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第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編

救われた者、救われなかった者

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(そうだ、この景色……横須賀の避難所だ)

 床に敷かれたダンボールを見つめ、誠はようやく理解した。

 それは10年前、自分が過ごした避難所の光景である。

 しかし何か違和感があった。衣服は誠のものではなかったし、かたわらには見覚えのない幼子が横たわっていた。

 眠りこけるその少女は、骨と皮だけになるまでやせ細っている。

 誠は彼女に見覚えがない……はずだったが、なぜか彼女が『妹』だと分かった。

 そして自分は、『あの頃の不是』になっていたのだ。

 誠は恐る恐る周囲を見回す。

 太いコンクリートの柱には、アルファベットと数字が記されていた。

(この番号……俺がいた避難所の反対側か……?)

 つまりかつて誠達は、同じ屋根の下に身を寄せていたのだ。



(……っ!!!)

 急に記憶が混濁こんだくしてきて、また別の映像が浮かんだ。

 周囲を取り囲むのは、恐ろしい顔をした大人達だ。

 彼らはよってたかって不是を痛めつけ、あらゆる配給物資を奪っていく。

 誠と同様に、身寄りのない不是達もまた、悪党に暴力を振るわれていたのだ。

 何を支給されても奪われ、彼と妹は飢え死にしかけていた。

 そこで更に、別の記憶が頭に浮かんだ。



(これは……雪菜さん達か)

 遠い日の神武勲章レジェンド隊の雪菜や明日馬が、誠と共にいる様子である。

 雪菜と楽しげに話す誠を、不是は陰から見ていたのだ。

 その視線に羨望と激しい憎悪を感じ、誠は内心動揺したが、そこで最後の記憶が現れた。



(な……何だこれ……?)

 不是と一体化した自らの手には、血のしたたる石が抱えられていた。

 暴力を振るう大人達が寝ている時、頭を殴り潰したのである。

 初めて人を殺めた瞬間だった。

 不是はしばし荒い呼吸で呆然としていたが、やがて石を投げ捨て、遺体の荷物を探った。

 わずかばかりの食料を見つけ、不是は走った。

 妹が待ってる。腹を減らして倒れてるんだ、早く届けてやらなければ……!!!

 …………だが全ては遅かったのである。

 妹は餓死していた。冷たく強張り、もう目を開ける事は無かったのだ。

 彼女が大事に持っていた松ぼっくりが……家族で拾った思い出の品が、ひからびて不是の足元を転がっていく。

(~~~~~っっっ!!!!!)

 激情が、幼い誠の……不是の中に溢れ返った。

 どうして何も悪い事をしていないこの子が、あんなくずどものために死なねばならなかったのだろう。

 世を憎み、天を恨んだ。

 自分から何もかもを奪った世界に復讐する事を誓った。

 そして誠は、そばの掲示板に目をやった。

 様々な避難情報が書かれた掲示板……その右端に書かれた日付は、誠が雪菜達に初めて会った日だった。

 誠が救われたあの日、同じ避難所で産声を上げた修羅が、今目の前に立ちはだかっているのである。



(……もしあの時、雪菜さん達が不是の方に向かってたら……別の道を通ってたら、逆の立場だったかも知れない……)

 誠は改めて己の境遇をかえりみた。

(俺には雪菜さん達がいてくれた。守ってくれる人がいたし、助けてくれる女神も……ヒメ子もいた……!)

(不運だなんてとんでもない……俺は本当に大事な時は、とことん運に恵まれてたんだ……!)

(もし1つでも『歯車』がかけ違えば、不是と同じになってたかも知れない……!)

 ………だがそれでも、2人の道は分かれたのだ。
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