携え、俺を腹に宿した状態で海を渡ったという。
そしてこの大陸で俺を生み、それから1年も経たぬうちに祖国は滅びたと。
数年前に旅の空にて、その母も亡くしたあと、己が血を示すものはこの瞳の色と、こいつしかない。」
言って男は、傍に置いた己の剣をバアル様に示した。
それを見たバアル様の目が、驚きに瞠かれる。
「それは……よもや神剣・千年桜!?」
「…知っているのですか、バアル殿?」
「うむ…東の国に伝わる片刃の剣で、あるじが斬れと命じたものならば全てを斬り裂くと言われる名剣…!
だが、あるじと認められるのは、フォルタンとアルマの眷属同士が結ばれて生まれた『水神』の血を持つ、皇家の者だけという……では、君は。」
「俺は知らないが、母の話ではそうらしい。
だが、俺はこいつに『あるじ』とは認められていないゆえ、今のこいつはただの『カタナ』にすぎない。」
淡々と結構重要なことを語る彼が、初めてバアル様と目を合わせる。
一瞬の瞳と瞳の交錯の後、重い声でバアル様が問うた。
「……君の、名を聞かせてくれぬか。」
「リョウ・ミカミ。
祖国ではこちらとは名と姓の並びが逆ゆえ、あちらでは水神 竜王ということになる。」
かつて私の推しキャラだった神剣持ちの傭兵リョウ・ミカミは、出会いイベントでの台詞を一語一句、違える事なく名乗りをあげていた。
…てゆーかさっき『知っているのか○電!?』的な合いの手入れたの誰?
リョウ・ミカミ
戦争確定の世情の中、バルゴ王国から派遣された、一騎当千といわれる食客騎士。
26歳。声優:森英樹。
かつて帝国との戦の末、王以下国民の集団自決という形で滅亡した東の国の生き残り。
といっても国が滅亡したのが彼が1歳にもならない時期で、彼自身に故郷の記憶はなく、その血筋を証明するのは皇族の証の神剣のみ。
その神剣『千年桜』は、あるじが斬れと命じたものならば全てを斬り裂くと言われるが、彼自身はそれを使いこなせておらず、その真の力を発揮できぬまま、現在は通常の剣として使っている。
ゲームのシナリオではマリエルやファルコと交流し共に戦うことで、眠れる神剣を目覚めさせていくストーリーとなる。
名前はかの国の文字で書くと『水神竜王』。
ヴァーナの前世の人の推しで、某少年漫画の主人公のオマージュ。
…と、これまでの流れならここにイラスト入るんだが、コイツだけはイラストまで描いたら訴えられそうなので無理。
まだこの世界に足を踏み入れたばかりの、ファルコを含めた騎士見習いの少年たちは言わずもがな。
どう反応していいかすらわからないまま、オロオロと事態を見守るしかできない。
「戦場から戦場を渡り歩いてきた貴公ら傭兵の、その生き方を否定するつもりはない。
こちらとしても此度の戦争を終わらせる為に、協力を仰いでいる立場なのだから。
だが、貴公らも心のどこかで、己の将来の危うさを感じているからこそ、私の講義を受けたいと申し出てきたのではないのか?」
それでもあくまでも穏やかに諭すバアル様の言葉に、ざわついていた傭兵たちの目が、少しずつ変化していく。
だが、最初に絡んできた男だけは、呆れたように鼻で笑った。
「はっ……何を言ってんだ。
さっきも言ったろう。俺たちはこの国の『英雄』から剣技と戦法を学んで、次の戦場に…」
「講義がつまらぬと思うならばおまえが出ていけ。
真面目に授業を受けたい者には、迷惑だ。」
男の言葉を遮ったのは、別の傭兵の言葉だった。
男らしく通る声には、どこか色気もあり…これは。
「迷惑だと!?
リョウ、お前がなんでこんな戯言に耳を傾ける?
そもそもこの国の『英雄』は、お前の祖国にとっては『仇』だろうが!」
「戯言を抜かしているのは貴様だ、クラーク。
もう一度言う。
講義を受ける気がないなら出ていけ。
……教官殿、邪魔をして申し訳ない。
差し支えなくば、講義を続けて欲しい。」
彼の言葉で、他の傭兵たちが完全に静まり、文句を言っていたクラークと呼ばれた男だけが、言われた通り教室から出ていく。
どうやら傭兵たちの(厳密にではないのだろうが)リーダー格なのであろうその男は、ファルコの真後ろの席から立ち上がるとバアル様と、更に見習い騎士の少年たちにも一礼して、詫びの意を示した。
短く整えられてはいるが、やや癖の強そうな黒髪と、この国ではまず見かけない黒い瞳の、20代半ばの男。
急誂えの騎士服の襟を寛げた首元に、薄手のスカーフ?マフラー?が見える。
あとは額に白い鉢巻があれば、前世で好きだった格闘漫画の主人公が出来上がるが、恐らくはそこまですると訴えられかねないから、そのデザインは諦めたのだろうというのが、当時のファンの見解だった。
「君は………東の国の生き残りか。」
その男に歩み寄ったバアル様が、やや固い声で問う。
黒髪と黒い瞳を持つ民が住まう東の国との戦争が、国民が一斉自決して終わったというのは、ちょうど私が生まれた頃の戦史だ。
最初にこの大陸に攻め込んできた一軍を、バアル様をはじめとした初陣の騎士たちが奇抜な作戦で殲滅したというのが、この国で語られるバアル英雄譚の始まりだった筈。
なので、確かにかの国の生き残りというのであれば、英雄バアルは故国の仇であるわけだが……
「血筋はそうらしいが、俺が生まれたのも育ったのもこの大陸だ。
祖国の記憶など、俺に欠片もあろうはずがない。
何故かは今となっては知りようもないが、母はひとふりの剣を携え、俺を腹に宿した状態で海を渡ったという。
そしてこの大陸で俺を生み、それから1年も経たぬうちに祖国は滅びたと。
数年前に旅の空にて、その母も亡くしたあと、己が血を示すものはこの瞳の色と、こいつしかない。」
言って男は、傍に置いた己の剣をバアル様に示した。
それを見たバアル様の目が、驚きに瞠かれる。
「それは……よもや神剣・千年桜!?」
「…知っているのですか、バアル殿?」
「うむ…東の国に伝わる片刃の剣で、あるじが斬れと命じたものならば全てを斬り裂くと言われる名剣…!
だが、あるじと認められるのは、フォルタンとアルマの眷属同士が結ばれて生まれた『水神』の血を持つ、皇家の者だけという……では、君は。」
「俺は知らないが、母の話ではそうらしい。
だが、俺はこいつに『あるじ』とは認められていないゆえ、今のこいつはただの『カタナ』にすぎない。」
淡々と結構重要なことを語る彼が、初めてバアル様と目を合わせる。
一瞬の瞳と瞳の交錯の後、重い声でバアル様が問うた。
「……君の、名を聞かせてくれぬか。」
「リョウ・ミカミ。
祖国ではこちらとは名と姓の並びが逆ゆえ、あちらでは水神 竜王ということになる。」
かつて私の推しキャラだった神剣持ちの傭兵リョウ・ミカミは、出会いイベントでの台詞を一語一句、違える事なく名乗りをあげていた。
…てゆーかさっき『知っているのか○電!?』的な合いの手入れたの誰?
リョウ・ミカミ
戦争確定の世情の中、バルゴ王国から派遣された、一騎当千といわれる食客騎士。
26歳。声優:森英樹。
かつて帝国との戦の末、王以下国民の集団自決という形で滅亡した東の国の生き残り。
といっても国が滅亡したのが彼が1歳にもならない時期で、彼自身に故郷の記憶はなく、その血筋を証明するのは皇族の証の神剣のみ。
その神剣『千年桜』は、あるじが斬れと命じたものならば全てを斬り裂くと言われるが、彼自身はそれを使いこなせておらず、その真の力を発揮できぬまま、現在は通常の剣として使っている。
ゲームのシナリオではマリエルやファルコと交流し共に戦うことで、眠れる神剣を目覚めさせていくストーリーとなる。
名前はかの国の文字で書くと『水神竜王』。
ヴァーナの前世の人の推しで、某少年漫画の主人公のオマージュ。
…と、これまでの流れならここにイラスト入るんだが、コイツだけはイラストまで描いたら訴えられそうなので無理。
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