128 / 160
第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編
救われた者、救われなかった者
しおりを挟む
(そうだ、この景色……横須賀の避難所だ)
床に敷かれたダンボールを見つめ、誠はようやく理解した。
それは10年前、自分が過ごした避難所の光景である。
しかし何か違和感があった。衣服は誠のものではなかったし、傍らには見覚えのない幼子が横たわっていた。
眠りこけるその少女は、骨と皮だけになるまでやせ細っている。
誠は彼女に見覚えがない……はずだったが、なぜか彼女が『妹』だと分かった。
そして自分は、『あの頃の不是』になっていたのだ。
誠は恐る恐る周囲を見回す。
太いコンクリートの柱には、アルファベットと数字が記されていた。
(この番号……俺がいた避難所の反対側か……?)
つまりかつて誠達は、同じ屋根の下に身を寄せていたのだ。
(……っ!!!)
急に記憶が混濁してきて、また別の映像が浮かんだ。
周囲を取り囲むのは、恐ろしい顔をした大人達だ。
彼らはよってたかって不是を痛めつけ、あらゆる配給物資を奪っていく。
誠と同様に、身寄りのない不是達もまた、悪党に暴力を振るわれていたのだ。
何を支給されても奪われ、彼と妹は飢え死にしかけていた。
そこで更に、別の記憶が頭に浮かんだ。
(これは……雪菜さん達か)
遠い日の神武勲章隊の雪菜や明日馬が、誠と共にいる様子である。
雪菜と楽しげに話す誠を、不是は陰から見ていたのだ。
その視線に羨望と激しい憎悪を感じ、誠は内心動揺したが、そこで最後の記憶が現れた。
(な……何だこれ……?)
不是と一体化した自らの手には、血の滴る石が抱えられていた。
暴力を振るう大人達が寝ている時、頭を殴り潰したのである。
初めて人を殺めた瞬間だった。
不是はしばし荒い呼吸で呆然としていたが、やがて石を投げ捨て、遺体の荷物を探った。
わずかばかりの食料を見つけ、不是は走った。
妹が待ってる。腹を減らして倒れてるんだ、早く届けてやらなければ……!!!
…………だが全ては遅かったのである。
妹は餓死していた。冷たく強張り、もう目を開ける事は無かったのだ。
彼女が大事に持っていた松ぼっくりが……家族で拾った思い出の品が、ひからびて不是の足元を転がっていく。
(~~~~~っっっ!!!!!)
激情が、幼い誠の……不是の中に溢れ返った。
どうして何も悪い事をしていないこの子が、あんな屑どものために死なねばならなかったのだろう。
世を憎み、天を恨んだ。
自分から何もかもを奪った世界に復讐する事を誓った。
そして誠は、そばの掲示板に目をやった。
様々な避難情報が書かれた掲示板……その右端に書かれた日付は、誠が雪菜達に初めて会った日だった。
誠が救われたあの日、同じ避難所で産声を上げた修羅が、今目の前に立ちはだかっているのである。
(……もしあの時、雪菜さん達が不是の方に向かってたら……別の道を通ってたら、逆の立場だったかも知れない……)
誠は改めて己の境遇を省みた。
(俺には雪菜さん達がいてくれた。守ってくれる人がいたし、助けてくれる女神も……ヒメ子もいた……!)
(不運だなんてとんでもない……俺は本当に大事な時は、とことん運に恵まれてたんだ……!)
(もし1つでも『歯車』がかけ違えば、不是と同じになってたかも知れない……!)
………だがそれでも、2人の道は分かれたのだ。
床に敷かれたダンボールを見つめ、誠はようやく理解した。
それは10年前、自分が過ごした避難所の光景である。
しかし何か違和感があった。衣服は誠のものではなかったし、傍らには見覚えのない幼子が横たわっていた。
眠りこけるその少女は、骨と皮だけになるまでやせ細っている。
誠は彼女に見覚えがない……はずだったが、なぜか彼女が『妹』だと分かった。
そして自分は、『あの頃の不是』になっていたのだ。
誠は恐る恐る周囲を見回す。
太いコンクリートの柱には、アルファベットと数字が記されていた。
(この番号……俺がいた避難所の反対側か……?)
つまりかつて誠達は、同じ屋根の下に身を寄せていたのだ。
(……っ!!!)
急に記憶が混濁してきて、また別の映像が浮かんだ。
周囲を取り囲むのは、恐ろしい顔をした大人達だ。
彼らはよってたかって不是を痛めつけ、あらゆる配給物資を奪っていく。
誠と同様に、身寄りのない不是達もまた、悪党に暴力を振るわれていたのだ。
何を支給されても奪われ、彼と妹は飢え死にしかけていた。
そこで更に、別の記憶が頭に浮かんだ。
(これは……雪菜さん達か)
遠い日の神武勲章隊の雪菜や明日馬が、誠と共にいる様子である。
雪菜と楽しげに話す誠を、不是は陰から見ていたのだ。
その視線に羨望と激しい憎悪を感じ、誠は内心動揺したが、そこで最後の記憶が現れた。
(な……何だこれ……?)
不是と一体化した自らの手には、血の滴る石が抱えられていた。
暴力を振るう大人達が寝ている時、頭を殴り潰したのである。
初めて人を殺めた瞬間だった。
不是はしばし荒い呼吸で呆然としていたが、やがて石を投げ捨て、遺体の荷物を探った。
わずかばかりの食料を見つけ、不是は走った。
妹が待ってる。腹を減らして倒れてるんだ、早く届けてやらなければ……!!!
…………だが全ては遅かったのである。
妹は餓死していた。冷たく強張り、もう目を開ける事は無かったのだ。
彼女が大事に持っていた松ぼっくりが……家族で拾った思い出の品が、ひからびて不是の足元を転がっていく。
(~~~~~っっっ!!!!!)
激情が、幼い誠の……不是の中に溢れ返った。
どうして何も悪い事をしていないこの子が、あんな屑どものために死なねばならなかったのだろう。
世を憎み、天を恨んだ。
自分から何もかもを奪った世界に復讐する事を誓った。
そして誠は、そばの掲示板に目をやった。
様々な避難情報が書かれた掲示板……その右端に書かれた日付は、誠が雪菜達に初めて会った日だった。
誠が救われたあの日、同じ避難所で産声を上げた修羅が、今目の前に立ちはだかっているのである。
(……もしあの時、雪菜さん達が不是の方に向かってたら……別の道を通ってたら、逆の立場だったかも知れない……)
誠は改めて己の境遇を省みた。
(俺には雪菜さん達がいてくれた。守ってくれる人がいたし、助けてくれる女神も……ヒメ子もいた……!)
(不運だなんてとんでもない……俺は本当に大事な時は、とことん運に恵まれてたんだ……!)
(もし1つでも『歯車』がかけ違えば、不是と同じになってたかも知れない……!)
………だがそれでも、2人の道は分かれたのだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
黒神と忌み子のはつ恋
遠野まさみ
キャラ文芸
神の力で守られているその国には、人々を妖魔から守る破妖の家系があった。
そのうちの一つ・蓮平の娘、香月は、身の内に妖魔の色とされる黒の血が流れていた為、
家族の破妖の仕事の際に、妖魔をおびき寄せる餌として、日々使われていた。
その日は二十年に一度の『神渡り』の日とされていて、破妖の武具に神さまから力を授かる日だった。
新しい力を得てしまえば、餌などでおびき寄せずとも妖魔を根こそぎ斬れるとして、
家族は用済みになる香月を斬ってしまう。
しかしその神渡りの神事の際に家族の前に現れたのは、武具に力を授けてくれる神・黒神と、その腕に抱かれた香月だった。
香月は黒神とある契約をしたため、黒神に助けられたのだ。
そして香月は黒神との契約を果たすために、彼の為に行動することになるが?
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
女神アテナに立ち向かった地中海の少女は、転生させられても諦めない
トキノナガレ
キャラ文芸
神アテナの怒りに触れて赤子に転生させられた少女エヴァが、やがて地中海の伝説のヒロインになる物語。
幼馴染の3人の少年たちを救うために、賢すぎるエヴァは女神アテナに抗うが、その結果、遠い東の地へ赤子として転生させられてしまう。
それから13年が経ち、凛々しく育ち、ゲンカンと呼ばれるようになった少女は、愛する少年を追いかけて、西へと向かう。
旅の途中で幼馴染の3人に再会した少女は、アテナイの女神に会いにいく。そして、地中海の故郷の危機を救うために大活躍することになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる