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第六章その15 ~おかえりなさい!~ 勇者の少年・帰還編

黒鷹、お前の魂をもらおう

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「バカぁっ!!! バカぁぁっ!!! バカバカバカバカっっ、バカバカバカバカバカバカバカバカぁあああっっっ!!!」

 抱きついては泣き、泣いては揺さぶるカノンのパワーに命の危機を味わいながらも、誠はなんとか一命を取りとめた。

 女神達の霊力によって傷は癒え、再び元気を取り戻したのだ。

 その後「それで子供は?」の一言でカノンの嘘が発覚し、彼女が正座する事になったのだが。

 喜びを分かち合う一同をよそに、鶴は疑問を口にした。

「ね、ナギっぺ。そういえば私、何でまだ生きてるのかしら」

「む……そうだな」

 岩凪姫は腕組みして首を傾げたが、すぐに納得したように頷いた。

「鶴よ、お前の左手だ。邪神の手形が残っているだろう」

「えっ……?」

 鶴が目をやると、左の手首辺りに赤い手形が浮かび上がってくる。

 そこでふと背後から、女の声が投げかけられた。

「……言うたであろう。地の底に引きずり込むと」

 誠達が振り返ると、そこには熊襲御前くまそごぜんがたたずんでいた。

 表情は静かだったし、体は透き通り、もう力は残っていないだろう。

 邪神は白い指を伸ばし、鶴の手形を指差した。

「そう簡単にこの世を去らせてなるものか……そう思うて掴んでおったのじゃ」

 詳しい理屈は分からないが、邪神の怨念が鶴の魂を掴み、崩壊を防いでいたという事だろうか。

 熊襲御前はどんどんその姿を薄れさせていく。

 彼女は最後に、岩凪姫を見つめて言った。

「……石頭の女神よ。我が子孫を癒した借り、これで返したぞえ……」

 彼女の子孫たる熊襲一族の怪我を治した事を、熊襲御前は見ていたのだ。

「よく分からないけど、鶴ちゃんは復活したという事かしらね」

 鶴は適当な理解で頷くが、そこで鳳が恐る恐るツッコミを入れる。

「い、いえ姫様、そういうわけには参りません。邪神が握る事で崩壊を伸ばしたとしても、そろそろ限界が……」

 だがそこで、岩凪姫がさえぎった。

「いや鳳よ、それについては解決策を見つけていてな」

 岩凪姫はウインクすると、右手の平を前に差し出す。

 するとその手に、輝く光の玉が現れた。

 誠達には何の光か分からなかったが、鳳はすぐその正体に気付いた。

「こ、これは……姉の魂ですか……? それにしては邪気が感じられないですが……」

「もう人格は無いし、浄化されたようだな。元は誰より清い魂、しかも聖者の資格ありだ。言いたい事は分かるだろう?」

「……あっっっ!!!」

 鳳は手で口を覆い、しばし言葉を失った。何も言えないまま、目に涙が溜まっていく。

「この子にも悲しい思いをさせてしまった。この魂で鶴を支え、2人で一緒に生きさせよう」

「あっ、ありがとうございます、代行様っっっ!!!」

 深々と頭を下げる鳳に、岩凪姫は首を振った。

「礼なら鶴に言え、最後まで天音の魂を砕かなかったのだから。あの闇に飲まれぬよう、一緒に連れ帰ったのだから」

「姫様も、ありがとうございますっっ!!」

「大丈夫、気にしないで。私なら当然よ」

 鶴は謙遜けんそんになっていない事を言うのだが……そこで岩凪姫は、誠の方に顔を向ける。

「もちろん黒鷹。お前の魂も多大な傷を受けたし、このまま生きていくのは厳しい。そこでだ」

 そこで岩凪姫の左手に、別の光が浮かび上がる。やはり誰かの魂のようだ。

「あの苦しき時代にこの国を守り、人々の希望となった救国の英雄……志之森明日馬しのもりあすまの魂を使い、これに黒鷹を支えさせる」

「ほっ、本当ですかっ!?」

 後ろで雪菜と天草が飛び上がった。

 誠も内心信じられない思いだったが、そこでカノンが口を挟む。

「そっその、魂って、そんな簡単にくっつけられるものなんですか? 何か代償がいるとか、リスクはないんですか?」

「大丈夫よカノンちゃん、縁結びの神器を使うわ。危険もあって無いようなものだから」

 佐久夜姫の優しい言葉に、カノンはへなへなと座り込んだ。

「よ、良かった……!」

『私は嘘つきです』と書かれたボードを首から提げたカノンは、心から喜んでくれた。

 やがて出雲大社の神器・宇都志縁之国玉うつしえにしのくにたまが輝くと、魂は誠と鶴に吸い込まれていく。

 それと同時に、誠の全身に温かい波動が満ちていくのが分かった。

(明日馬さんも天音さんも……それにヒメ子も報われるんだ。ほんとに良かった……!)

 こんな嬉しい事はなかなか無いだろう。



 ようやくめでたしモードになる一同だったが、そこで岩凪姫が付け加える。

「……ただしだ、安心するのはまだ早いぞ?」

「まっ、まだあるんですかっ!?」

 誠達はひっくり返りそうになったが、女神は淡々と話を続ける。

「前に言っていたな。私がこの戦いに力を貸す代償の事を」

「そ、そう言えば……ありましたね」

 誠も言われて思い出した。

 あの日女神と鶴に命を救われた後、岩凪姫は言ったのだ。力を貸す代わりに、多大な代償を払う事になると。

「お前の魂はもう生まれ変わらぬ。だからこそ、此度こたびの生が終わったら、その魂をもらおうと思う」

「た、魂を……?」

「そうだ、つまり正式に私の弟子だな。私やコマの元で、八百万の神の使いとして永遠に人々を守り続ける。もちろん鶴も一緒にな」

「良かったわね黒鷹、これでずっとねんごろよ!」

 鶴は全身で喜びを表現してくれる。

 誠もつられて笑みを浮かべ、その内容を理解しようと試みた。

 神の弟子として、人々を守り続ける魂。それはつまり……

「ええとそれって……神使みたいなもんなのかな?」

 誠は呟いたが、そこで恐ろしい事に気付いた。

「ああっ!? という事はもしかして!?」

 そこで神使達が我慢できずに飛び上がった。

「せや、ワイらの一番下っ端やで!」

「新しい後輩ができやしたぜ!」

「ワシら狛犬連合が鍛えたるんじゃい!」

「トレーニングは甘くないぞ!」

「モウ手加減はいらないのです!」

「お前らっ、あれで手加減してたのかよ!?」

 誠はたまらず悲鳴を上げた。

「地獄だああっ! 永遠の地獄だあああっ!」

「知らん」

 岩凪姫は面白そうに微笑むのだった。
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