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第四章その1 ~大ピンチ!?~ 無敵の魔王と堕ちた聖者編
津和野へのごめんなさい
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目を開けた時、湖南は状況が理解出来ていなかった。
「………………?」
ぼんやりと霞む視界で、ゆっくりと周囲を見回す。
頭上にあるのは板張りの天井。
いつも見慣れた、全神連・西国本部の室内であるが、普段は間仕切りが取り除かれている広間は、今は障子で仕切られていた。
(……何だろう……あたし、一体どうしたんだっけ……?)
記憶が混乱しているが、任務でケガでもしたのだろうか? 確かに布団から出した右手は、包帯でぐるぐる巻きになっていた。
袖から察するに、着ているものは浴衣のようだ。
ゆっくりと顔を動かすと、点滴を吊るしたスタンドの下に、黒焦げになったそろばんが置いてあった。
湖南の生まれた逢坂家は、全神連でありながら、手広く商売を営む近江商人の家系である。
生まれた時、お守りとして各人に与えられる木のそろばんは、今はボロボロの炭になって、半分程が崩れ落ちていた。
(そろばんが……何で……?)
「!!!!!!!!!!!!」
湖南はそこで猛烈な勢いで上体を起こした。
ようやく記憶が繋がったのだ。
自分達は魔王ディアヌス、つまり八岐大蛇が人型に転じた戦闘形態と対峙し、その攻撃を受けた。
手も足も出ぬまま蹂躙された湖南達は、こうして奇跡的に一命をとりとめ、治療を受けていたのだろう。
魔王はどうなった? いやその前に、才次郎と津和野さんは……?
湖南は立ち上がり、点滴の管を引き抜いた。全身を突き刺すような痛みが走ったが、今はそれどころではない。
湖南が障子を乱暴に開けると、才次郎が驚いたようにこちらを見た。
「お、逢坂姉……!」
おかっぱ頭の才次郎も、あちこち包帯に包まれていたが、今は座布団に正座している。
浴衣のサイズが合っておらず、少し袖余りなせいもあって、普段は生意気な才次郎は、ずっと幼く見えていた。
才次郎の傍らには、白い布団が敷いてあって、そこに大人の女性が寝ていた。
顔も包帯で覆われているが、歳は20代の後半ぐらい。黙っていれば文句なしに美人と言っていい彼女は、全神連における湖南の先輩・津和野さんである。
トレードマークの豊かな黒髪は、ゆったりと右サイドで縛って前に回している。
よく病人がする髪型であり、幸薄そうだからやめた方がいいと忠告した事もあるのだが、津和野は決してやめなかった。
いつ任務で倒れてもいいように、という理由らしいが、本当に倒れるとは今まで考えた事もなかった。
少し焼け焦げたその髪を見つめ、湖南は足の力が抜けて座り込んだ。
いつから起きていたのか、津和野はうっすらと目をあけ、2人の同僚を見つめた。
「……なんとか……あなた達だけでも、守れましたわね」
津和野は満足げにそう言う。
「せ、先輩っ……津和野さんっ……!」
「……重機班では、あなたが隊長でしょうに……」
「そ、それは……でも今は、全神連ですから……!」
人型重機の操縦は、確かに湖南の方がうまい。
だからこそ津和野はサポート役に回ってくれたのだが……いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
「あたしらは平気、殺したって死なないから。津和野さんは、津和野さんは……!」
「……もちろん……平気ですよ」
津和野は安心させるように微笑んだ。
それから手を上げ、包帯だらけのありさまを眺めた。
「……平気ですけど……つくづくご縁がありませんわ…………また、婚期が遅れますわね……」
本当の事を言えば、津和野ならご縁は沢山あるはずである。優しくて、周囲の人をよく気遣ってくれる。きっと引く手数多なはずだ。
なのに嫁がないのは、若い湖南達が右往左往しているのを心配しての事だろう。
津和野をからかっていた才次郎だって、本当はその事に気付いていたはずだ。知っていて、でも素直に礼が言えなくて。あんな態度をとっていたのだ。
才次郎は涙ながらに訴えかけた。
「いつもからかってごめんなさい! だから早く良くなってよ!」
「…………もちろん……ですわ」
津和野は才次郎の頭を撫で、弱々しく微笑む。それから力無く手を降ろし、再び意識を失ったのだ。
「津和野姉っ!!!」
叫ぶ湖南と才次郎だったが、後ろから全神連の筆頭・高山が声をかけてきた。
「……大声出すな、今は寝かせてやれ」
振り返ると、作務衣姿の高山は、珍しく真面目な顔で腕組みしている。
「一応治癒は成功してる。魔王の魔法傷だから油断は出来んが、そもそも本気じゃなかったはずだ。言いにくいが……永津彦様を警戒して、片手間の魔法だったからな」
「………………」
魔王は手を抜いていた。その事は湖南も自覚している。
いつどこから来るか分からない神の攻撃を警戒して、全力の魔法で隙が出来るのを嫌ったのだろう。
五月蝿い蠅を追い払うような手抜きで、自分達はボロ雑巾にされたのだ。
「……他の連中もほとんど寝込んで動けんしな。全く、由緒ある全神連の西国本部が、あの魔王と神人だけで壊滅状態だ」
高山が言うと、後ろから眼鏡の似合う輪太郎が顔を出した。
「ですが筆頭、それでも解析ぐらいはできますよ?」
輪太郎もあちこち負傷しているようだったが、その動作はしっかりしていて、手にはノートパソコンを持っている。
「津和野さんが起きないように、どうぞこちらへ」
彼は一同を手招きし、湖南が寝ていた部屋へと誘う。
彼がテレビモニターの電源を入れると、画面には地図が、それも近畿・東海地方が表示された。
「今は姫様がおりませんので、こまかい感知は出来ませんが……魔王の邪気は強すぎるので、どこにいるかは丸分かりですね」
輪太郎の言葉通り、画面には赤い巨大な光点が輝き、魔王の位置を示している。
神人たる鶴姫様が使う神器、道和多志の大鏡ほどではなくても、敵を感知する全神連の道具は沢山ある。
今回は巨大すぎる魔王の気であるため、そうした感度のにぶいものでも、十分に相手の居所が分かるのだった。
「………………?」
ぼんやりと霞む視界で、ゆっくりと周囲を見回す。
頭上にあるのは板張りの天井。
いつも見慣れた、全神連・西国本部の室内であるが、普段は間仕切りが取り除かれている広間は、今は障子で仕切られていた。
(……何だろう……あたし、一体どうしたんだっけ……?)
記憶が混乱しているが、任務でケガでもしたのだろうか? 確かに布団から出した右手は、包帯でぐるぐる巻きになっていた。
袖から察するに、着ているものは浴衣のようだ。
ゆっくりと顔を動かすと、点滴を吊るしたスタンドの下に、黒焦げになったそろばんが置いてあった。
湖南の生まれた逢坂家は、全神連でありながら、手広く商売を営む近江商人の家系である。
生まれた時、お守りとして各人に与えられる木のそろばんは、今はボロボロの炭になって、半分程が崩れ落ちていた。
(そろばんが……何で……?)
「!!!!!!!!!!!!」
湖南はそこで猛烈な勢いで上体を起こした。
ようやく記憶が繋がったのだ。
自分達は魔王ディアヌス、つまり八岐大蛇が人型に転じた戦闘形態と対峙し、その攻撃を受けた。
手も足も出ぬまま蹂躙された湖南達は、こうして奇跡的に一命をとりとめ、治療を受けていたのだろう。
魔王はどうなった? いやその前に、才次郎と津和野さんは……?
湖南は立ち上がり、点滴の管を引き抜いた。全身を突き刺すような痛みが走ったが、今はそれどころではない。
湖南が障子を乱暴に開けると、才次郎が驚いたようにこちらを見た。
「お、逢坂姉……!」
おかっぱ頭の才次郎も、あちこち包帯に包まれていたが、今は座布団に正座している。
浴衣のサイズが合っておらず、少し袖余りなせいもあって、普段は生意気な才次郎は、ずっと幼く見えていた。
才次郎の傍らには、白い布団が敷いてあって、そこに大人の女性が寝ていた。
顔も包帯で覆われているが、歳は20代の後半ぐらい。黙っていれば文句なしに美人と言っていい彼女は、全神連における湖南の先輩・津和野さんである。
トレードマークの豊かな黒髪は、ゆったりと右サイドで縛って前に回している。
よく病人がする髪型であり、幸薄そうだからやめた方がいいと忠告した事もあるのだが、津和野は決してやめなかった。
いつ任務で倒れてもいいように、という理由らしいが、本当に倒れるとは今まで考えた事もなかった。
少し焼け焦げたその髪を見つめ、湖南は足の力が抜けて座り込んだ。
いつから起きていたのか、津和野はうっすらと目をあけ、2人の同僚を見つめた。
「……なんとか……あなた達だけでも、守れましたわね」
津和野は満足げにそう言う。
「せ、先輩っ……津和野さんっ……!」
「……重機班では、あなたが隊長でしょうに……」
「そ、それは……でも今は、全神連ですから……!」
人型重機の操縦は、確かに湖南の方がうまい。
だからこそ津和野はサポート役に回ってくれたのだが……いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
「あたしらは平気、殺したって死なないから。津和野さんは、津和野さんは……!」
「……もちろん……平気ですよ」
津和野は安心させるように微笑んだ。
それから手を上げ、包帯だらけのありさまを眺めた。
「……平気ですけど……つくづくご縁がありませんわ…………また、婚期が遅れますわね……」
本当の事を言えば、津和野ならご縁は沢山あるはずである。優しくて、周囲の人をよく気遣ってくれる。きっと引く手数多なはずだ。
なのに嫁がないのは、若い湖南達が右往左往しているのを心配しての事だろう。
津和野をからかっていた才次郎だって、本当はその事に気付いていたはずだ。知っていて、でも素直に礼が言えなくて。あんな態度をとっていたのだ。
才次郎は涙ながらに訴えかけた。
「いつもからかってごめんなさい! だから早く良くなってよ!」
「…………もちろん……ですわ」
津和野は才次郎の頭を撫で、弱々しく微笑む。それから力無く手を降ろし、再び意識を失ったのだ。
「津和野姉っ!!!」
叫ぶ湖南と才次郎だったが、後ろから全神連の筆頭・高山が声をかけてきた。
「……大声出すな、今は寝かせてやれ」
振り返ると、作務衣姿の高山は、珍しく真面目な顔で腕組みしている。
「一応治癒は成功してる。魔王の魔法傷だから油断は出来んが、そもそも本気じゃなかったはずだ。言いにくいが……永津彦様を警戒して、片手間の魔法だったからな」
「………………」
魔王は手を抜いていた。その事は湖南も自覚している。
いつどこから来るか分からない神の攻撃を警戒して、全力の魔法で隙が出来るのを嫌ったのだろう。
五月蝿い蠅を追い払うような手抜きで、自分達はボロ雑巾にされたのだ。
「……他の連中もほとんど寝込んで動けんしな。全く、由緒ある全神連の西国本部が、あの魔王と神人だけで壊滅状態だ」
高山が言うと、後ろから眼鏡の似合う輪太郎が顔を出した。
「ですが筆頭、それでも解析ぐらいはできますよ?」
輪太郎もあちこち負傷しているようだったが、その動作はしっかりしていて、手にはノートパソコンを持っている。
「津和野さんが起きないように、どうぞこちらへ」
彼は一同を手招きし、湖南が寝ていた部屋へと誘う。
彼がテレビモニターの電源を入れると、画面には地図が、それも近畿・東海地方が表示された。
「今は姫様がおりませんので、こまかい感知は出来ませんが……魔王の邪気は強すぎるので、どこにいるかは丸分かりですね」
輪太郎の言葉通り、画面には赤い巨大な光点が輝き、魔王の位置を示している。
神人たる鶴姫様が使う神器、道和多志の大鏡ほどではなくても、敵を感知する全神連の道具は沢山ある。
今回は巨大すぎる魔王の気であるため、そうした感度のにぶいものでも、十分に相手の居所が分かるのだった。
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