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第三章その6 ~みんな仲良く!~ ドタバタの調印式編

平家一の勇者

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「何だあれは、実体じゃないのか……!?」

 誠は思わず口に出していた。

 魔法陣から湧き出た骸骨達は、餓霊とも黄泉の軍勢とも違う。全身に青紫の邪気を帯び、やや透き通って見えるのだ。一見して実体がなく、霊魂だけのような印象だった。

 やがて誠の機体の画面に、コマの顔が映し出された。

「邪霊だよ黒鷹! 術で生き返らせたんじゃない。魔界の邪霊を、そのまま現世に引っ張ったんだ。とんでもない技術だよ!」

「あいつらが出ると、どうなる?」

「実体がないから、普通の人は倒せない! 呪いを撒き散らして、大勢殺されちゃうよ!」

 そう言う間にも、骸骨どもは会場の奥に殺到した。殺戮さつりくの喜びに震え、骨だけのあぎとを笑うように動かして、避難区へ押し入ろうとしているのだ。

「おおっと、そう簡単には行かせんぜ!」

 そこに高山が、そして全神連の面々が立ちはだかった。

 同時に津和野が結界を生み出し、骸骨どもを押し止める。だが骸骨は色濃い邪気を吹き出し、結界の光を押し破ろうとしていた。

「……どうも熱烈なお誘いラブコールですわね……!」

 津和野が苦しそうに呟く。

 だが骸骨が、今にも彼女に襲いかかろうとした時。先頭の数体が動きを止め、真っ二つになって崩れ落ちた。

 両断され、消え行く骸骨どもの前には、大柄な武者が立っていたのだ。

「…………ふん。久方ぶりの現世うつしよか」

 武者は巨大な太刀を操り、生前のくせか、血糊ちのりを払うように振り回した。その精悍な顔立ちは、あの平家一番の荒武者・能登守のとのかみ教経のりつねである。

「の、教経のりつねさん!?」

 誠が叫ぶと、教経のりつねは刀を肩に乗せて言った。

仔細しさいは知らぬが、能登は我が所領しょりょう此処ここでの狼藉ろうぜき、捨て置けぬのよ」

 そうこうするうちにも、周囲には無数の霊魂が現れ始めた。見事な鎧兜に身を包んだ、あの源平の武者達である。

 教経のりつねは太刀を構え、高らかに叫んだ。

「ものども、先の飯代がまだであった! 武士もののふらしく、戦働きで返そうぞ!」

 雄たけびを上げ、武者達は敵に切りかかっていく。

 教経のりつねは2体の骸骨をそれぞれ片手で引き掴み、力任せに投げ飛ばした。

「見掛け倒しが。死出のともにも物足りんわ……!」

「やや、教経のりつね殿、お見事!」

 周囲の武者がはやし立てるが、その教経のりつねに襲い掛かる別の相手の眉間を、源氏武者が矢で打ち砕いた。あの夢の運動会で表彰台に立っていた弓の名手、那須与一なすのよいちである。

源氏あやつらと馴れ合うつもりはないが……」

 教経のりつねひるんで後ずさる骸骨どもを睨みつけながら言った。

無辜むこの民を襲うしか脳のない腰抜けどもが。源氏よりも目障りなり……!」

 その瞬間、鶴とコマが誠の機体の後部座席に着地した。

「お待たせ黒鷹! 向こうが魔界の魂なら、こっちは源平の先輩達よ!」

「さすがヒメ子、ナイスフォロー!」

 誠は思わず指を弾いた。

 コマは前足を挙げ、忙しく説明してくれる。

「黒鷹、鶴が術を使う間、ここに居させてね。邪気が強くて、源平を呼び続けるのは大変なんだ」

「ようし、任せとけ!」

 誠は機体を操作するが、そこでふと違和感に気付いた。

「あれ、機体の動きが……」

 全神連が、そして源平の武者達があの女の注意を引いたため、機体への妨害がおろそかになったのだろう。

 これならいける。あの女の注意がれている間に勝負を決めなければ……!



「ふふふ、まだ何かご用でしょうか……?」

 居並ぶ高山達を見据え、女は……いや鳳天音おおとりあまねは、どこか懐かしむように言った。

 先ほどは修羅の形相で人型重機を斬り伏せたのに、もう表情が変わっている。どうやらかなり精神が不安定なようだ。

「ご用も何も、しゃしゃり出たのはおめえだろうがよ、天音」

 高山は彼女と会話を試みた。

 出方を探るのと、時間稼ぎの意味もあったが、半分は筆頭としての責任感からだ。

「……まさかお前ほどの逸材が、闇堕ちするとは思って無かったがな」

「……これは異な事を。あれだけの仕打ちを受けたのです。世を憎んで当然でしょう?」

 天音は……かつて次代の神人と称えられた天才は、会話を楽しむように答える。

「私も人です。何をされても黙るほど、道理が染みてはおりません」

「黙っていろとは言わん。化けて出るぐらいなら何も言わんさ。ただやり過ぎだ」

「あら、冷たいお言葉」

 天音は笑みを浮かべ、それから鳳の方を見つめた。

「……飛鳥ちゃん。あなたなら分かってくれるわよねえ……? 私、とっても辛いのよ。あんなに心を尽くしたのに、殺されて、先生方にも見放されて……」

 鳳はまだ動揺から立ち直っておらず、一同の後ろで震えている。

 当たり前だ。幼い頃から尊敬してきた、何より大切な姉なのだ。それが死後魔道に堕ち、こうして襲ってきたのだから。

「わ、私は……わた、わたしは……」

 鳳が何か言おうとしたが、高山はさえぎった。

「耳を貸すな飛鳥。恐らく邪神と契約してる、もうこの世の人間じゃねえ。姫様に匹敵する力を持つ闇の神人しんじんだ……!」

 高山はそう言うと、作務衣さむえの懐に手を入れた。

「悪く思うな。全神連の責任をもって、おめえさんを止めるぜ」

「どうぞ……止められるものなら」

 天音は微笑む。

 多分止められないんだろうなあ、と高山は他人事のように思った。

 彼女の放つ膨大な邪気が、勝ち負け以前の問題である事を如実に語っている。

 ……だがそれで上等だ、時間稼ぎが出来ればいい。

 高山が素早く霊気を操作すると、足元の土砂が人型となって立ち上がる。

 懐から取り出した札を投げると、土くれは随身ずいしん……つまり、神門を守る像となって刀を抜いた。
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