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3章

②下剋上(4)

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 翌朝、下位組との戦いと同様の感じでスタートが切られた。ただ僕以外の上位五人はいわゆるいかにもな王座に座っていた。

 さらに今日はクリスマスとあってか闘技場がクリスマス仕様になっている。夜になればライトアップされるそうだからきっと絶好のデートスポットになるだろう。僕がこの下克上戦でカップルの皆さん方の成就をお手伝いできればよい。そして彼ら彼女らの二世、三世が働いて税金を納めて、老後の自分を養ってほしいものだ。

 王座の五人組を見渡すと見知った顔がいた。エイジだった。

「おうタカピー、久しぶりだな。ボッチに磨きがかかったんじゃないか」

「そっちこそ、一対五で集団リンチでもする気か」

「協力と言ってほしいね。俺はみんなの力でお前を倒すんだ。人を信じないやつに俺たちが負けるはずはない」

 周りから歓声が上がる。そりゃそうだ。協力だのみんなの力だの、耳障りの言い言葉だがこの世界ではそれが善だ。それに背くものは集団からつまはじきにされる。
 さながらエイジが勇者で僕が暴虐な魔王だろう。

「ただ、俺も正々堂々と勝負したい。それに誰か一人が報酬を独り占めする結果も望まない。だから上位四人のみんな、俺にライフを分けてくれ。そして俺一人であいつをひねりつぶす。報酬はライフを分けてくれた分、みんなで山分けをしようぜ」

「いいよ、エイジは今回の研修の首席だし」

「それに魔法一番うまかったし」

「なにより信頼できる!」

 それぞれ上位四人はすべてのライフをエイジに預けた。そんなことありなのか、と審判のほうを見たが何も言わない。

「お~首席のエイジさんがソード班の下剋上戦の二の舞を避けるべく、一対一の勝負を申し出ました!これが強者の余裕でしょうか。それになにより有無を言わずライフを預けた上位五人組の信頼もすばらしい!」

 実況もエイジの事をべた褒めだ。

 きれいな言葉で固めているがその中身は投資信託と同じで、上位四人はエイジという信頼のおけるプロに預けて確実なリターンを見込んでいるだけではないのか?タカヒロアイにはそうにしか映らない。

「さて、ではみなさんよろしいですか。これより首席エイジVS最下位タカヒロの下剋上戦最終決戦、スタ~~~~トです!」

 だれもが一瞬で勝負を決すると予感しただろう。モニターに映し出されたエイジのライフはエイジ本人の百九十点に加えて百八十+百七十×三で八百八十だ。対して僕は五十。

 僕が暴虐の魔王っていうのは撤回だ。僕はRPGで最初に出てくる雑魚キャラだ。そして魔王を倒した最高装備の勇者に挑む感じだ。粘ってもジリ貧なら・・・・・

「ウィンド!」

「なるほど、ライフの差はあっても場外に飛ばされれば即死だからな。いい選択だな。でもな……」

 自分が打ち出した魔法を避けようともせずこちらに突っ込んでくる。しかも当たった!エイジのライフも減った。だが、
「お前の魔法は威力が弱いんだよ!ファイヤー!」

 至近距離で最高火力の魔法を受ける。最初の実技研修よりも威力を増している。ポイントの減少は十ポイントだが、それとは別に体のエネルギーが急速に減っていくのがわかる。ざっと距離をとったがその直後強烈な疲労が襲う。

「くっ、ウィンド」

「させるか、ウォーター!」

 若干僕のウィンドの方が早い。だが相殺などは当然無理で、避けるエネルギーがもうない。もうエイジのウォーターが目の前だ。

「ウォーター、シャイン」

 空を飛んで緊急回避、そして目くらましだ。

「ウィンド、分割、掃射!」

 上空からの高速ウィンドの嵐だ。エイジに当たる当たる。ライフが減っていく。しかし
「だからタカピー。お前の魔法は弱いんだって。ダーク。ウィンド!」

 暗闇だ。

「シャイン!」

 部分的に相殺したが時すでに遅しだ。目前まで来ていたエイジのウィンドがクリーンヒットし、空を飛んでいたウォーターも消えて地面に落ちる。

「ウォーター!」

 かろうじて衝撃を吸収した。打ち出した魔法球が一回り大きくなる。

「弱い魔法が少し強くなっても普通になっただけだ。ウォーター」

「甘いな。これは一味違うぞ。食らいやがれ!」

 ウォーター同士がぶつかりさらに大きな球になる。しかし力が及ばない。反射されてこちらに飛んでくる。
「避けんと……うっ」

 頭がふらっとした。しまった。

 威力が高められたウォーターをそのままくらって、地面にたたきつけれる衝撃と共にさらに疲労が襲ってくる。

「アイス」

 もう動けなかった。なすがままにアイスが当たり、体の芯から冷えていく。

「タカピー、あと二十ポイントだな。対する俺はあと七百残っている。もう負けを認めろよ。お前死ぬぞ」

「ま……だ…………」

「そもそもタカピーはなんで戦ってるんだ。お前、誰からも好かれてないぞ。仮にこの勝負に勝って合格者になっても、また嫌われながら生活することになるんだぞ」

「心配してくれるのか……」

「違うな。俺はお前みたいなボッチが大嫌いだ。だが死んでくれとは言わない。ただ俺の視界に二度と入ってほしくないだけだ。はっきり言うが退職勧告だ。クビだ」

 ふと思った。なぜ自分はこんなになるまで戦っているのだろう。こんな大会、即座に棄権して失格者になれば苦しい思いをしなくて済む。また一人に戻れる。自分にとっていいことずくめではないか。ボッチの逆襲なんてどうでもいい。逆襲したところで残るのはむなしさだけだ。地位も名誉もいらない。だったらなぜ僕は戦っている?

『タカ君と一緒にいたい』
『ずっと一緒だ!』

 こんな時に一か月過ごしてきた、とある二人から聞いた言葉が思い返される。

「わかった。所詮僕も“まだ”人だったんだな」

「なにそれw」

「こっちの話だ」

 すると急に胸元が光った。力が戻ってくる。あたたかなものが体に胸からしみ込んでくる。完全回復とまではいかないが、十分に体は動くようになった。

「おいおい急に回復したと思ったらタカピー、泣いてるのか」

 とうとうこぼれたのか。泣いている自覚がないのに涙だけがこぼれてくる。手繰っても手繰ってもこぼれてくる。

「これで、しまいにしよう」
試合も、そして、かかわりを。

「しまいにするって、この状況をどう覆す。ライフは歴然の差、お前の体もボロボロだ。それにタカピーの魔法には威力がない」

「周りがうるさいな。サイレント」

「は、え?ここで…………」

 静寂が訪れた。エイジの聴覚を奪う。
「サウンド登録wind!ウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンドウィンド」

「サウンド!ってようやく打ち消せた。何をしたタカピー」

 もう遅い。

「ウィンド!サウンド wind!サウンドwind!」

 二つのサウンドのオレンジ魔法球から自分の魔法詠唱が聞こえる。そしてそれに合わせて杖からウィンドの魔法球が次々と生成される。

「いくぞ、名付けて『風神』」

 無数のウィンドの球がいくつか合体し、巨大な渦とその周りに小さいウィンドの球がその渦を守るかのように浮いている。

「サウンドを使って二重、三重詠唱ってわけか。なるほど一人三役とはボッチのタカピーらしいやり方だ」

「そう僕はボッチだ。お前らの大嫌いなボッチだ。迷惑な存在だ。少子高齢化加速要因だ。だがな、ボッチをなめるなよ。ボッチは人に助けてもらえないから努力する。人のしがらみがないから自由にできる。出る杭を打つような集団にいないから無限に杭を出していける」

「なぜそんな遠回しで寂しい方法を選ぶ。協力してやればどんなことでもすぐに、しかも楽しく解決できる」

「すぐに?楽しく?そうでないからボッチやってるんだ。消えろ」

「粋がるなよ。ボッチは俺らが協力してつぶす。タカピーの嫌いな協力でつぶす。みんな、力を貸してくれ!」

 すると上位四人が杖を上空に向けて魔法を唱えた。

「ファイヤー」
「アイス」
「ウィンド」
「ウォーター」

 無駄なことを。それぞれ打ち消しあってゼロになるだけだ。

「そして最後に俺が、シャイン!」

 神々しい光の輪の中心にはシャインの球があり、それぞれ四種の魔法球が四等分に染めている。シャインが各魔法球の相殺を防ぎ絶妙なバランスで保たれている。

「なんなんや、打ち消しあうどころか威力が増してる!」

 しかもそれぞれの魔法球が今まででてきた中で段違いに大きい。どれだけチャージしたのか。

「当たれば確実に場外に吹っ飛ぶか体力切れだ。行くぞ。これがみんなの協力の結晶『五光天烈』だ!」

 単色のウィンドの『風神』と五色の『五光天烈』、大きなエネルギーがぶつかり合い衝撃波が体に響く。

 饒舌だった実況も唖然としていて固まっている。
 クリスマスの夜にあふれるイチャイチャ感も吹き飛ばし、カップルですら彼氏彼女をそっちのけてそれぞれの技に見入っている。

 五光天烈にひびが入った。
 観衆に激震が走った。まさかあのエイジがボッチに負けるのか、とざわめきが起こる。

「みんな、安心しな!さあ、もう一度行くぞ!」

 再度上位五人から五光天烈に向かってそれぞれ魔法球が放たれた。ひびが修復されていく。

「『風神』もってくれ。頼む。」

 そんな言葉もむなしく風神の勢いが衰えていく。だが自分にはもう修復できるほどのエネルギーは残っていない。ただただ崩れていく風神を眺めていることしかできなかった。所詮ボッチは・・・・・・

「人は一人では生きていけない」
 エイジがつぶやいた。

「悪いな、僕は……人じゃない、野獣だ」

 そして意識が途切れた。
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