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第四章その5 ~さあ反撃だ!~ やる気満々、決戦準備編
永津彦は少年に笑う
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ほぼ同じ頃。誠と鶴、そしてコマは、巨大な拝殿の中にいた。
板張りの床と、立ち並ぶ太い柱。奥の高座には巨大な椅子があり、そこに闘神・永津彦が座していた。
拝殿の両脇には、あの全神連・西国本部の皆さんや、子犬ぐらいの大きさの神使達も並んでいた。でも今は、彼らに頼る事は出来ない。
彼らは皆、包帯やケガにまみれている。死に物狂いで人々を守り、そして疲れ果てているのだ。それは隣に座る鶴とコマも同じであろう。
だから今は誠自身が、全身全霊で神を説得するのだ。
誠は永津に頭を下げ、事の仔細を説明した。
霊圧は相変わらず凄まじかったが、今は怯んでなどいられない。
「このような次第となります。恐れながら、地脈の開放の許可をいただけないでしょうか」
「………………」
永津彦はしばらく黙っていたが、やがて言葉を発する。
「……理解した、だが解せぬ。何故人の貴様が、大蛇の弱みに気付いたのだ」
永津は試すようにそう尋ねる。威圧感が更に増し、息苦しさが全身を襲ったが、誠は怯まずに答えた。
「分かるまで、ずっと見ておりました……!」
そこで真っ直ぐ永津彦の顔を見上げる。
「どのみち呪いでループするなら、分かるまで何万回でも見ようと思い。せっかくの機会でしたので……!」
一瞬、その場の空気が凍った。
「……せ、せっかくですと……!?」
両脇に並ぶ全神連の誰かが、思わず口に出してしまった。
「じょ、常人なら百度発狂してもおかしくない呪いを受けて、せっかく……???」
次の瞬間、凄まじい大音量が響き渡った。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
頭に、そして魂に、直接叩きつけられるかのような振動、波動。
ただしはっきり分かるのは、それが笑い声という事だった。
眼前の高座に座る永津彦は、一頻り大口を開けて笑うと、勢い良く立ち上がった。
地響きを立て、一歩、二歩と前に進むと、誠の前に身を屈める。
「なんと、永津彦様が……!?」
神使や全神連の人々が驚いているが、誠はそれどころではない。凄まじい霊圧が肌を叩き、気が遠くなりそうだった。
それでも誠は前を見る。今逃げるわけにはいかないからだ。
永津は咆えるような迫力で、眼前の誠に語りかける。
「何とも愉快な輩だ。此度の戦、貴様の考えに任せよう、見事やり遂げて見せよ……!」
永津はそこで手を差し出す。
やがてその手に光が宿ると、古代の刀が……持ち手が金細工で装飾された、美しい環頭太刀が現れた。凄まじい霊気が凝縮された、神の分身とも言える武器である。
「発する礫に宿らせよ。それを使わば、彼奴の身に響くだろう」
つまり弾丸の先にこの剣の霊気を込め、ディアヌスを射抜けという事だ。
太刀は人間サイズに縮み、誠の眼前に浮かんだ。誠は慎重に太刀を受け取り、頭を下げた。
「有難き幸せにございます。必ずやあの魔王を討ち果たしてご覧に入れます……!」
言いおるでこいつ、と驚く神使達だったが、ふと横手から聞きなれた声がかかった。
「……頑張ってね黒鷹くん。私達も協力するわ」
誠が見ると、そこにいたのは2人の女神だった。
1人は長身で切れ長の目が凛々しい岩凪姫。
もう1人は柔らかな雰囲気で、髪に桜の花を挿した佐久夜姫だ。
「富士なら私の鎮座地だから、少しでも魔王の足を止められる。足元から縛って、避けられないようにするから、任せて……!」
佐久夜姫はそう言って、「ファイト!」と言うかのように、ぐっと手を握ってみせる。
本来なら近寄りがたいほど美しい女神なのに、こういう仕草は本当にチャーミングだ。
「頑張ります! それでは準備にかかりますので、これにて失礼いたしますっ!」
誠達は素早く一同に頭を下げると、急いで拝殿から退出していった。
少年が去った後も、拝殿には妙な空気が残っていた。
全神連の面々も、そして神使達もぽかんとしている。
しばし後、神使のキツネが呟いた。
「なんやあいつ。ちょっと見ん間に、えらい変わりようやな……」
そこで神使の牛が答える。
「そろそろ我々も認めるべきでしょうかね」
宙を見上げ、牛は少しいい顔で続けた。
「……きっと、モウその時なのです」
「そんなわけあるかい、多分悪いもんでも食べたんやで。なあ辰之助」
「ふーむ、プロテインでも差し入れするか?」
話し合う神使達をよそに、佐久夜姫は隣に立つ姉を見つめる。
姉の岩凪姫は、腕組みしたまま目を閉じていた。
何も言わなかったが、口元は少し笑みのように歪められている。
きっと姉も満足しているのだろう、と佐久夜姫は思う。
普段は厳しく見えるし、怖がられやすい姉だけれど、鶴ちゃんや黒鷹くんを見守る様は、まるで我が子に対するようである。
きっと全てがうまくいくのだろう……いや、そうなってほしい。
遠い昔に傷心した姉だけに、もうこれ以上悲しい思いはさせたくないのだ。
そんなこちらの内心をよそに、永津彦は立ち上がって背を見せた。
無骨な武神の後ろ姿を見送りながら、佐久夜姫は悪戯っぽく言ってみる。
「どうです、凄い子達でしょう?」
「………………まだ、分かりませぬな」
永津彦は足を止め、振り返らずにそう言った。
「分かりませぬが…………面白いのは確かかと」
永津彦はそのまま拝殿の端へと消えて行った。
佐久夜姫は微笑んで呟いた。
「ほんとに……人って不思議よねえ」
板張りの床と、立ち並ぶ太い柱。奥の高座には巨大な椅子があり、そこに闘神・永津彦が座していた。
拝殿の両脇には、あの全神連・西国本部の皆さんや、子犬ぐらいの大きさの神使達も並んでいた。でも今は、彼らに頼る事は出来ない。
彼らは皆、包帯やケガにまみれている。死に物狂いで人々を守り、そして疲れ果てているのだ。それは隣に座る鶴とコマも同じであろう。
だから今は誠自身が、全身全霊で神を説得するのだ。
誠は永津に頭を下げ、事の仔細を説明した。
霊圧は相変わらず凄まじかったが、今は怯んでなどいられない。
「このような次第となります。恐れながら、地脈の開放の許可をいただけないでしょうか」
「………………」
永津彦はしばらく黙っていたが、やがて言葉を発する。
「……理解した、だが解せぬ。何故人の貴様が、大蛇の弱みに気付いたのだ」
永津は試すようにそう尋ねる。威圧感が更に増し、息苦しさが全身を襲ったが、誠は怯まずに答えた。
「分かるまで、ずっと見ておりました……!」
そこで真っ直ぐ永津彦の顔を見上げる。
「どのみち呪いでループするなら、分かるまで何万回でも見ようと思い。せっかくの機会でしたので……!」
一瞬、その場の空気が凍った。
「……せ、せっかくですと……!?」
両脇に並ぶ全神連の誰かが、思わず口に出してしまった。
「じょ、常人なら百度発狂してもおかしくない呪いを受けて、せっかく……???」
次の瞬間、凄まじい大音量が響き渡った。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
頭に、そして魂に、直接叩きつけられるかのような振動、波動。
ただしはっきり分かるのは、それが笑い声という事だった。
眼前の高座に座る永津彦は、一頻り大口を開けて笑うと、勢い良く立ち上がった。
地響きを立て、一歩、二歩と前に進むと、誠の前に身を屈める。
「なんと、永津彦様が……!?」
神使や全神連の人々が驚いているが、誠はそれどころではない。凄まじい霊圧が肌を叩き、気が遠くなりそうだった。
それでも誠は前を見る。今逃げるわけにはいかないからだ。
永津は咆えるような迫力で、眼前の誠に語りかける。
「何とも愉快な輩だ。此度の戦、貴様の考えに任せよう、見事やり遂げて見せよ……!」
永津はそこで手を差し出す。
やがてその手に光が宿ると、古代の刀が……持ち手が金細工で装飾された、美しい環頭太刀が現れた。凄まじい霊気が凝縮された、神の分身とも言える武器である。
「発する礫に宿らせよ。それを使わば、彼奴の身に響くだろう」
つまり弾丸の先にこの剣の霊気を込め、ディアヌスを射抜けという事だ。
太刀は人間サイズに縮み、誠の眼前に浮かんだ。誠は慎重に太刀を受け取り、頭を下げた。
「有難き幸せにございます。必ずやあの魔王を討ち果たしてご覧に入れます……!」
言いおるでこいつ、と驚く神使達だったが、ふと横手から聞きなれた声がかかった。
「……頑張ってね黒鷹くん。私達も協力するわ」
誠が見ると、そこにいたのは2人の女神だった。
1人は長身で切れ長の目が凛々しい岩凪姫。
もう1人は柔らかな雰囲気で、髪に桜の花を挿した佐久夜姫だ。
「富士なら私の鎮座地だから、少しでも魔王の足を止められる。足元から縛って、避けられないようにするから、任せて……!」
佐久夜姫はそう言って、「ファイト!」と言うかのように、ぐっと手を握ってみせる。
本来なら近寄りがたいほど美しい女神なのに、こういう仕草は本当にチャーミングだ。
「頑張ります! それでは準備にかかりますので、これにて失礼いたしますっ!」
誠達は素早く一同に頭を下げると、急いで拝殿から退出していった。
少年が去った後も、拝殿には妙な空気が残っていた。
全神連の面々も、そして神使達もぽかんとしている。
しばし後、神使のキツネが呟いた。
「なんやあいつ。ちょっと見ん間に、えらい変わりようやな……」
そこで神使の牛が答える。
「そろそろ我々も認めるべきでしょうかね」
宙を見上げ、牛は少しいい顔で続けた。
「……きっと、モウその時なのです」
「そんなわけあるかい、多分悪いもんでも食べたんやで。なあ辰之助」
「ふーむ、プロテインでも差し入れするか?」
話し合う神使達をよそに、佐久夜姫は隣に立つ姉を見つめる。
姉の岩凪姫は、腕組みしたまま目を閉じていた。
何も言わなかったが、口元は少し笑みのように歪められている。
きっと姉も満足しているのだろう、と佐久夜姫は思う。
普段は厳しく見えるし、怖がられやすい姉だけれど、鶴ちゃんや黒鷹くんを見守る様は、まるで我が子に対するようである。
きっと全てがうまくいくのだろう……いや、そうなってほしい。
遠い昔に傷心した姉だけに、もうこれ以上悲しい思いはさせたくないのだ。
そんなこちらの内心をよそに、永津彦は立ち上がって背を見せた。
無骨な武神の後ろ姿を見送りながら、佐久夜姫は悪戯っぽく言ってみる。
「どうです、凄い子達でしょう?」
「………………まだ、分かりませぬな」
永津彦は足を止め、振り返らずにそう言った。
「分かりませぬが…………面白いのは確かかと」
永津彦はそのまま拝殿の端へと消えて行った。
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「ほんとに……人って不思議よねえ」
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