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2章

③講義(4)

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 とっさに私も自分の杖から出た赤い球を飛んできたファイヤーに向けて打った。全く大きさが違う。八番の魔法球のほうが二回りほど大きい。

 その刹那、ふと向かってくる魔法球を見て違和感を覚えた。赤い。真っ赤だ。しかし今までの幻想的な赤色とは違う。見かけは同じだ。だが違う。
 魔法が今、自分に凶器として牙をむいている。悪意、憎悪、憎しみ、憐み、同じ赤色の魔法の裏にそうしたどす黒いマイナスの感情を感じた。

 八番のファイヤーは自分のファイヤーを軽く呑み込んでさらに大きくなり、そして
「熱い熱い!!だれか水を!!!」
「八番、アイス!!」
 アイスの魔法は冷たかったと同時に、急激な冷却で全身が痛い。そもそもアイスなんて魔法、知らないのだが。

「さっきから何してくれるんや。八番さん、いや、エイジ!」
「やっと丁寧語じゃなくなったなw」
「そんなことはどうでもええよ。やりすぎや。なんか僕に恨みでもあんのか?」

 少し間があった。全員の視線が集まる。いつもなら耐えられない状況だが、らしくもなく私は感情的になっていた。なぜ私はこんな目に合わなければならない?私は害を与えていない。暴力、悪口、そんなこと一切言ってない。周りとのかかわりを避けて迷惑をかけないようにした。それなのになぜ?

 沈黙を破ったのはエイジの方だった。

「たかぴー、おまえペアいないだろ。」
「何で知ってる?たとえそうでもお前には迷惑かけへんやろ。」
「見りゃわかるよ。たかぴー、最初に話しかけた時から思ってたけど、見るからに友達いなさそうだし、ましてや男女ペアなんて作れないに決まってるだろうが」
「どうしたんや急に」

 エイジを見ると、最初に話しかけてきたときの人当たりの良い雰囲気とは打って変わって、完全に敵意丸出しだった。そして今までずっと見てきた、見慣れた目をしていた。

「この一週間お前を見てて、むかついたんだよ。この際だから言っておく。お前みたいなボッチは社会にとって最高に迷惑な存在なんだよ。わかってるのか?存在自体が悪だ。場の雰囲気を台無しにするし、俺ら周囲に余計な気を遣わせるし、一生独身で少子高齢化加速要因だろ。マユリの自己紹介シート、ちらっとだったが見させてもらったぞ。気持ち悪い、だってさ。そうだよ、お前みたいなやつは気持ち悪いんだよ。しかもなんだその杖。ふざけてんのか?そんな貧弱な杖でまた俺らに迷惑かけたいのか」

 あまりにも急な悪口雑言で唖然とした。しかし周囲の研修生はまるで示し合わせたかのように反論してくれる人はもちろん、私のように驚いている人など誰もいない。それどころかほかの研修生は大笑いしている。「いいぞ、もっとやれ」なんて言葉も聞こえてくる。マミ教育官ですら嫌味な笑みを浮かべている。マユリは申し訳なさそうに、悲しそうにうつむいている。そんな悲しそうな眼なんかするな。よかったじゃないか、これでマユリは自分のような目に合わない。きっとほかの研修生と仲良くやっていけるのだから。

「あっそれと、マユリは俺のペアになった」
「それがどうかしたのか」
「お前の自己紹介シートを唯一埋めてくれたマユリも含めてここにはお前の味方はいない。一生ボッチやってろ。俺らの視界に入るな」
「……そんなこと改めて言われなくてもわかってる。マミ教育官、一人で練習できる場所は?」
「自分で勝手に探してください!元気で仲の良い研修生たちの相手で私は忙しいのです!」
「それは申し訳なかった。ボッチには用はないのですね。好きに、やらせてもらいます。ウォーター!!」

 今度はあえて逆噴射した。気を緩ませて自分を低とすると逆に噴射できるのはテキスト魔法学基礎編を最後の方に載っていたおかげで理解できた。自分にあたった位置エネルギーを保持したまま体がふわりと浮いた。そして一気にではなく、徐々にウォーターを解除していき滑空飛行ができた。テキストを熟読した甲斐があった。ただアイスについては後で再確認だな。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 飛んでいく私を見て皆はどう思っていただろうか。きっと清々しているだろう。
 視線が痛い。苦しい。目頭が熱い。胸が締め付けられる。

「わかっていたことだ。こうなるのは。いつもの……そう、いつものことだ」
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