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第四章その6 ~いざ勝負!~ VS闇の神人編

ダルマさんが転んだ

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「ぎっ!!?」

 天音は咄嗟とっさに邪気の防御壁シールドを編み上げ、少女の太刀を受け止めた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 凄まじい霊気が込められた一撃。強い、重い……そして耐えられない!!

 押し切られ、大きく体勢を崩した。

 すぐに小手先の術を放つが、相手の周囲の光に弾かれてしまう。

(この短期間に何があった!? 急激に霊力ちからを増している!)

 以前とはまるで別人である。

(単体では力負けする。距離をとって、他の聖者の気も練りこまねば……!)

 天音はなんとか二の太刀をかわし、素早く下がりながら意識を集中した。この身に宿る幾多の聖者のエネルギーを合わせれば、力の総量なら負けないはずだ。

 ……だが、それすらも叶わなかった。先ほどと同じ青い光弾が……それも多数が、一斉に迫っていたのだ。

「ぐううううっ!!?」

 天音は何とかそれらを弾いたが、状況が理解出来ない。

(目の前にあの娘が居ながら、なぜ下から同じ霊気が来る!?)

 目を凝らすと、山肌に複数の人型重機の姿が見えた。

 こちらが探索の邪気を引っ込めたせいか、それぞれ高台に駆け上り、至近距離から狙い撃っていたのだ。

 構える銃身に青い光が宿るが、それも1機だけではない。天音を狙う全ての機体から、霊力を込めた弾丸が発せられたのだ。

「弾丸に気を込めて渡してあるのか!? そんな事が……!」

 矢継ぎ早に迫る弾を防ぎながら、天音は驚愕きょうがくした。

 前もって霊力を込めた弾をもらった機体が複数箇所から攻撃し、あの娘が移動しているように見せていたのだ。

(こんな事が可能なのか? 術を込め、発射まで遠隔でぎょし続けるなどと……あんな雑な技しか使えなかったのに、短期間でそんな進歩を?)

 そして畳みかけるように攻撃は続く。

「今だよ玄太ぁ、いっけえええっ!」

 一際巨大な人型重機が高台におり、小柄な重機を振り回して投げつけてきた。投げられた加速と自機の推進力を合わせ、機体は錐揉きりもみしながら見事なバランスで宙を飛ぶ。まるで普段から投げられ慣れているかのようだ。

 更に気付くと、他のみねにも複数の人型重機が構えていた。

「いくぞキャシー、本場のタッチダウンパスだ!」

「なんくるないデス! ソータ、いくデスよ!」

 2体の重機が土台となり、隊長機らしい機体を乗せている。隊長機が肩を蹴るのと同時に、土台の2機が慣性力場でそれを送り出した。

 3機ぶんのエネルギー全てを加速に使い、離れた峰からかっ飛んでくるのだ。

「こ、こざかしいっ!!」

 天音はとっさに邪気を集中させると、両手に光の太刀を握った。そのまま迫る重機を串刺しにするべく刀を伸ばす。

「させないよっ!!」

 その瞬間、別の山肌に現れた重機が、長い槍を投げつけてくる。

 槍の口金には金ぴかのしゃちが飾られていた。派手で悪趣味で、けれど鋭い投擲とうてきだ。

 太刀で槍を弾く天音だったが、その間にジャンプした2体の重機が迫る。

「がんばれ玄太ぁっ!」

「壮太もしっかりっ!」

 そんな声に後押しされ、2体の重機はこちらに切りかかっていた。

 1体は上段から思い切り刀を振り下ろしてくる。命知らずの防御無視、相打ち覚悟で振り下ろすこれは……示現流じげんりゅうの太刀筋か。

 あの姫君の霊気を込めた輝く刀が、機体の全エネルギーを加えて叩きつけられる。

「ぐううううっ!!!」

 天音は何とか右の太刀で受け、耐えた。

 だがその間に、もう1体の重機が切りつけてくる。

 天音は左の太刀で受けるが、そこで目を疑った。

 やや小柄なもう1体の重機、こいつは二刀流だったのだ……!!!

 迫るもう一本の刃、こちらには受けるすべがない。

「な、舐めるなあああっ!!!」

 天音は全身の邪気を一気に押し広げる。全ての気を放出し、2体の重機を吹き飛ばしたのだ。

 落下していく襲撃者達、対してこちらはまだ無傷。

 しかし安堵あんどする天音に、再度あの姫君が迫っていた。

 象ほども巨大化した狛犬が山肌を蹴立て、こちらに向かって大きくジャンプ。更にその背を蹴った姫君が、一直線に天音を狙う。

「やああああああっ!!!」

 髪を、着物を、白いハチマキを閃かせ、姫君は叫んでいた。恐ろしい程の霊力が込められた太刀が迫る。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 凄まじい衝撃がどてっ腹に突き抜け、天音は大きく後退していた。

 目をやると、腹に青い横筋が走り、そこから大量の邪気が溢れ出ていた。

(食らった、食らってしまった……!)

(深手だ、痛い……いや、崩れる……!)

 邪気はコントロール出来ずに漏れ出ていたし、主たる人格の天音がダメージを負った事で、この身に宿す幾多の魂が抜け出しそうだ。

「手ごたえありよ」

 狛犬の背に着地し、姫君はこちらを見据える。

 天音は必死に声を絞り出した。

「ぎぎっ……! き、貴様、一体どこにいた……!?」

「簡単だわ。未来の遊びで『ダルマさんが転んだ』よ」

「なっ……!?」

「これだけ大地の気で満たせば、下に居ると思ったでしょ? あなたが下に気を取られたから、後ろからこっそり近づいたの」

「なん……だと……!?」

 天音は驚愕した。

 最初からこの場所には潜んでなかった?

 大地の気を溢れさせ、いかにもそこに隠れているように見せかけ、本人は離れた場所から様子をうかがっていた。

 天音が大量の邪気を練り込んで下だけを探っている間に、彼女はどんどん近づいていたのだ。

(あの霊気の果たし状も、守り鈴で挑発したのも……全てこちらを苛立たせるため……! それにまんまと乗ってしまい、視野狭窄しやきょうさくに陥ったのか……!)

 天音は今更ながらその事に気付いた。

「勿論、私だけじゃ無理な作戦。でもみんなが私のフリをしてくれて、あなたの注意を引き付けてくれた」

 鎧姿の姫君は、そこでびしりと天音を指差した。

「あなたは大勢の聖者を取り込んでるし、私1人じゃかなわない。でも私には、その分頼れる仲間がいるの」

「ふざけるなっ……ふざける……うううっ!」

 必死に言葉を搾り出す。

 何とか力をコントロールし、この憎い相手をほうむってやる。

 そう思えば思う程、体中から気が漏れ出す。このままでは……魂が崩壊してしまう。

 口惜しいが、ここは退くしか手が無いのだ。

「覚えていろ……忌々しい神人よ……! この借りは必ず返すぞ……!」

 天音はなんとかたいひるがえすと、残った全ての力で空間転移した。
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