26 / 47
24・神官長は幸せになりたい
しおりを挟む
「ダリオ君は割といいセン行ってたけど、幼馴染みの距離から一歩も抜けて来ないのを見て、アタシもヘレナも諦めたんだよねー。
彼が距離詰めて来ないのを見て、こりゃ貴族以上でなきゃ嫁ぎ先ないわと判断したし。」
…この場合ダリオは関係ないんじゃなかろうか。
なんか私の流れ弾に当たってる気がする。
うむ、かわいそうなので弁護しておこう。
「ダリオは神殿ではモテてる筈よ?
わざわざ幼馴染みの嫁き遅れなんて貰わなきゃいけないほど困ってないでしょう。」
…だが、私がそう言うと何故か父は、頭痛を堪えるように眉間に指を当てた。
「あー…ヴァーナの中ではその認識なんだ…。」
「ね?不憫でしょう、ダリオ君…。
けど、彼が動かなかった結果がこれなわけだから、同情の余地は既にないってわけよー。
多分、メルクールも同じ結論だと思うわ。」
「…他の男よりは近い距離に驕って、それが兄弟の距離だってことに気がつくのが遅れたか、変に距離を詰めることで今の立場を失うことを恐れたのか…どっちなんだろうね?」
…両親が何を言っているのかわからない。
「そんなわけだからもう王子で妥協して、女なら諦めて頂点取りに行きなさい!」
「妥協という言葉の使いどころ間違ってましてよお母様!不敬すぎるわ!!」
ついに我慢できずにつっこむと、母はケタケタ笑い出した。
何に対してかさっぱり判らないが、どうやらツボ入ったぽい。滅べ。
つか妥協して諦めた結果頂点とかどういう状況なんだ。
『おれが引き受ける。必ず正妃にする。
ゆくゆくは王妃だ。そのつもりでいてくれ。』
…思い出すと急に心臓がばくばく言いはじめた。
口付けられた指が熱をもってる気がする。
「あ、今になってちょっと意識し始めた!?
王妃になるならないは別にしても、アローン君いいオトコだもんねー♪」
「違うから!」
母が4本目のショートブレッドを摘みながら茶化してくるのに、脳が揺れるくらい首を振る。
…まあよく考えれば、動揺して反射的に『いやです』とか言ってしまったが、あれは前世含めて記憶にある限り初めての、プロポーズと言える申し出だったのではなかろうか。
うむ、断るにしても、もうちょっと堪能しておくんだった。
というか、年齢を考えるとひょっとしたら、これが最後にして最大の結婚のチャンスだったかもしれないのになんで断ったんだ、私は!
……いや、理由はわかってる。
彼が攻略対象者だからだ。
今、何故かファルコの保護者には私がなってしまっており、それは明らかにヒロインの立ち位置であるが、当然私はヒロインではない。
何かの手違いで登場が遅れているのだろうが、そのヒロインが現れたなら、今は私に興味を示していたとしても、彼らはみんなヒロインに惹かれてしまうだろう。
下手にその気になって、後からやっぱりあっちがいいと捨てられるのは御免被る。
深入りしないうちに、逃げ道は確保しておくべきだ。
…まあ、メルクールだけは家族だし、ヒロインに惹かれたところで私を見捨てたりはしないと思うけど。
私が居ないと外に探しに出てしまうくらい懐いているファルコだって、ヒロインに会ってしまえば、あっという間にそちらに夢中になるのだろうし。
今、ファルコを育てているのは私なのに、という気持ちが正直なくもないわけだが、そこは思ったところで仕方ない。
そもそもファルコの私に対する気持ちは、幼児が『大きくなったらママと結婚する』と言ってるのと変わらない。
だとしたら、いずれは必ず子離れを経験しなくてはいけないのだ。
自分で産んだこともないのに親の立場とか複雑だけど。
…神官見習いで没落貴族の娘だったマリエルが、王妃になるエンディングが実はひとつだけある。
他でもない、勇者ファルコとのトゥルーエンドだ。
帝国との戦いを経て、託宣の通り救国の勇者となったファルコは、かねてから迎え入れられていた王宮にて、正式に王の養子となる。
その披露と、戦勝の宴の夜、本来なら既に手の届かない存在となったファルコへの想いに気がついたマリエルは、神殿の生活に戻る前にせめて気持ちだけでも伝えようと彼に会いに行き(この時、他にエンディング条件を満たした対象者がいる場合は選択肢が出る)、マリエルの想いを聞いたファルコから改めて愛を告白されて、『必ず迎えに行くから、待っていて欲しい』という言葉に頷いて、2人は誓いの口づけを交わす。
──数年後、即位した勇者王ファルコの隣には、白いティアラとウェディングドレスに身を包んだマリエルが立っており、ようやく結ばれた2人が民衆の祝福を受ける場面でエンドとなる。
まあ、結局はゲームだから、ストーリーはそこで終わるけども、現実には国を治めていくなかで、この先この2人、相当苦労するんだろうなと、今の私ならば普通に思う。
それでもマリエルは、没落したとはいえ貴族の娘。
根っから平民の私とは違う。うん絶対無理だ。
王子的には命を助けてくれた恩人の娘だが、だからって一介の商人の娘が王妃とか荷が重すぎる。
ゲーム通りに進むのなら、アローンが王になる未来は、それこそ例の勇者ヤンデレエンド以外にはないわけだが、むしろそのヤンデレエンドに進んだ場合が問題過ぎる。
意中の女を勇者に奪われ、望まなかった王位を押し付けられた失意の王を、支える形で公務や政務一切を取り仕切る形だけの王妃とか、もう過労死か陰謀の果ての毒殺という未来しか見えない。
うん、私の幸せはここじゃない筈だ。
それだったらいっそ結婚は諦めて大神官になる方が、まだ平穏な人生を送れそうな気がする。
彼が距離詰めて来ないのを見て、こりゃ貴族以上でなきゃ嫁ぎ先ないわと判断したし。」
…この場合ダリオは関係ないんじゃなかろうか。
なんか私の流れ弾に当たってる気がする。
うむ、かわいそうなので弁護しておこう。
「ダリオは神殿ではモテてる筈よ?
わざわざ幼馴染みの嫁き遅れなんて貰わなきゃいけないほど困ってないでしょう。」
…だが、私がそう言うと何故か父は、頭痛を堪えるように眉間に指を当てた。
「あー…ヴァーナの中ではその認識なんだ…。」
「ね?不憫でしょう、ダリオ君…。
けど、彼が動かなかった結果がこれなわけだから、同情の余地は既にないってわけよー。
多分、メルクールも同じ結論だと思うわ。」
「…他の男よりは近い距離に驕って、それが兄弟の距離だってことに気がつくのが遅れたか、変に距離を詰めることで今の立場を失うことを恐れたのか…どっちなんだろうね?」
…両親が何を言っているのかわからない。
「そんなわけだからもう王子で妥協して、女なら諦めて頂点取りに行きなさい!」
「妥協という言葉の使いどころ間違ってましてよお母様!不敬すぎるわ!!」
ついに我慢できずにつっこむと、母はケタケタ笑い出した。
何に対してかさっぱり判らないが、どうやらツボ入ったぽい。滅べ。
つか妥協して諦めた結果頂点とかどういう状況なんだ。
『おれが引き受ける。必ず正妃にする。
ゆくゆくは王妃だ。そのつもりでいてくれ。』
…思い出すと急に心臓がばくばく言いはじめた。
口付けられた指が熱をもってる気がする。
「あ、今になってちょっと意識し始めた!?
王妃になるならないは別にしても、アローン君いいオトコだもんねー♪」
「違うから!」
母が4本目のショートブレッドを摘みながら茶化してくるのに、脳が揺れるくらい首を振る。
…まあよく考えれば、動揺して反射的に『いやです』とか言ってしまったが、あれは前世含めて記憶にある限り初めての、プロポーズと言える申し出だったのではなかろうか。
うむ、断るにしても、もうちょっと堪能しておくんだった。
というか、年齢を考えるとひょっとしたら、これが最後にして最大の結婚のチャンスだったかもしれないのになんで断ったんだ、私は!
……いや、理由はわかってる。
彼が攻略対象者だからだ。
今、何故かファルコの保護者には私がなってしまっており、それは明らかにヒロインの立ち位置であるが、当然私はヒロインではない。
何かの手違いで登場が遅れているのだろうが、そのヒロインが現れたなら、今は私に興味を示していたとしても、彼らはみんなヒロインに惹かれてしまうだろう。
下手にその気になって、後からやっぱりあっちがいいと捨てられるのは御免被る。
深入りしないうちに、逃げ道は確保しておくべきだ。
…まあ、メルクールだけは家族だし、ヒロインに惹かれたところで私を見捨てたりはしないと思うけど。
私が居ないと外に探しに出てしまうくらい懐いているファルコだって、ヒロインに会ってしまえば、あっという間にそちらに夢中になるのだろうし。
今、ファルコを育てているのは私なのに、という気持ちが正直なくもないわけだが、そこは思ったところで仕方ない。
そもそもファルコの私に対する気持ちは、幼児が『大きくなったらママと結婚する』と言ってるのと変わらない。
だとしたら、いずれは必ず子離れを経験しなくてはいけないのだ。
自分で産んだこともないのに親の立場とか複雑だけど。
…神官見習いで没落貴族の娘だったマリエルが、王妃になるエンディングが実はひとつだけある。
他でもない、勇者ファルコとのトゥルーエンドだ。
帝国との戦いを経て、託宣の通り救国の勇者となったファルコは、かねてから迎え入れられていた王宮にて、正式に王の養子となる。
その披露と、戦勝の宴の夜、本来なら既に手の届かない存在となったファルコへの想いに気がついたマリエルは、神殿の生活に戻る前にせめて気持ちだけでも伝えようと彼に会いに行き(この時、他にエンディング条件を満たした対象者がいる場合は選択肢が出る)、マリエルの想いを聞いたファルコから改めて愛を告白されて、『必ず迎えに行くから、待っていて欲しい』という言葉に頷いて、2人は誓いの口づけを交わす。
──数年後、即位した勇者王ファルコの隣には、白いティアラとウェディングドレスに身を包んだマリエルが立っており、ようやく結ばれた2人が民衆の祝福を受ける場面でエンドとなる。
まあ、結局はゲームだから、ストーリーはそこで終わるけども、現実には国を治めていくなかで、この先この2人、相当苦労するんだろうなと、今の私ならば普通に思う。
それでもマリエルは、没落したとはいえ貴族の娘。
根っから平民の私とは違う。うん絶対無理だ。
王子的には命を助けてくれた恩人の娘だが、だからって一介の商人の娘が王妃とか荷が重すぎる。
ゲーム通りに進むのなら、アローンが王になる未来は、それこそ例の勇者ヤンデレエンド以外にはないわけだが、むしろそのヤンデレエンドに進んだ場合が問題過ぎる。
意中の女を勇者に奪われ、望まなかった王位を押し付けられた失意の王を、支える形で公務や政務一切を取り仕切る形だけの王妃とか、もう過労死か陰謀の果ての毒殺という未来しか見えない。
うん、私の幸せはここじゃない筈だ。
それだったらいっそ結婚は諦めて大神官になる方が、まだ平穏な人生を送れそうな気がする。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる