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第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編

真面目な空気は苦手なの…!

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「………………」

 1人格納庫に残された誠は、内心まだ混乱していた。

 雪菜さん、カノン、鳳さん……次々に熱い接吻せっぷんをかまされ、それだけでもKO寸前だったのに、あげくの果てに天草さんまで……!

 順番に迫ってくる女性陣を思い出し、誠は再び赤くなった。

(こ、これが最後の生まれ変わりらしいから、もしかして何かのご褒美なのか……??)

 それにしては気まずいご褒美だ……などと考えていると、後ろから声がかけられた。

「ただいま黒鷹、みんな帰ったのね」

「っっっ!!?」

 誠がびくっとなって振り返ると、そこには鶴の姿があった。

 いつもと変わらない、健康的で明るい表情。

 長い髪をポニーテールにまとめ、鎧の下には空色の着物。

 最初に会った時より髪や背が伸び、少し大人っぽくなった鶴は、今やどこからどう見ても素敵な娘さんだった。

「……黒鷹、何かあったの?」

 鶴は誠の異変に気付き、首をかしげて不思議そうに尋ねてくる。

「あっ、いやっ……なっ、何でもないけど」

「本当に???」

「…………い、いや、うん……あんま本当じゃないかも」

「ふーむ…………まあいいわ」

 鶴はしばし誠を見ていたが、気を取り直して歩み寄ってきた。それから白い人型重機を見上げる。

 開発名・J―X2試作型心神。

 誠と鶴が乗り込み、日本中を駆け巡ってきたその雄姿は、かつて伝説のパイロットたる明日馬あすまが駆ったものである。

 初陣から長い時が経ったのに、内部の電子機器を交換しながら、今も人々を守り続けてくれているのだ。

 鶴は感慨深げに心神を見つめて言った。

「この鎧も、これで乗るのは最後だわ」

「……そうだな」

「いろんな事があったわね」

「あったな」

「いっぱい冒険したし、いっぱい黒鷹と話せたわ」

 そう語る鶴に、誠はどう答えていいか分からない。

 その気まずさは鶴にも伝染したらしく、彼女ももじもじし始めた

 やがて緊張に耐えかねたのだろうか。鶴はちょっとふざけた様子で口を開いた。

「そっ、そうよ。私はもともと、時が経つ程その良さが心に染みるレデイだから……黒鷹も分かってきたと思うのよね」

「そっ、それはまあ……そこそこ?」

「まあ、随分な言い方ね」

 2人は苦笑するが、そこから会話が続かないのだ。

「…………っ」

「…………っ」

 はっきり言って超気まずい……!

 どうしていいか分からず、互いにそわそわするのだったが……鶴はふざける以外の引き出しがなかったし、誠もツッコミ以外の武器を持たない。

 つまりはお互い手詰まりなのだが、それでもこのままというわけにはいくまい。今日が2人で過ごす最後の夜なのだ。

 戦国時代とこの現世……2回分の人生を駆け抜けた姫君との、最後の別れの時なのだから。

 誠は何度か躊躇ためらいつつ、タイミングを見て勇気を振り絞った。

「ひっ、ヒメ子っ……!」

「!」

 鶴がびくっと震えるが、誠は更にもう一段階、勇気のレベルを引き上げた。

「そっ、その……ありがとな。生まれ変わってまで、助けに来てくれて」

「黒鷹……」

 鶴は感激したのか、少し潤んだ目で誠を見つめる。

 見つめて、そのまま目が合って……その事に後から気付いたのか、鶴は真っ赤な顔になった。

「そっ、それはね黒鷹、実は私のためでもあるのよ?」

 鶴は腰に手を当て、無理やり余裕の態度をとってみせる。

「私はこう見えて策士よ? みんなが元気で幸せになれば、その分私が楽できるのよ。だから聖者として現世に来たのは、鶴ちゃんの作戦なの」

「コマが聞いたら怒るだろうな」

 誠が苦笑すると、鶴はなおも得意げに言った。

「平気よ。コマときたら、それはもう不真面目だし、私がいないと何も出来ないんだから。もちろんナギっぺも同じだったわ」

 鶴はしきりに話し続け、話は明後日の方に脱線し始めた。




 物陰から見守っていた神使達は、その状況に頭を抱えた。

「ああもう、折角ええムードやったのに」

 キツネが言うと、眼帯を付けた狛犬がうなずく。

「泣いても笑っても最後なんじゃい。他に話す事があると思うが」

「モウこんな機会ないですのに」

 牛が悲しむと、猿がキセルをくわえて腕組みした。

「そう言いなさんな、色恋ってのは難しいんでさあ」

「くそっ、だから鍛えておけとあれほど……!」

 恋は筋肉では解決できないが、龍はたまらずダンベルを握り締めている。
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