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第三章その7 ~いざ勝負!~ 黄泉の軍勢・撃退編

伝言ゲームはほどほどに

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「それじゃ早速、鶴ちゃんが見たものを映すわね」

 鶴が手をかざすと、お馴染みの半透明の立体映像が浮かび上がった。

 それは巨大な敵の姿であり……極めて不敬な例えをするなら、蓮華れんげに座る修羅像しゅらぞうだろうか。

 台座は肉厚で頑強そうで、陸亀のような野太い足が支えている。

 台座の中央には、ややほっそりした人型の上半身があり、そこから無数の長い腕が伸びていた。腕はそれぞれ形の違う武器を持ち、強い魔法力を帯びて輝いている。

 単純な大きさなら九州の『城喰い』と同等だが、両生類じみた姿の城喰いと違って、こちらは邪神崇拝の像のような禍々まがまがしさがあった。

 台座の下部からは、無数の触手のようなものが地面に刺さり、そこから膨大なエネルギーが送り込まれているのが分かる。

 鶴が映像を延長していくと、触手は地下を枝分かれしながら伸び、やがて触手から無数の柱が隆起して、あの幽鬼兵団を呼び出せるようになっているのだ。

 本体と台座の周囲には、瓔珞ようらく……つまり、仏像や神輿みこしを囲んでれた装飾のように緻密ちみつな電磁バリアが輝き、頭上にはぶ厚い邪気の暗雲が立ち込めている。

「これがあの女と打ち合った時に見えたものなの。あの柱と骸骨達の本体よ」

 鶴が言うと、コマが考えながら答えた。

「すごいなこれは……魔王ディアヌスそのものじゃないと思うけど、分霊ぶんれいかも知れない。大きさと邪気の量が、普通の敵とは段違いだよ」

 コマはそこでいつも通り、誠に無茶ぶりで問いかけてくる。

「黒鷹、どう見る? 君だったらどう攻略するかな」

「う、うーん……どうするかな……」

 誠は困って考え込んだ。

「……難攻不落の移動要塞か。これだけ周囲の防御が濃ければ、艦砲射撃でも破れないだろうし……地下の触手を切断しても再生するんだよな」

 一体どうすればいいのだろうか。

 船団長であり、新婚さんでもある船渡は、そこでおずおずと口を挟んだ。

「……何度か情報交換したんですが、それぞれの船団で、対ディアヌス用の大型決戦兵器を開発しています。ただ今の所、どこも完成してないようで……」

「あ、あたし達もそれなりに着手してるんですけどね。一応、大型属性添加機のプロジェクトはありますけど、まだ実用段階じゃなくて」

 嵐山もそう言って、膝に置いた手をぎゅっと握り締める。

「第3船団の震天しんてんプロジェクトはかなり進んでるみたいなんですけど、さすがに動ける段階では……」

 船団長2人は己の無力を責めるように俯くが、そこで神使達が紅白まんじゅうを運んできた。元気出すんや新婚さん、となぐさめる神使をよそに、誠達は考え込んだ。

「幽鬼兵団は倒しても復活するし、かと言って本体を倒すのも一筋縄じゃいかない。戦力をかき集めても、真っ向勝負じゃ勝ち目が無いか。一体どうすりゃいいんだろう……」

 うーん、と一同はうなった。

 時間が経つにつれ、人々は段々グロッキーになってくる。

 神使達は誠の肩や頭に乗ったまま考えていたが、やがてこくりこくりと居眠りを始める。

「……駄目だっ、ちょっと気分転換しますね!」

 嵐山は頬を叩き、勢い良く立ち上がる。立ち上がり、少しよろめきながら建具を開けた。

 そのまま草履ぞうりを借りて庭に出ると、しきりに草木を見て回っている。元々旅館の娘だから、庭木の手入れには造詣ぞうけいが深いのだろう。

 あちこちしゃがんでは感心していたが、そこで彼女は、小さな鉢植えを持ち上げた。

「この子、ちょっと元気が無いのかな?」

 見ると鉢植えの緑は、葉のふちがしおれてしなだれている。

「栄養刺したらだめなのか?」

 船渡が率直な意見を言うが、嵐山は首を振った。

「そんな単純なもんじゃないのよ。やりすぎたら余計弱るんだから」

 何気ない嵐山の言葉だったが、誠は思わず彼女の顔を見た。

(やりすぎたら……弱る……?)

 理由は分からない。分からないが、妙にその発言が引っかかったのだ。

(弱る……余計に弱る……何だ……?)

 誠のそばのテーブルでは、鶴や神使達が大きな紙を広げていた。

「なかなか思いつかないわね。こういう時は逆転の発想よ。どうやって勝つかじゃなくて、勝った後どう楽しむかを考えましょう」

 鶴はマジックで色々書き出して考えている。

「まず勝利の証に、鶴ちゃんの像を立てるわ。そしてこんなふうに石碑を作って、皆に私の素晴らしさをアピールするのよ」

 コマがたまりかねてツッコミを入れた。

「それを皮算用かわざんようって言うんだよ。てか、マジックで書いたら消せないじゃないか」

「上書きすればいいわ」

 鶴は線でぐしゃぐしゃ潰していく。

(消せない…………消せないなら……上書き……???)

 誠は何かが繋がりそうになった。

(何だ……変に気になる……他ならぬヒメ子の言う事だし。ヒメ子の強運なら、ちょっとした事にも偶然のヒントが隠れてるかも……!)

 誠の内心をよそに、コマは黒くなった紙を見て言う。

「ぐっちゃぐちゃだよ鶴。チンパンジーのお絵かきみたい」

「まあ、チムパムヂー?」

「だから何でそんな言い方なんだよ。普通に言えばいいじゃないか」

 コマはツッコミの連続だったが、誠はどんどん考えが浮かんできた。

(チンパンジーがチムパムヂー……万博がわんぱく。ほんの少しだけ書き換えて、変な感じになるわけか)

 頭上で居眠りしている牛や狛犬をよそに、誠は考えを整理した。

(あの柱の反魂の術は、膨大なエネルギーによる高度な術……エネルギーが凄いから、防ぐ事も遮断する事も出来ない)

(防げない、消せない……)

(でも、だったら書き換えれば…………そうか、上書きすればいいんだ!!!)

「そうだっ!!!」

 誠はそこで思い切り立ち上がった。

 神使達が驚いて頭の上で跳ね上がるが、誠は構わず高山に向き直った。

「た、高山さん! あの柱の反魂の術って、かなり高度なんでしたよね」

「え? ああ、そりゃそうです。黄泉の軍勢を呼ぶんですから、相当緻密ちみつで難しい術でしょう」

「だ、だったら、こういうのはどうでしょう……?」

 誠はごくりと喉を鳴らしながら、高山に耳打ちする。

 横で神使達が聞き耳を立てているが、高山は目を丸くして誠を見た。

「……そ、それは……黒鷹さん。それならまあ……いけるかもしれませんが……」

「ちょっとあんた、あたしにも聞かせなよ」

 勝子がせがむので、高山は勝子に耳打ちする。

 また神使が盗み聞きしているが、勝子はやっぱり目を丸くした。

「……い、いやそれは……あたしには、どうとも言えないけど……」

 他のメンバーがせがむので、勝子は別の面子に耳打ちする。

 耳打ちにつぐ耳打ち、伝言につぐ伝言が駆け巡る。

 最終的に、ダンベルを持つ龍が誠に言った。

「……つまりどんな敵にも負けない、たくましい筋肉が欲しいという事か」

「違うっ! 誰だっ、途中で捻じ曲げたのは!」

 誠は周囲を見回したが、全員が口笛を吹いてとぼけている。

「くそっ、割と必死で考えたのに……!!!」

 誠が悔しがっていると、高山が代表して答えた。

「……い、いや黒鷹さん、皆聞いちゃあいるんですが、にわかには信じられないという気持ちでしてな……」

 高山は少し引きつった顔で苦笑いしている。

 そこでコマが誠の肩に飛び乗ってきた。

「そもそも黒鷹、そんな広範囲に膨大な術をかけられるかな? 魔王ディアヌスじゃあるまいし、鶴の霊力でも限界があるよ」

 コマの意見はもっともだが、誠は首を振った。

「いるじゃんか。ヒメ子に力を貸してくれそうな相手が」

「え……?」

 コマは目を丸くする。

 その場の一同も考え込んだが、ほぼ同時に頭を上げて叫んだのだ。

『そうか、祭神だ!!!』
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