上 下
18 / 160
第六章その2 ~あきらめないわ!~ 不屈の本州脱出編

鬼ごっこ勝負よ!

しおりを挟む
 闇一色の空の下、餓霊どもはうごめいていた。

 下半身は輸送車で、そこから伸びる無数の蜘蛛足。

 上半身は人型で、優美な西洋鎧のような形状フォルムをしている。

 九州で『火車』と呼ばれた高速餓霊によく似たそれは、今はゆったりした動きだった。

 周囲の獲物を狩り尽くした所為せいだろうが、唐突にその静寂は破られた。

「やあ、こんにちは。こんばんわの方がいいかな?」

「……!?」

 ふと餓霊の足元から、妙に能天気な声が聞こえた。

 上半身の顔を向けて確認すると、子犬サイズの狛犬が、前足を上げて挨拶しているのだ。

「遊びに来たよ。調子はどう?」

「??????????」

 餓霊は一瞬混乱した。

 目の前の狛犬は、とても敵になるような力を持っていない。

 霊力もか弱いし、実力から言えば単なる獲物だ。

 その獲物がなぜ、自分から近寄って挨拶までしてくるのだろう……?

 餓霊には理解出来なかったが、それでも逃がすという選択肢はなかった。

 無数の足で地を蹴立てて旋回し、この小さな獲物を狩りとろうとする。

「鬼ごっこだね? よしきた、遊ぼう。他のみんなも一緒にね!」

 狛犬はそう言うと、ぴょんぴょん跳ねて走っていく。

 餓霊はスピードを上げて狛犬に迫る…………が、もう少しで手が届く辺りまで来ると、狛犬はジグザグに方向転換するのだ。

 伸ばした手が空振りし、つんのめりそうになりながら、餓霊はそれでも追跡を続けた。

 気が付くと、あちらからもこちらからも、他の餓霊達が集まってきていた。

 それぞれ狛犬やキツネ、猿や牛、龍といった神使を追いかけ、夢中になって走っている。

 やがて闇の彼方から、眩しい光が迫ってきた。人間どもの乗る輸送車両のライトであり、台数は僅かに1台。

 車はタイヤから火花を上げて疾走し、後ろから巨大な老婆が迫っている。

 いわゆる黄泉醜女ヨモツシコメであり、冥界の番人のような存在なのだ。

 神使達が車の後を追いかけるので、餓霊達こちらも自然に一塊ひとかたまりになっていく。



「鶴、黒鷹、予想通りついてきたよ!」

 誠達の輸送車に、窓からコマが飛び乗ってきた。

 他の神使達も同様だ。

「姫様、バッチリ連れて来たで!」

「モウ大漁です!」

「ありがとうみんな、最高よ」

 鶴は満足げに頷き、窓からニューと顔を出した。

 そのまま後ろを確認し、黄泉醜女ヨモツシコメにカメラを向けた。

「いいわ、凄い迫力ね」

 いや、撮ってる場合かよ、と思う誠だったが、鶴の顔は怒っているように見える。

「……見てなさい、ナギっぺやサクちゃんの分まで、たっぷり引っかきまわしてやるんだから……!」

 やがて前方に、建設中のマンモス居住区が見えてきた。

 車両は猛進し、居住区の中に突入していく。

 建設中の柱が、壁が現れては消えていく様は、まるで映画の模擬建築物セットの裏側を駆け抜けているかのようだ。

「それじゃ音ちゃん、あと頼むわね!」

「了解しました!」

 鶴が言うと、画面で音羽氏が親指を立てる。

 鶴が胸の前で手を合わせると、周囲に光が膨れ上がった。

 追いかけてきた餓霊も、黄泉醜女ヨモツシコメも、あまりの輝きに目をそらす。

 次の瞬間、誠達は瞬間移動していたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

処理中です...