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第六章その10 ~決戦開始よ!~ 作戦名・日はまた昇る編

みんなで命を懸けましょう…!

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 航空戦艦の艦橋ブリッジ、その最奥部に立ったまま、雪菜はその時を待っていた。

 やるべき事は全て終え、後は女神の設定した午前6時を待つばかり。

 これ以上いくら考えても仕方ないし、作戦そのものは極めて単純なのだ。

 まずは機動力のある航空戦艦による強襲砲撃。

 その隙に人型重機を含めた地上部隊が突入し、敵の反魂の術を妨害。

 それによって具現化が不完全な邪神達を地の底に追い返す、という手はずだ。

 もちろん戦力は圧倒的に不利であり、こちらが見つけたわずかな勝ち筋……そのどれか1つの歯車が狂えば、もう為す術は無いだろう。

(駄目駄目っ、弱気にならないで雪菜っ! ここが正念場、天下分け目の大一番よ!)

 雪菜は悪い考えを追い払おうと首を振ったが、その時ふと、テーブル上の通信端末が輝いた。

 他の艦に乗る旧神武勲章レジェンド隊の仲間からである。

「そろそろだな。お前ら、居眠りしてないだろうな?」

 画面に映る船渡は、そう言ってニヤリと笑って見せる。

 明らかな強がりだろうが、その顔を見るだけで、雪菜は少し胸のつかえが軽くなった。

 分割された画面には、次々元神武勲章レジェンド隊の顔が映し出され、船渡はなおも話を続けた。

「相手は格上どころの騒ぎじゃない。一瞬で全てが決まる、ボーッとしてたら終わってるぞ」

「隊長のおっしゃる通りですね。相手が浮き足立ってる間に、さっさと決めてしまいましょう」

 輪太郎の言葉に、嵐山が拳を握る。

「十分よ。勝ち目があるなら、どんな遠い的だって当ててみせる。ずっとそうしてきたんだから……!」

 嵐山は珍しく鉢巻をしめており、襟元は白い着物のような衣裳であった。となると彼女はかつての弓道着に身を包んでいるのだろうか。

 そこでヒカリがいつものように軽口を叩く。

「ボクも全く問題ないね。10年分の苦労が一瞬で終わるんなら、まったくボロイ商売だよ」

「その分前払いしてんだろうがよっ」

 つかさの言葉に皆は笑うが、そこで船渡が怪訝けげんそうに尋ねた。

「……おいちひろ、お前なんか大人しいな。顔も赤いし……」

 ちひろはしばし黙っていたが、やがて何かを飲み込んで答えた。

「…………むぐっ、メンゴメンゴ! いや、きりたんぽが熱くてさあ」

「何戦いの前に食ってんだっ!」

「いやーだからメンゴ健児兄けんじにい、どーせ勝つんだから前祝いだよん♪ 今からご馳走考えないと。祝勝会は何たんぽにしようかな?」

「どんだけ食うんだっ、きりがないだろうがっ」

「続いていいじゃん、めでたい事はさ。健児兄けんじにいの好きなわんこそばと同じっしょ?」

「うっ……!」

 船渡は一瞬考え、宙を見上げて呟いた。

「それはまあ……ああっ、そば食いてえっ」

 一同はまた笑った。

 やがて船渡が全員に語りかける。

「よーし、それじゃ気合い入れていこうぜっ!」

『応っ!!!』

 雪菜達は一斉に答えた。

 多少会話のボリュームが大きすぎたせいで、艦橋ブリッジの兵員達は笑顔を見せている。

 指揮官が余裕を見せる事は、配下の兵にかなりの安心感をもたらすし、だからこれでよかったのだ……と雪菜は自分を納得させた。

「いや、やっぱり元気がいいですな。さすが神武勲章レジェンド隊、頼もしい限りです」

 すぐ近くに立っていた船団長の佐々木が、苦笑しながらそう言う。

 ロマンスグレーの髪を撫でつけ、背を真っ直ぐに伸ばした彼は、今や本当に威厳ある船団長である。

「こんな状況、沢山くぐり抜けてきましたから。今更どうって事ありません」

 雪菜は兵員達にも聞こえるように答える。

「それにしても、船団長自ら前線に出られる事は……」

「いやいや、わしが望んだ事だから。これで最後かも知れないし。最後ぐらい、若者と一緒に命をかけるよ」

 佐々木はそう言ってぎこちなくウインクした。

「今までみんなに頼りっぱなしだったし、おじさんも少しはいい格好したいのでね」

「ありがとうございます……!」

 雪菜は一礼し、それから正面に向き直った。

 再び、艦橋ブリッジに静寂が訪れた。

 この戦いに臨む全ての者達が、時計を見つめ、静かに時を待っている。

 ……………そしてその時は訪れたのだ。
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