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第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編
レジェンド隊・最後の夜1
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雪菜と天草が室内に入ると、そこには既に1人の女性がいた。
軍用ジャケットにタイトスカート。ストレートの長髪で、真っ直ぐ断ち切ったぱっつん前髪。
かつて同じ隊だった越中ヒカリである。
彼女は退屈げに部屋を歩き回っていたが、こちらを目にするや否や、凄い勢いで歩み寄ってきた。
「やあ、遅かったね2人ともっ! 若者らしくラブい事してきたかい?」
「……………………」
ヒカリの問いに、雪菜も天草も無言だった。
ヒカリはしばしこちらを見つめていたが、やがてド直球を投げ込んできた。
「うわあその顔、ふられちゃったのかい?」
「うっ……!!!」
雪菜はつい反応してしまったが、こうなったら隠しても仕方ない。
「……そっそのっ、面と向かって言われたわけじゃないけど、流石に分かるわ。ていうか無理っ、私じゃかなわないわよ! 人生2回分……ううん、500年分の愛情だもん」
ヒカリは肩をすくめて容赦のない感想を述べる。
「あーあ、逆源氏物語だったのにね。何も知らない無垢な男子を、背徳感ギリギリで理想の婿に仕立てたのに」
「人聞き悪すぎっ! 私は師匠キャラだったのよ?」
雪菜は思わずツッコミを入れた。
「……だから言ったじゃないヒカリ。最後まで分からないって」
「そうだね、雪菜の言う通りだ」
ヒカリはガシガシ後ろ頭をかいて、それから天草の方を見た。
「それはそうとさ、もう1人もふられた顔してるけど」
ヒカリの言葉とほぼ同時に、天草は全身真っ赤になった。
顔から湯気を出しながら、彼女は蚊の鳴くような声で詫びる。
「……そ、その雪菜、ごめんなさい。またかぶっちゃって……」
「ほんとに悪い子よね、瞳は」
雪菜が苦笑すると、ヒカリは調子よく後を続けた。
「うんうん、ボクがちひろ姉に言っておくよ。悪い子はなまはげに成敗して貰わなくちゃ」
雪菜はジト目でヒカリを睨む。
「他人事みたいに言ってるけど、そういうそっちはどうなのよ?」
「ええっ!? やっ、やだなあ、ボクの事なんてどうでもいいじゃないか」
ヒカリは目を丸くし、露骨に戸惑っている。
この愛すべき?同僚は、他人の恋は好き勝手気まま、情け容赦なくいじるくせに、自分の事は棚に上げるのだ。
その棚の総面積は驚愕に値するが、雪菜はそこに逃げ込む隙を与えなかった。
「どうでも良くはないわよヒカリ。人の色恋の時は鬼コーチだったんだから、今度はこっちも負けずに行くわよ?」
「もちろん私も行くわけだけども」
天草も頷き、2人でヒカリを挟み込む。
ヒカリはたちまち弱気になって、叱られた子犬みたいに大人しくなった。
「いっ、言ってなかったかい? ボ、ボクはそのっ、なかなかどうして腰抜けなんだよ……」
「……ほんと、いい歳して駄目な3人ね」
雪菜が言うと、天草もヒカリもおかしそうに笑うのだが、そこで賑やかな足音が聞こえてきた。
勢い良く扉が開くと、まずは女性が飛び込んでくる。
「いや~あ、メンゴメンゴ。もう忙しいなんてもんじゃないからさあ」
ショートカットの髪で、明るい顔立ちの彼女は本荘ちひろ。
いつも大抵ふざけているが、実は優しく面倒見のいい人物であり、何度も命を助けてもらった。
「ちひろお姉さんは根が真面目だからさあ。仕事に没頭してたら、こんな時間になっちゃったのよん」
「よく言いますね、隙あらばサボってましたよ?」
彼女の後ろから入室するのは、いかにも知的なメガネ青年・鯖江輪太郎だ。
ちひろと幼馴染である彼は、今も昔と変わらずツッコミ役を続けている。
「やれやれ、こっちも終わったぞ。いや、遅くなって悪いな」
「集合時間に遅れたんじゃ、後輩達に怒られるわね」
更に後に続いたのは、がっしりした巨体の船渡健児。
そしてこちらも長身の嵐山紅葉である。
2人とも謝ってくれているが、そもそも彼らは船団長であり、他のメンバーより忙しくて当然なのだ。
本来ならこの場に来られるだけで奇跡であり、恐らく優しい部下達が、2人を気遣って行かせてくれたのだろう。その薬指の指輪が示す通り、この2人は新婚さんでもあるからだ。
「うわっ、俺が最後かよっ。すまんみんな」
そう言いつつ入ってきたのは、頭に赤いバンダナを被った青年だった。
名は赤穂士といい、彼の姿が見えた途端、ヒカリはびくんとなって固まった。
そこで雪菜と天草が背をつついた。
「……ほらヒカリっ、さっきの威勢はどうしたのよ」
雪菜が小声で催促すると、ヒカリは困りながらつかさに言った。
「つ、つかさくんっ、チミは一体何をやってるんだ? 最近たるんどるよ」
「いや、お前に言われたくないんだよっ」
つかさはツッコミを入れるが、雪菜と天草は苦笑いした。
(……ほんと駄目ねヒカリは)
雪菜は自らを棚に上げながら思ったが、これでようやく神武勲章隊の全員がそろったわけである。
軍用ジャケットにタイトスカート。ストレートの長髪で、真っ直ぐ断ち切ったぱっつん前髪。
かつて同じ隊だった越中ヒカリである。
彼女は退屈げに部屋を歩き回っていたが、こちらを目にするや否や、凄い勢いで歩み寄ってきた。
「やあ、遅かったね2人ともっ! 若者らしくラブい事してきたかい?」
「……………………」
ヒカリの問いに、雪菜も天草も無言だった。
ヒカリはしばしこちらを見つめていたが、やがてド直球を投げ込んできた。
「うわあその顔、ふられちゃったのかい?」
「うっ……!!!」
雪菜はつい反応してしまったが、こうなったら隠しても仕方ない。
「……そっそのっ、面と向かって言われたわけじゃないけど、流石に分かるわ。ていうか無理っ、私じゃかなわないわよ! 人生2回分……ううん、500年分の愛情だもん」
ヒカリは肩をすくめて容赦のない感想を述べる。
「あーあ、逆源氏物語だったのにね。何も知らない無垢な男子を、背徳感ギリギリで理想の婿に仕立てたのに」
「人聞き悪すぎっ! 私は師匠キャラだったのよ?」
雪菜は思わずツッコミを入れた。
「……だから言ったじゃないヒカリ。最後まで分からないって」
「そうだね、雪菜の言う通りだ」
ヒカリはガシガシ後ろ頭をかいて、それから天草の方を見た。
「それはそうとさ、もう1人もふられた顔してるけど」
ヒカリの言葉とほぼ同時に、天草は全身真っ赤になった。
顔から湯気を出しながら、彼女は蚊の鳴くような声で詫びる。
「……そ、その雪菜、ごめんなさい。またかぶっちゃって……」
「ほんとに悪い子よね、瞳は」
雪菜が苦笑すると、ヒカリは調子よく後を続けた。
「うんうん、ボクがちひろ姉に言っておくよ。悪い子はなまはげに成敗して貰わなくちゃ」
雪菜はジト目でヒカリを睨む。
「他人事みたいに言ってるけど、そういうそっちはどうなのよ?」
「ええっ!? やっ、やだなあ、ボクの事なんてどうでもいいじゃないか」
ヒカリは目を丸くし、露骨に戸惑っている。
この愛すべき?同僚は、他人の恋は好き勝手気まま、情け容赦なくいじるくせに、自分の事は棚に上げるのだ。
その棚の総面積は驚愕に値するが、雪菜はそこに逃げ込む隙を与えなかった。
「どうでも良くはないわよヒカリ。人の色恋の時は鬼コーチだったんだから、今度はこっちも負けずに行くわよ?」
「もちろん私も行くわけだけども」
天草も頷き、2人でヒカリを挟み込む。
ヒカリはたちまち弱気になって、叱られた子犬みたいに大人しくなった。
「いっ、言ってなかったかい? ボ、ボクはそのっ、なかなかどうして腰抜けなんだよ……」
「……ほんと、いい歳して駄目な3人ね」
雪菜が言うと、天草もヒカリもおかしそうに笑うのだが、そこで賑やかな足音が聞こえてきた。
勢い良く扉が開くと、まずは女性が飛び込んでくる。
「いや~あ、メンゴメンゴ。もう忙しいなんてもんじゃないからさあ」
ショートカットの髪で、明るい顔立ちの彼女は本荘ちひろ。
いつも大抵ふざけているが、実は優しく面倒見のいい人物であり、何度も命を助けてもらった。
「ちひろお姉さんは根が真面目だからさあ。仕事に没頭してたら、こんな時間になっちゃったのよん」
「よく言いますね、隙あらばサボってましたよ?」
彼女の後ろから入室するのは、いかにも知的なメガネ青年・鯖江輪太郎だ。
ちひろと幼馴染である彼は、今も昔と変わらずツッコミ役を続けている。
「やれやれ、こっちも終わったぞ。いや、遅くなって悪いな」
「集合時間に遅れたんじゃ、後輩達に怒られるわね」
更に後に続いたのは、がっしりした巨体の船渡健児。
そしてこちらも長身の嵐山紅葉である。
2人とも謝ってくれているが、そもそも彼らは船団長であり、他のメンバーより忙しくて当然なのだ。
本来ならこの場に来られるだけで奇跡であり、恐らく優しい部下達が、2人を気遣って行かせてくれたのだろう。その薬指の指輪が示す通り、この2人は新婚さんでもあるからだ。
「うわっ、俺が最後かよっ。すまんみんな」
そう言いつつ入ってきたのは、頭に赤いバンダナを被った青年だった。
名は赤穂士といい、彼の姿が見えた途端、ヒカリはびくんとなって固まった。
そこで雪菜と天草が背をつついた。
「……ほらヒカリっ、さっきの威勢はどうしたのよ」
雪菜が小声で催促すると、ヒカリは困りながらつかさに言った。
「つ、つかさくんっ、チミは一体何をやってるんだ? 最近たるんどるよ」
「いや、お前に言われたくないんだよっ」
つかさはツッコミを入れるが、雪菜と天草は苦笑いした。
(……ほんと駄目ねヒカリは)
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