上 下
14 / 30
鋼神勇者

第12話 アジト

しおりを挟む


「おや、警察の方ですか?」

 四人で聞き込みを行う事で話がまとまり、朔太郎が呼び鈴を鳴らそうとしたその時、屋敷の扉が内側から開いた。
 屋敷には「有馬」と表札がかかっていた。

「パトカーが長い間、前に停まっていましたからね。何事かと思って出てきたのですよ」

 中から出てきたのは白髪をオールバックにしてひげを蓄えた紳士だった。
 屋敷にいたからか少しラフに着こなした、しかし上質な物だと一目で分かるシャツを着けている。ボトムはピシッと折り目正しくアイロンのかけられた黒のパンツである。
 一見して日本人に見えるが、彫りが深く外国の血が混じっているようにも見える。

「こちらにお住いのかたですか?」

「はい」

「これが警察手帳です。確認してください。こちらで密輸品を扱っているという通報がありましてね。いたずらだとは思いますが、念のため改めさせてもらってよろしいでしょうか?」

 先ほどの横柄な態度とは打って変わって丁寧な物腰の朔太郎である。
 そういう話し方もできるんだと城太郎は思った。城太郎に対する態度とは大違いである。見た目って大事だね。

「そのような事が!!。私には全く心当たりがないのですが……」

「令状も無いものですので、お断りいただいても構わないのですが我々も通報があった以上、捜査をしないわけにもいきませんので」

「分かりました。私もいわれの無い疑いを掛けられたままでは寝覚めが悪いです。どうぞお入りください」

「ご協力感謝します」

「その……そちらの子供さんは……」

「あー、警察の協力者の様な物です。気にしないでください」

「は、はあ」

 城太郎たちは屋敷に招き入れられた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 最初、城太郎はこの屋敷に忍び込むつもりだった。
 真正面から尋ねて行って管轄外の捜査を愛知県警にでも抗議されたら面倒な事になるからだ。
 
 しかし、所轄署が正式に聞き込みを行うなら渡りに船だ。
 厳重な警備装置が仕掛けられているであろう場所に堂々と踏み込んで捜査できるからだ。
 なかなかしっぽを掴ませないだろうが、わずかでも証拠を掴めればいい。

 というか、いきなり銃撃戦になっても困るので、この犯人にはさいごまでしらばっくれていてもらいたい。

「まずはお飲物でもいかがですか?お茶請けもありますよ」

 最初に応接室に通された後、そう勧められた。

「お、そうですか。悪いですね」

 朔太郎は悪びれもせず応じる。いわれもしないのにソファに腰かける。若い警官もそれに続いた。

 おいおい、捜査先で飲食物を貰っていいのか?収賄的な物にならないか?とは思ったが城太郎は黙っていた。管轄違いだしね。

「そちらの子供さんもどうです?」

 城太郎は首を振ると入口のそばに立った。

「そちらのかたは?」

「いえ、結構」

 杉多巡査部長も城太郎に倣う。

 ちりんちりん。

 白髪の紳士がベルを鳴らすと、年若いメイドさんがワゴンを押して入ってきた。
 紳士と警官たち二人の前にティーカップを置くと紅茶をそそぎ、お茶請けの入った皿を出す。

「いただきます。おいしいですな」

「ありがとうございます。当家では良いものを揃えていますので」

「そうですか。さっそくですがお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「有馬 雄一郎と申します」

「お仕事の方は何を?」

「小さいながらも商社を営んでおります」

 朔太郎が巡回連絡カードに個人情報を書き込む。警官がを個人宅をまわって収集した情報を書き込む書類だ。災害時の安否確認にも使われる。

「こちらはご自宅で?」

「ええ。わずかばかりの使用人と共に住んでおります」

「ご家族は?」

「妻に先立たれましてね。親戚づきあいもありません」

「会社の住所と電話番号を教えていただけますかな?このお屋敷の番号も」

「ええ、分かりました。おい、君」

 有馬氏はメイドを呼ぶと一枚の紙と名刺を持ってこさせた。

「こちらが会社のパンフレットで連絡先も書いてあります。この名刺は私の個人の物ですな。携帯と下の番号がこの屋敷のものです」

「ふうん。港区ですか?何を扱っているのですか?」

 城太郎はひょこっと顔をだしてパンフレットを覗き込むと聞いた。

「おいこら」

「石油を扱っていますよ」

 朔太郎が咎めるが有馬氏は気にしていないようだ。

「石油会社でも無いのに?」

「現地に行って買い付けて大手の石油会社に売っているのですよ。もちろん輸送は石油会社の船を使ったりしますが。あんがい我々のような中小や個人のエージェントも活躍しています」

「でも、大変でしょう。石油だと日本の反社会勢力が噛んでいる事もあるし、仕入れ先によっては基軸通貨を握っている国が決済を止めてしまうこともある。よほど強いコネをお持ちのようだ」

「良縁に恵まれましてね。小さいのによくご存じだ」

「こちらには以前から住まれているのですか?」

「何年か前に購入しましてね。改築したのですよ」

「こんな不便な所に?会社にも遠い」

「都会の喧騒を離れて静かなところで暮らしたかったのですよ。辺鄙な所だといっても車を飛ばせばすぐ市内に出ますし、会社は部下に任していましてね。ほぼ引退状態なのです。今は月に一,二度出社するだけです」

「もういいだろ」

 朔太郎が城太郎を押しのける。

「すみませんが、屋敷の中を見回らせて貰えませんかね」

「ええ。もちろん」

 有馬氏はソファを立つと先導をはじめた。

「ではこちらに」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 寝室や使用人の部屋、キッチンとリビング、一通り案内されたがこれと言って怪しい所は無いようだった。

「どうもいたずらだったようですな」

「理解していただけたようで」

 安堵したような雰囲気が漂い、朔太郎も帰り支度を始めた。
 そんな中、城太郎がぼそっとつぶやく。

「地下室は見せていただけないんですか?」

「えっ?」

「玄関を入ったすぐ近くの床に不自然な隙間がありました。地下へ続く階段でもあるのでは無いですか?」

「そんな部屋があるのですか?」

 朔太郎の目がにわかに厳しくなる。

「ええ。ここ一年ほど使ってはおりませんで、失念しておりました。申し訳ありません」

「見せていただけますかな」
 
「わ、分かりました」

 有馬氏は書斎からカギを持ってくると、床に開いた鍵穴にいれて回す。
 鍵穴の下は板をずらして取っ手の様に出来るようになっていた。

 その部分に手を掛けて引き揚げる。
 ぎぎーと言う音と共に廊下の床が持ち上がった。
 その下から地下に続く階段が現れた、

 センサーがあるのか城太郎たちが中に入ると自動で電灯が点く。

「ご覧のとおり会社で使わなくなった備品がわずかばかり置いてあるだけです」

 城太郎は無言で全員より前に出ると跪いて、床を調べ始めた。
 
 床にはほこりが積もっており、最近誰かが入った形跡はない。
 さらに壁や床に不自然な隙間も無く稼働しそうな雰囲気はない。
 備品や什器を退かしてみたが隠し扉のようなものはなかった。

「問題なさそうですね。ご協力感謝します」

「いえ。市民の義務ですので。また何かあればお申し出ください」

「ご迷惑をおかけしました。おい、帰るぞ」

 未だに地下室を調べている城太郎を朔太郎は無理やり有馬邸から連れ出した。

「何も出なかったではないか。お前らの勘違いではないのか?」

「そちらの密輸と違って、殺人事件は住宅を調べただけでは分かりませんので」

「ではなんのために来たんだ」

「収穫はありました」

「なんだ。教えろ」

「捜査情報ですので、答えかねます。管轄が違うのでしょう?」
「てめえ。どうせ負け惜しみだろう」

「それより、有馬氏が言っていた事、裏を取ってくれるのでしょうね」

「言われるまでもない。何もないとは思うがな」

「お願いします。鈴木さんとはまたお会いする事もあるでしょう。これから宜しくしてくださいね」

「ふざけろ、二度と会うか」

 朔太郎は憤慨するとどすどすとパトカーの方へ歩いて行った。

 城太郎たちもインプレッサに乗り込むと帰路につく。

「で?どうなんだ?」

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 杉多巡査部長が城太郎に聞いた。

「黒も黒、真っ黒ですよ」

 城太郎は有馬雄一郎を【鑑定】して驚いた。
 偽名であることは予想していたが、まさかあの「赤スーツの男」本人だとは思っていなかったのである。声も坑道で聞いた時とは別人の様だった。ヴォイスチェンジャーでも使っていたのだろうか?そんな電子的な感じはしなかったのだが。
 声紋鑑定でもしなければ分からなかっただろう。

「これを聞いてください」

 城太郎はスマートウォッチを操作して音声を再生した。

“KFSから総員へ……ザ……いま地上施設に警察が来ている。ザザッ……音を立てるな”

”ザッ…ザッ……こちらDD。作業に遅れが出ている、どこかで作業を継続したい”

”ザッ……KFSからDD。K区画の隔壁を閉めろ。対爆仕様の実験室だ。そこで作業をしろ”

”DD……ザッ……了解”

「あの屋敷で傍受した無線です」

「いつの間に」

「スクランブルがかかっていましたが、神聖同盟でよく使われていた形式で、秘話コードは坑道にいた警備兵の指の動きをみて覚えていました」

「その時計にはそんな機能もあるのか」

「秘話コードを変えられていたら駄目でしたけどね。1日程度では更新されていなかった様です。たぶん地下施設の出入口はあの屋敷には無いのでしょう。敷地の外に偽装されて存在するはずです」

「解析できなければただ何かの電波が飛んでいたというだけで証拠には薄かったな」

 地下で使用するためにあちこちに中継器がおいてあったはずだ。電波だけは頻繁に傍受出来たかもしれない。

「これでも根拠として薄いですけどね。しかし、警察がごり押しすれば令状は出るでしょう。そうすれば岐阜県警が家宅捜索できるかもしれません」

 司法がまともに機能していた昔ならともかく、二十年前の災害後は治安維持のため、警察が司法を無視して強権を発動することも多い。
 大橋警部補のような良識を持った警官はそれを苦々しく思っていて変えようとしている。
  
「しかし、ブラックコアは別としても警察の装備で彼らをとらえられるでしょうか?少し考えなければいけませんね」

 城太郎は顎を引いて黙考しながら岐阜に帰るためにインプレッサを走らせて行った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 城太郎達が去った後の屋敷。
 有馬雄一郎が窓から外を伺いながら呟いた。

「警察が嗅ぎ付けるのが早すぎる。何者かが情報を流したか」

「人類肥大連合でしょうか?」

 メイドが答える。

「彼らにそれだけの情報収集能力は無いと思っていたのだがな」

「どういたしますか」

「迎えの潜水艦が来るまで時間を稼ぐ。特に荒間城太郎が問題だ。彼をひきつけておかねばならん」

「優秀だとは思いますが個人をそこまで警戒する必要があるのでしょうか?」

「何か切り札を隠し持っているような気がする。勘だがね」

 有馬雄一郎は少し考え込むと指示を出した。

「岐阜市街でナージャ・ジュールベルを暴れさせろ」

「脱出の準備が整ってもナージャが無ければ核物質の搬出ができません」

「現用兵器ではブラックコアを傷つけることは出来ん。損害を無しで陽動をするためには出し惜しみは出来ない。幹線道路を破壊し、地下を通れば撤退する時も引き離せる」

「分かりました。出撃させます」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

俺は5人の勇者の産みの親!!

王一歩
ファンタジー
リュートは突然、4人の美女達にえっちを迫られる!? その目的とは、子作りを行い、人類存亡の危機から救う次世代の勇者を誕生させることだった! 大学生活初日、巨乳黒髪ロング美女のカノンから突然告白される。 告白された理由は、リュートとエッチすることだった! 他にも、金髪小悪魔系お嬢様吸血鬼のアリア、赤髪ロリ系爆乳人狼のテル、青髪ヤンデレ系ちっぱい娘のアイネからもえっちを迫られる! クラシックの音楽をモチーフとしたキャラクターが織りなす、人類存亡を賭けた魔法攻防戦が今始まる!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...