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第四章その3 ~ようこそ関東へ!~ くせ者だらけの最強船団編

横須賀の奇跡1

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 そして運命のあの日、大量の餓霊に襲われた避難区は、絶体絶命に陥った。

 雪菜達の神武勲章レジェンド隊も出撃したが、敵は数隊に分かれて進軍しており、とても全てのルートを防衛出来ない。

 予備の重機もあるにはあるが、死傷が続きパイロットも足りておらず、避難の船も間に合わない。

 この避難区に飢えた亡者が押し寄せるのも、最早時間の問題だった。

 人々は終わりを悲観し泣き叫び、あの同年代の子供達も、頭を抱えて震えていた。

 誠はその時考えた。

(そうだ、僕が守らなきゃ……!!)

 なぜかは分からないけれど、不思議とそう思えたのだ。

 子供じみたヒーロ―願望だったのか、毎日練習してきたという自負が、積み重なっていたせいなのか。

 もしかしたら、自分からすべてを奪った恐ろしい怪物どもへ、無意識に強い怒りを抱いていたせいかも知れない。

 誠は無我夢中で格納庫に行くと、予備の重機に飛び乗った。

「バカ言うな、お前は子供だ!」

 親方達は必死に止めたが、誠も負けずに嘆願した。

「シュミレーターはやったし、じっとしてても死ぬんでしょ!? どうせ死ぬなら、一か八かやらせて下さい!」

 当初は渋っていた親方も、最後には納得してくれた。

『よし坊主、行って来い! 死ぬ時はみんな一緒だ……!!』

 震えて汗ばむ小さな手で、初めて握った本物の操作レバー。

 人々は不安な顔で起動する重機を見つめ、あの子供達も、ぽかんとして誠を見送っていたっけ。



 ……そこからは、もう何が何だか分からなかった。

 シュミレーターと同じだった事、ぜんぜん違っていた事。

 思っていたよりやれた事、逆にやれなかった事。

 色んな事実が目まぐるしく判明したが、いちいち動揺する暇はない。

 肌を突き刺す怪物どもの殺気に足がすくみそうになったが、誠は死に物狂いで勇気を振り絞った。

 苦戦していた守備隊のパイロット達を助け、無意識に敵の動きを予想しながら、ただひたすらに引き金を引いた。

 まぐれなのかどうなのか、弾はかなりの命中率で敵の動きを止めてくれたし、諦めかけたパイロット達は、誠を見ると驚いて、再び勇気を取り戻した。

「こんな子供が……!」

「ちくしょう、俺達も負けてられるか!」

「あいつらそう長くは浜にいない、だからもちこたえろ!」

 そんな事を言いながら、ボロボロになっていた先輩達は立ち上がってくれたのだ。

 ……ただ、それでも味方は防衛線を後退させ、横須賀付近に追い込まれていった。

 更に悪い報せも飛び込んできた。

 敵の指揮官らしき巨大な餓霊……下半身は百足むかで、上半身は鎧武者のような怪物が、三浦半島の逗子ずし方面守備隊を蹴散らし、こちらに向かって来ているらしい。

 合流した守備隊によると、相手の赤い防御魔法……つまり電磁バリアは信じられない頑強さであり、こちらの攻撃をものともせず、突進して防御壁バリケードを踏み破る強敵らしい。

 ……しかしその時、誠は妙な違和感を覚えた。

 実際に餓霊どもと戦い、その脅威を肌で感じて、何かがおかしいと思ったのだ。

(そんな強い相手がいるのに、なんで今まで持ちこたえられたんだろう……?)

(あんな手強い怪物達が、なんで海辺の避難区だけは、なかなか攻められないんだろう?)

(そもそもなんで、最初から海辺にいないんだ? 『そう長くは浜にいない』って……何か怖がってるみたいに……)

 答えを探す誠だったが、ふと機体の足元に散らばるチラシに目をやった。

 よく駅や港に置かれている、A4サイズのその広告は、この三浦半島の北端にある水族館のものである。

 人懐こい?巨大なシャチが水飛沫を巻き上げ、人々が歓声を上げる様子が、夏の風物詩として写されていたのだ。

 誠はそこで思い当たった。

(そうだ、水だ……水かもしれない!!)



 急いで親方と連絡を取り、駄目もとでアイディアを伝えた。

 一部の大人は、そんなバカなと叫んでいたそうだ。ミサイルを防ぎ、戦車砲をも弾く餓霊が、ただの海水を恐れるはずがないと。

 そこで反論する人々を抑えたのは、帽子を被ったちょっと怖そうなおじさんである。

『いいんでねえの? どうせ他に手はねえんだ、黙ってても喰われるだけだろ』

 後で知ったのだが、関東で名高い伊能重工業を取り仕切る人物だった。

 避難区を維持する出資者様の発言に、反対する人々は押し黙った。

 そこで親方が言ったのだ。

『分かった坊主、やってみる。けどな、ただの消火ホースであいつに届くか?』

 押し黙る誠だったが、そこで画面に白衣のおじさんが進み出た。

『銃の添加機があるだろう。あれで挟んでみたらどうだ?』

 彼の白衣の裾には、あの大人びた顔の女の子がすがりついている。

 他にもダルマを持った少年や、写真を抱えた女の子もそばにいた。

 あまり特徴の無い黒髪の子も一緒にいたが、彼が一番目に力があって、無言で画面の誠を見つめている。目でわかる、頑張れと応援してくれているのだ。

 おじさんはすがりつく女の子の頭に手を置き、言った。

『ホースの先端を、添加機に使う伝導用合金で挟めばいい。100%伝わらなくても、射程が延びればいいわけだしな』

 要は電磁加速砲レールガンのように、属性添加機でホース先端をサンドイッチし、そのエネルギーで水を送り出すわけだ。

 親方は納得し、配下の若者達に怒鳴った。

『お前ら、添加機をかき集めろ! 予備のアサルトガンのも全部だっ!』

 そこで迷彩服姿の男性が、協力を申し出てくれた。

『すみません、自分は池谷と申します。隊は壊滅し、今は何の権限もありませんが、元陸自です』

 髪を短く切ったその人は、巨体だが人柄の良さそうな男性だった。

 今は指揮系統がほぼ止まり、機能停止に陥っていた自衛隊だが、いてもたってもいられなくなったらしい。

『敵がバリケードを破る攻城用の存在なら、メインのバリケードを後退させればおびき寄せられるはず。そして港近くまで来た時、道路を爆破して動きを止め、一斉に放水しましょう。攻撃に適した地点は…………この辺りでしょうか。巨体の餓霊が通りやすい大通りで、港までの直線道路です』

 彼は地図を指差しながら説明していく。

 この混乱が始まる直前に拡張された大通りは、確かに敵が通るのに適するだろう。しかも左右の中層ビルが死角になって、こちらの動きも見えにくいはず。

『なるほどな、敵さんが壊したい物をこっちの射程に引き寄せるわけか。敵もまさかそこまで海水が届くとは思ってないだろうし』

 親方の言葉に、池谷氏は頷いた。

『はい。それにもし、放水の力が必殺たりえなくても、視界を塞ぐ効果はあるでしょう。爆発で動きが止まり、放水で何も見えない所に一斉攻撃。さしもの敵も慌てるかもしれません』

『あんた、見かけによらず知将だな』

 親方が言うと、池谷はニヤリと笑みを浮かべた。

『こう見えて臆病ですから。更に言えば、こう見えて下っ端でした』

 池谷はそこで画面から誠を見つめる。

『君は……勇敢な子だな。私は無力だから、もう諦めかけていたけど……覚悟を決めた。君と一緒に戦うよ』

「…………」

 誠は無言で何度も頷いた。

 大人ってすごい。心の底からそう思った。

 誠の子供じみたアイディアを叩き直して、現実的な、完成度の高いものに変えていってくれる。作戦とはこうして磨くのか、と誠は素直に感動したのだ。

 絶望に染まりかけていた避難区は、にわかにあわただしくなった。
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