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2章
⑨特別授業(1)
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「さて、ようやくこの日を迎えることができたな。ふふっ、気分が高鳴る!」
サキ先生はいつもの白スーツに加えて今日は眼鏡をかけている。そしていかにもという感じの指示棒をもってホワイトボードの前に立っている。まるでコスプレしているかのようだ。
今日は朝からこんな調子だ。部屋のキッチンで朝食を作っているときなど鼻歌が聞こえてきた。しかもところどころ音程が外れている。こっちはプライベートを奪われてしかも男女同じ部屋という環境下だ。もう心労でつぶれそうなのにいい気なものだ。
「サキ先生、今日はいつになく興奮していますね」
「そりゃそうだ。私の思う通りに物事が進んだんだからな。大満足だ」
「半ば強引でしたが」
「なんか言ったか?」
怖い怖い、うきうきしていたサキ先生の目が急に鋭くなる。触らぬサキ先生に祟りなし、だ。
「いえ、なんでも」
「そうか、まあとにかくせっかくの特別授業だ。まずは無知蒙昧な君たちの疑問を快刀乱麻のごとく解決してあげよう。それじゃあマユリからだ」
「はい。えっとなんでもいいんですよね・・・・・・。うーん、じゃあ研修棟のそこら中に掲げられてる花の紋章はなんですか。前から何の花なのか気になってました」
そういえば確かに花の紋章はところどころにあったが別に気にしてなかった。白の軍のトレードマークぐらいの認識だった。
「あの花はバーベナだ。花言葉は魔力とか協力、団結だ。白の軍の理念を表している。そんな質問が来るとは思わなかったな。じゃあ次はタカヒロだ」
「相手からの魔法の防御方法を教えてください。あの時のガーゴイルの二の舞は絶対に嫌です」
「そうだな。魔法での戦いでは攻撃だけではなく防御も大切だ。タカヒロはずっと一人だったから、防御の練習は不足しているだろう。今回の特別授業のメインになるな。でもあの時ガーゴイルの炎に対して『アイス』で対抗しようとしたのは正解だったぞ」
「熱いのと冷たいのをぶつければ消えるかも、なんていう小学生並の発想でしたけど」
「そんな単純なら私でもできそうだね!」
「そう、魔法は誰でも使えるように考案された武器だから極力単純にしてあるんだ。ちなみに『ファイヤー』と『アイス』が対になり、『ウィンド』と『ウォーター』が対になる。ここまではいいかな?」
「ファイヤーとアイスが対になるのはわかるけど、ウィンドとウォーターが対になるのはわからないよー」
「タカヒロ、説明してやれ」
「いきなり振りますか。おそらくですが・・・・・・ウィンドは運動エネルギー、ウォーターは位置エネルギーの塊だから、物理学の力学的エネルギー保存の法則によればその総和は等しくなるのであって・・・・・・」
「ちょっとストップだ。見ろ、隣でマユリの頭がショートしてるぞ」
見ると本当に頭からプスプスと音がして煙が出そうな状態のマユリが頭を抱えていた。
「タカ君、ギブだよー。わかんないよー」
「自分も文系やからあんまりわかっとらんのやけどね。ごめんね」
「タカ君、十分理系っぽいよ」
よく言われる言葉だ。高校の文理選択で文系を選んだ時も周りからはたいそう驚かれたものだ。そもそも理系っぽいって、何が言いたのだろうかさっぱりわからん。
そんな思索中の私ををよそにサキ先生は話を続ける。
「一応、ここで学ぶのは物理学ではなく魔法学だ。文系理系は関係ないぞ。まあ細かい理屈抜きにウィンドとウォーターは対になることを覚えていればいい」
「私はそうしておく~」
「よし、それで対になる魔法を打った時、両者はエネルギーを下げる。互いに同等のエネルギーなら消滅するわけだ」
「あの時の僕の『アイス』はガーゴイルの『ファイヤー』よりエネルギーが小さかったってことですか?」
「そういうことだ。だかタカヒロの打ったアイスの分、ファイヤーのエネルギーも幾分相殺されているだろう。だからこれぐらいのダメージで済んだ」
「私もあの時大やけどでもしちゃったのかと思ったけど、何も傷とかなくてびっくりしたよ」
「マユリ、あの時はえらい心配したんやから。もう二度とあんなことはせんといてな」
「ううん、大丈夫。あの時はとっさに体が動いちゃったから。でもどうして傷とか一つもないんだろう?」
「魔法はエネルギーの塊だ。ややこしいが『ファイヤー』も炎そのものではない。魔法が体に当たればそれを打ち消すだけのエネルギーが体から消耗される。その体のエネルギーの消耗が疲労となり、極限に達すると倒れるというわけだ。魔物は人体の持つエネルギーが好物のようで、それを食べるために襲ってくる」
「エネルギーが魔物の好物なら、自分たちが打ち出す魔法のエネルギーを食べさせておけばいずれ飼いならしてペットにできるかもしれないね!」
マユリは考えなしに行っているのだろうが、あんな“良く言って”強面で独特で個性的な生き物をペットにしようという人がどれだけいるか。もしいれば相当なもの好きだろう。
いや、マユリって意外とああいうのが趣味なのか?
蓼食う虫も好き好きとはこういうことなのだろうか。
・・・・・・ん?違う!今はそんな他人の事など考えている暇ではない。
そんな脳の容量の無駄遣いをする余裕があるなら自分を高めろ、周りを拒絶しろ。
偉く、強く、賢く、だれもが挑む気概を失うくらいに!
私はなりた・・・・・・いや、ならなければならない。
サキ先生はいつもの白スーツに加えて今日は眼鏡をかけている。そしていかにもという感じの指示棒をもってホワイトボードの前に立っている。まるでコスプレしているかのようだ。
今日は朝からこんな調子だ。部屋のキッチンで朝食を作っているときなど鼻歌が聞こえてきた。しかもところどころ音程が外れている。こっちはプライベートを奪われてしかも男女同じ部屋という環境下だ。もう心労でつぶれそうなのにいい気なものだ。
「サキ先生、今日はいつになく興奮していますね」
「そりゃそうだ。私の思う通りに物事が進んだんだからな。大満足だ」
「半ば強引でしたが」
「なんか言ったか?」
怖い怖い、うきうきしていたサキ先生の目が急に鋭くなる。触らぬサキ先生に祟りなし、だ。
「いえ、なんでも」
「そうか、まあとにかくせっかくの特別授業だ。まずは無知蒙昧な君たちの疑問を快刀乱麻のごとく解決してあげよう。それじゃあマユリからだ」
「はい。えっとなんでもいいんですよね・・・・・・。うーん、じゃあ研修棟のそこら中に掲げられてる花の紋章はなんですか。前から何の花なのか気になってました」
そういえば確かに花の紋章はところどころにあったが別に気にしてなかった。白の軍のトレードマークぐらいの認識だった。
「あの花はバーベナだ。花言葉は魔力とか協力、団結だ。白の軍の理念を表している。そんな質問が来るとは思わなかったな。じゃあ次はタカヒロだ」
「相手からの魔法の防御方法を教えてください。あの時のガーゴイルの二の舞は絶対に嫌です」
「そうだな。魔法での戦いでは攻撃だけではなく防御も大切だ。タカヒロはずっと一人だったから、防御の練習は不足しているだろう。今回の特別授業のメインになるな。でもあの時ガーゴイルの炎に対して『アイス』で対抗しようとしたのは正解だったぞ」
「熱いのと冷たいのをぶつければ消えるかも、なんていう小学生並の発想でしたけど」
「そんな単純なら私でもできそうだね!」
「そう、魔法は誰でも使えるように考案された武器だから極力単純にしてあるんだ。ちなみに『ファイヤー』と『アイス』が対になり、『ウィンド』と『ウォーター』が対になる。ここまではいいかな?」
「ファイヤーとアイスが対になるのはわかるけど、ウィンドとウォーターが対になるのはわからないよー」
「タカヒロ、説明してやれ」
「いきなり振りますか。おそらくですが・・・・・・ウィンドは運動エネルギー、ウォーターは位置エネルギーの塊だから、物理学の力学的エネルギー保存の法則によればその総和は等しくなるのであって・・・・・・」
「ちょっとストップだ。見ろ、隣でマユリの頭がショートしてるぞ」
見ると本当に頭からプスプスと音がして煙が出そうな状態のマユリが頭を抱えていた。
「タカ君、ギブだよー。わかんないよー」
「自分も文系やからあんまりわかっとらんのやけどね。ごめんね」
「タカ君、十分理系っぽいよ」
よく言われる言葉だ。高校の文理選択で文系を選んだ時も周りからはたいそう驚かれたものだ。そもそも理系っぽいって、何が言いたのだろうかさっぱりわからん。
そんな思索中の私ををよそにサキ先生は話を続ける。
「一応、ここで学ぶのは物理学ではなく魔法学だ。文系理系は関係ないぞ。まあ細かい理屈抜きにウィンドとウォーターは対になることを覚えていればいい」
「私はそうしておく~」
「よし、それで対になる魔法を打った時、両者はエネルギーを下げる。互いに同等のエネルギーなら消滅するわけだ」
「あの時の僕の『アイス』はガーゴイルの『ファイヤー』よりエネルギーが小さかったってことですか?」
「そういうことだ。だかタカヒロの打ったアイスの分、ファイヤーのエネルギーも幾分相殺されているだろう。だからこれぐらいのダメージで済んだ」
「私もあの時大やけどでもしちゃったのかと思ったけど、何も傷とかなくてびっくりしたよ」
「マユリ、あの時はえらい心配したんやから。もう二度とあんなことはせんといてな」
「ううん、大丈夫。あの時はとっさに体が動いちゃったから。でもどうして傷とか一つもないんだろう?」
「魔法はエネルギーの塊だ。ややこしいが『ファイヤー』も炎そのものではない。魔法が体に当たればそれを打ち消すだけのエネルギーが体から消耗される。その体のエネルギーの消耗が疲労となり、極限に達すると倒れるというわけだ。魔物は人体の持つエネルギーが好物のようで、それを食べるために襲ってくる」
「エネルギーが魔物の好物なら、自分たちが打ち出す魔法のエネルギーを食べさせておけばいずれ飼いならしてペットにできるかもしれないね!」
マユリは考えなしに行っているのだろうが、あんな“良く言って”強面で独特で個性的な生き物をペットにしようという人がどれだけいるか。もしいれば相当なもの好きだろう。
いや、マユリって意外とああいうのが趣味なのか?
蓼食う虫も好き好きとはこういうことなのだろうか。
・・・・・・ん?違う!今はそんな他人の事など考えている暇ではない。
そんな脳の容量の無駄遣いをする余裕があるなら自分を高めろ、周りを拒絶しろ。
偉く、強く、賢く、だれもが挑む気概を失うくらいに!
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