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第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編

魔王を呼ぶ多宝塔

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 誠はしばし、無我夢中で降下していた。

 なぜあんなにあっさり別れたんだろう?

 なぜもっと別れを惜しまなかったんだろう?

 そんな思いが胸によぎった。

 恐らく2度と鶴には会えない。

 ……それでも立ち止まれなかったのだ。

 この長い戦いの中、倒れていった多くの人が、女神が……そして命を削って戦い続けた鶴自身が、誠が止まるのを許さなかったのである。

 みんなが繋いだ最後のチャンスを、決して無駄にするわけにいかない。

 何か大きなものに突き動かされるように、誠はただ降下し続けた。



 …………どれぐらい降り続けただろうか。

 一際大きな亀裂をくぐり、誠は次のエリアに入った。

 辺りにはどす黒い邪気が立ちこめ、まるで火災の煙が充満しているかのようだった。

 霊気を凝縮した細い棒も、ここまで来るともう消えていた。

 既に床は姿を消し、赤い溶岩と黒々した岩場が見える。

(そうだ、あの夢………岩凪姫がいた夢と似てる)

 誠はそこで、かつての夢を思い出す。

 この冒険を始める前、女神が立っていた夢の岩場と、今の光景が酷似こくじしていたのだ。

 恐らく偶然の一致だろうが、きっと冒険の最後はここだ。誠は直感で理解したし、それは
『相手』も同じだっただろう。



 沸き立つマグマの中央に、一際大きな岩場が見えた。

 その岩場の上に、多宝塔たほうとうが建てられていた。

 大きさはせいぜい数メートル、一見してミニチュアの多重塔だ。

 この国を根底から揺るがす術を行うには、あまりに小さな代物である。

 しかし周囲には激しい邪気が渦巻いており、溶岩もそれと呼応するように燃え上がっていた。

(常夜命はどこだ? どこに消えた?)

 あれほど柱を揺さぶっていた常夜命は、今はその姿が見えなかった。

 けれど誠は楽観出来ない。危篤きとくした親戚の容態が持ち直し、帰りに誠が喜んだ時、祖母が言ったのを思い出したのだ。

『……人が亡くなるのうなる時は、少しよおなる事がある』

 祖母は言いにくそうに言葉を濁したが、その後親戚は亡くなった。

 もしかしたら、鶴のつかの間の元気さもそうだったかも知れない。

 そして今は姿の見えない常夜命も、同様にもっと恐ろしい何かに向けて、いったん姿を隠しているのだ。

「…………やっと来たか。随分待ったぜ?」

 投げかけられた声は、予想通り不是のものだった。

 誠の機体の画面上に、彼の顔が映し出される。

 不是は機体を宙に静止させ、眼下の多宝塔に向けて銃を発射した。

 硬い金属音と共に光の障壁が見え、宝塔には傷1つついていない。

「……夜祖にもらった結界だ、俺の意思と連動してる。万が一、てめえがここまで辿り着けたら作動させろとよ」

 不是はそこで耐え切れなくなったように背を丸め、それから仰け反って笑い始めた。

「分かってねえなあ、何が知恵の邪神だよ! てめえなら、たどり着けるに決まってるのによぉ!」

「…………そうか」

 誠は機体を向き直らせた。

 宙に浮いたまま、しばし相手の挙動を探る。

 だがいつまでも睨み合ってはいられない。

 外で戦う皆も、突入した隊員達もそして鶴も……誰もが長く持ちこたえられない。

 反魂の術が進めば、戦える邪神も増えるだろう。

 そうなる前にこの不是を打ち倒し、悪夢の術を破壊するのだ。
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