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第四章その6 ~いざ勝負!~ VS闇の神人編

やっと隙を見せたわね!

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 闇の神人・鳳天音おおとりあまねは苛立っていた。

 雲下の探索は進み、既に多数の車両は破壊したが、本命の航空戦艦とやらが見つからないのだ。

 陸上兵器ごとき脅威でも何でもないが、戦艦の大口径砲なら勝手が違う。

 自らも痛手をこうむるかもしれないし、砲撃で視界が悪くなったディアヌス様が、闘神・永津彦の不意打ちを食らうかもしれない。

 そうなる前に探り出し、必ず打ち壊さなければ……!

「さあ、どこに隠れている? 例え打ち出の小槌を使ったとしても、我が探知をすり抜けるのは不可能だぞ……?」

 だが天音がそう呟いた時である。

 一瞬、眼下の雲が揺らいだかと思うと、青い光条がこちらに迫った。

「くだらんっ……!」

 天音は問題なく対処し、余裕をもって邪気で弾いた。

(弾丸に気をまとわせている。あの女、誰かの機体に乗っているのか?)

 天音は口元に笑みを浮かべた。

「ならそれが貴様の棺桶だ!」

 頭上の邪気球から、黒い流星のような攻撃が、唸りを上げて駆け下る。

(仕留めたか……?)

 天音はしばし様子をうかがうが、今度は全く別の方向から同様の光が襲ってきた。

「くっ!?」

 予想外の角度であったため、天音は少し下がりながら防いだ。

 そうしながらも頭上の手は下ろさず、邪気の矢で反撃を行う。

(一瞬であそこまで移動した? 転移しながら術を編み上げ、弾に込めて放っただと?)

 天音は続けざまに邪気の矢を放つが、またも別方向から弾丸が襲ってきた。それも今までとは全く異なる巨大な弾頭……いや、大砲に近いか。

「ええい、何だこのでかい弾は!?」

 天音は身をよじってかわすが、内心は穏やかではなかった。

(この術の威力と作成速度はやさは何だ? 短期間でこうも上達する事があるのか……!?)

 天音は少々いぶかしんだが、首を振って迷いを断ち切る。

 掲げた腕に力を込め、頭上の黒い邪気の玉を、何倍にも巨大化させた。

「どれだけ動こうと同じ事。避けられない程大量の矢を浴びせてやれば……!」

 だが次の光景は、天音の予想を超えたものだった。眼下の雲間のあちこちが輝くと、青い光弾が複数箇所かしょから襲ってきたのだ。

「なっ、何だとっ!!?」

 もし大地の気が溢れていなければ、遠間から攻撃を察知して避けただろう。

 もし大量の邪気を練り込んで航空戦艦を探しておらねば、簡単に攻撃を防げただろう。

 そしてもし、残った力を攻撃に使おうとしたタイミングで無ければ、防ぐエネルギーも足りただろう。

 しかしあらゆるが重なって、防御がうまくいかなかった。

 多数の弾丸を弾いた瞬間、不覚にもよろめいてしまったのだ。体勢も気のコントールも乱れ、一瞬、攻めも守りもままならなくなる。

 それを狙いすましていたのだろうか。

 彼方の雲間を突き破り、巨大な艦影が姿を現した。敵方の切り札、2隻の航空戦艦である。砲は既にエネルギーを溜めており、青い光を帯びて輝いていた。

 次の瞬間、無数の砲弾が殺到……!!!

「ぐううっ!!!???」

 天音はたまらず頭上の手を下ろした。

 攻撃を一時あきらめ、両手を使ってガードするも、大威力の艦砲射撃に押されてしまう。

 このままではまずいと思い、雲下を探っていた邪気も解除し、防御に回した。これでエネルギーは十分である。

 身の内に激しい力が溢れると、艦砲射撃を立て続けに弾いたのだ。

「悪あがきは終わりだ、人間ども!!!」

 天音が叫ぶと、先ほどとはケタ違いに太い、巨大な龍のような邪気が複数放たれ、人間どもの船に殺到する。鋼鉄の装甲を容易く射抜き、一撃のもとに破壊したのだ。

 爆発、そして空中にて散華さんげ

 ばらばらと舞い落ちていく残骸を見据え、天音は思わず高笑いした。

「あはははは、これが新兵器だと? 笑わせるな! これで私の……」

 だがそこで天音は気付いた。

 落ちていく戦艦の周囲には、人の死体が見当たらないのだ。

(何だ、一つもかばねが無い!? しかもこれは……旧型艦だと?)

 艦の破片……その艦底部は、普通の護衛艦のように尖った形状だった。

 新型の航空戦艦であれば、陸での使用が前提のため、艦底はやや平らになっていたはず。

 つまりこれは旧式の船。旧型艦に属性添加機をごてごて付けて、無理やり浮かせていたのだろうし、速度が遅く、実戦には使えぬ代物だった。

(旧型艦を無理やり浮かせて……しかも中身はもぬけの殻だと……!? 砲を霊気で操っていたのか……!?)

 さすがの天音も余裕を失っていた。

 次はどこから攻撃が来る? 何が狙いだ、本命は何だ!?

 天音は必死に眼下の青い気の海に目を凝らした。

(くそっ、どこに潜っている? どこに、一体どこに……)

 だがその刹那、天音は不意に異変を感じた。

 足元に広がる雲海が、不自然にざわめいている。

 何か大きな力が来るのだ。

 そしてそれは……後ろからか……!!!

「……やっと隙を見せたわね!」

「!!!???」

 天音は全身総毛立つのを感じた。

 振り返ると、背後からあの姫君が突っ込んでくる。

 巨大化した狛犬に乗り、太刀を抜き放って、真っ直ぐこちらに迫ってくるのだ。
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