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~エピローグ~ 終わる世界
女神様とさよなら
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背を壁にもたせかけ、動けなくなった岩凪姫。
そんな女神に寄り添い、鶴はなんとか呟いた。
「な、ナギっぺ…………!」
こらえ切れず大粒の涙が溢れ、声は小刻みに震えている。
岩凪姫はうっすらと目を開け、弱々しく微笑んだ。
「鶴か……皆も、良く来てくれたな。こんなに人が詣でるのは……何千年ぶりだろう」
鶴はもうたまらなくなって、女神にしがみついて泣いた。
「ナギっぺ、遅くなってご免なさい……! ご免なさいっ……!」
鶴はそれ以上言葉が出ない。
……いや、鶴だけではない。
誠もコマも、難波もカノンも、宮島も香川も。皆がかける言葉を失っていた。
あの無敵に思えた女神の最後に、いつの日も支えてくれた母のような存在との別れに、どうしていいか分からないのだ。
「……気にしないでいいよ、お前のせいではないのだから。お前は、立派な神人だし…………私の自慢の娘だよ……?」
女神は鶴の頭を優しく撫でるが、そこで苦しげに身を震わせた。
「うっ……!」
全身に細波のように光が走り、終わりの時が近い事を示していた。
「そろそろ時間がない……これからの事を話すから、よくお聞き」
女神は鶴を、そしてその場の一同を順繰りに見渡す。
「これから日の本には、恐ろしい事が起こるだろう。幾多の邪神が蘇り、かつてない苦難が訪れる。それでも約束しておくれ。何があっても、決して望みを捨てないと。最後の最後まで生き延びて、きっと幸せを掴むのだ……」
「………………そのぐらい、分かってるわ……!」
鶴は涙声で答えた。
無理やりに笑顔を作り、女神の手をぎゅっと握る。
「……まったく、この鶴ちゃんを誰だと思ってるの……? 甘く見たら困るんだから……!」
「そうか……そうだったな」
鶴の一世一代の強がりに、岩凪姫は微笑んだ。
女神はそれから片手を上げ、鶴の胸にそっと当てた。
手には白い光が宿り、それは鶴の体を包み込んだ。
「な、ナギっぺ……?」
「私の残された霊力を……まだ使える部分を鶴に託す。それで少しは……戦えるだろう」
鶴は慌てて首を振る。
「だっ駄目よ、それじゃナギっぺが……!」
「……もう駄目だ。魂が……砕けるからな」
岩凪姫も首を振った。
「残りは……皆に分け与える。少しでも、お前達を守れるように……」
光の細波は、何度も女神の肌を駆け巡った。
段々早く、段々激しく。
それと同時に、女神の姿そのものも、少しずつ色を失っていった。
「ナギっぺ!!!!!」
鶴は再び女神にしがみつく。もう何も言えず、ただすがりついて泣くだけだった。
泣きじゃくる鶴の頬を、女神は最後に指でつついた。
「……ふふ、私の勝ちだ。とうとう、泣かせてやったな……」
微笑む女神は、白い光に姿を変えた。
光は大きく膨張し、やがて弾ける。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あたかも光の洪水であった。
無数の白い蛍火が、吹雪のように飛び交って、やがて天から降り注いでくる。
それは女神の魂の欠片である。
1つ1つはとても小さい。
けれど光は懸命に宙を舞い、人々の元に駆けつけた。
この災禍に怯えるどんな小さな命にも、光は寄り添い、彼らの体に吸い込まれていったのだ。
立ち尽くす誠達の周囲にも、幾つかの光が舞い踊る。
『泣くな。私はここにいるのだから』
そんなふうに言うかのようだ。
「……………………………………」
鶴は無言で座り込んでいた。
彼女の視線の先には、小さな肌守りが落ちていた。
鶴は震える手を伸ばし、そっとそれを手に取った。
もう離さぬように握り締め、胸に強く抱いたのだ。
そんな女神に寄り添い、鶴はなんとか呟いた。
「な、ナギっぺ…………!」
こらえ切れず大粒の涙が溢れ、声は小刻みに震えている。
岩凪姫はうっすらと目を開け、弱々しく微笑んだ。
「鶴か……皆も、良く来てくれたな。こんなに人が詣でるのは……何千年ぶりだろう」
鶴はもうたまらなくなって、女神にしがみついて泣いた。
「ナギっぺ、遅くなってご免なさい……! ご免なさいっ……!」
鶴はそれ以上言葉が出ない。
……いや、鶴だけではない。
誠もコマも、難波もカノンも、宮島も香川も。皆がかける言葉を失っていた。
あの無敵に思えた女神の最後に、いつの日も支えてくれた母のような存在との別れに、どうしていいか分からないのだ。
「……気にしないでいいよ、お前のせいではないのだから。お前は、立派な神人だし…………私の自慢の娘だよ……?」
女神は鶴の頭を優しく撫でるが、そこで苦しげに身を震わせた。
「うっ……!」
全身に細波のように光が走り、終わりの時が近い事を示していた。
「そろそろ時間がない……これからの事を話すから、よくお聞き」
女神は鶴を、そしてその場の一同を順繰りに見渡す。
「これから日の本には、恐ろしい事が起こるだろう。幾多の邪神が蘇り、かつてない苦難が訪れる。それでも約束しておくれ。何があっても、決して望みを捨てないと。最後の最後まで生き延びて、きっと幸せを掴むのだ……」
「………………そのぐらい、分かってるわ……!」
鶴は涙声で答えた。
無理やりに笑顔を作り、女神の手をぎゅっと握る。
「……まったく、この鶴ちゃんを誰だと思ってるの……? 甘く見たら困るんだから……!」
「そうか……そうだったな」
鶴の一世一代の強がりに、岩凪姫は微笑んだ。
女神はそれから片手を上げ、鶴の胸にそっと当てた。
手には白い光が宿り、それは鶴の体を包み込んだ。
「な、ナギっぺ……?」
「私の残された霊力を……まだ使える部分を鶴に託す。それで少しは……戦えるだろう」
鶴は慌てて首を振る。
「だっ駄目よ、それじゃナギっぺが……!」
「……もう駄目だ。魂が……砕けるからな」
岩凪姫も首を振った。
「残りは……皆に分け与える。少しでも、お前達を守れるように……」
光の細波は、何度も女神の肌を駆け巡った。
段々早く、段々激しく。
それと同時に、女神の姿そのものも、少しずつ色を失っていった。
「ナギっぺ!!!!!」
鶴は再び女神にしがみつく。もう何も言えず、ただすがりついて泣くだけだった。
泣きじゃくる鶴の頬を、女神は最後に指でつついた。
「……ふふ、私の勝ちだ。とうとう、泣かせてやったな……」
微笑む女神は、白い光に姿を変えた。
光は大きく膨張し、やがて弾ける。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あたかも光の洪水であった。
無数の白い蛍火が、吹雪のように飛び交って、やがて天から降り注いでくる。
それは女神の魂の欠片である。
1つ1つはとても小さい。
けれど光は懸命に宙を舞い、人々の元に駆けつけた。
この災禍に怯えるどんな小さな命にも、光は寄り添い、彼らの体に吸い込まれていったのだ。
立ち尽くす誠達の周囲にも、幾つかの光が舞い踊る。
『泣くな。私はここにいるのだから』
そんなふうに言うかのようだ。
「……………………………………」
鶴は無言で座り込んでいた。
彼女の視線の先には、小さな肌守りが落ちていた。
鶴は震える手を伸ばし、そっとそれを手に取った。
もう離さぬように握り締め、胸に強く抱いたのだ。
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