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第五章その10 ~何としても私が!~ 岩凪姫の死闘編
今度は守れたんでしょうか
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飛び去る天音を見送り、岩凪姫は呟いた。
「…………倒せなかったか……」
あの瞬間、咄嗟に攻撃出来なかった。
振り返り、いっぱいに目を見開いた天音。悲哀に満ちたその顔を見た時、何かが己を押しとどめたのだ。
その事がどれだけの災禍を撒き散らす事になるか、分別がつかぬわけでも無いのに……つくづく駄目な女神である。
そう思う岩凪姫だったが、今はそれどころでは無いのだ。
震える体を引きずり、夏木の元へ歩み寄る。
夏木はまだ辛うじて原型を留めていたが、長くもたないのは明白だった。
青紫の電流が、何度も彼を駆け巡り、今にも消滅しそうである。
「うっ……!」
上体を抱き起こされ、夏木は苦しそうに呻いた。
それでもうっすら目を開けて、弱々しく呟く。
「岩凪……さん…………ご無事……ですか……?」
こんな状況にも関わらず、夏木はこちらを心配していた。
「お前っ、お前どうして……! 構うなと言ったであろうがっ……!!!」
「…………言ったでしょ……守りますって……神様だって、辛いでしょうから……」
「…………っっっ!!!!」
もうたまらなくなって、我知らず夏木を抱き寄せていた。
頭を垂れ、無言でぎゅっと抱き続ける。
「………………最初の、頃、誰も……守れ……なくて……悔しく、て、」
夏木は途切れ途切れに言葉を綴る。
彼の体の感触は、次第に淡く不確かになった。
足元から黒い光に侵食され、その存在が消えようとしているのだ。
どこか夢を見るような……けれど優しい目で女神を見つめ、夏木は尋ねた。
「…………今度は…………守れ……たんでしょうか…………?」
頭を彼に寄せたまま、岩凪姫は頷いた。
何度も何度も……言葉が胸から出てくれるまで首を振る。
長い髪がくしゃくしゃに乱れて、夏木の白い将校服を包んだ。
(言葉よ間に合え。早くっ、早く私から出てくれ……!)
そんな祈りの甲斐あって、もどかしく震える喉から、ようやく声を絞り出す。
「……ああ、お前は守った。私を……ちゃんと守ってくれた……!」
心からの感謝の言葉を、岩凪姫は夏木に捧げた。
「ありがとう…………そなたは……立派な男だったぞ……!!!」
「……………………………………嬉しいな……」
それが最後の言葉だった。
夏木は僅かに微笑むと、やがて姿を消したのだ。
死んだのではない、彼の魂は消滅した。殲滅呪詛を食らい、あの世にもこの世にも存在しなくなったのだ。
今頃になって、涙がとめどなく溢れてくる。
霞む視界の片隅に、ふと何かが目に入った。彼に渡したお守りである。
震える手でそれを掴み、胸の前でぎゅっと握った。
「馬鹿者が……私なぞに関わるから、こんなふうに不幸になるのだ……!!!」
しかし時は待ってはくれなかった。
彼との別れを嘆く間も無く、その事実が迫っていたのだ。
「私も…………そろそろか」
何度か体に火花が走った。保とうとしても意識が遠退く。
夢を見ているような感覚で、ぼんやりと宙を見上げた。
長い長い旅だったような気がする。
神族に生まれ、何1つ怖いものがなかった少女の頃。
嫁入りに失敗し、泣いてばかりいた乙女時代。
そんな自分がよりにもよって、日の本奪還の大任を命じられた。
鶴や黒鷹達、全神連の皆と共に、なけなしの虚勢で戦い抜いた。
皆良く耐えてくれたし、本当に素敵な弟子達だった。
そしてまさかこんな自分が、人に愛される日が来るなんて…………本当に、何がなんだか分からないのだ。
「…………倒せなかったか……」
あの瞬間、咄嗟に攻撃出来なかった。
振り返り、いっぱいに目を見開いた天音。悲哀に満ちたその顔を見た時、何かが己を押しとどめたのだ。
その事がどれだけの災禍を撒き散らす事になるか、分別がつかぬわけでも無いのに……つくづく駄目な女神である。
そう思う岩凪姫だったが、今はそれどころでは無いのだ。
震える体を引きずり、夏木の元へ歩み寄る。
夏木はまだ辛うじて原型を留めていたが、長くもたないのは明白だった。
青紫の電流が、何度も彼を駆け巡り、今にも消滅しそうである。
「うっ……!」
上体を抱き起こされ、夏木は苦しそうに呻いた。
それでもうっすら目を開けて、弱々しく呟く。
「岩凪……さん…………ご無事……ですか……?」
こんな状況にも関わらず、夏木はこちらを心配していた。
「お前っ、お前どうして……! 構うなと言ったであろうがっ……!!!」
「…………言ったでしょ……守りますって……神様だって、辛いでしょうから……」
「…………っっっ!!!!」
もうたまらなくなって、我知らず夏木を抱き寄せていた。
頭を垂れ、無言でぎゅっと抱き続ける。
「………………最初の、頃、誰も……守れ……なくて……悔しく、て、」
夏木は途切れ途切れに言葉を綴る。
彼の体の感触は、次第に淡く不確かになった。
足元から黒い光に侵食され、その存在が消えようとしているのだ。
どこか夢を見るような……けれど優しい目で女神を見つめ、夏木は尋ねた。
「…………今度は…………守れ……たんでしょうか…………?」
頭を彼に寄せたまま、岩凪姫は頷いた。
何度も何度も……言葉が胸から出てくれるまで首を振る。
長い髪がくしゃくしゃに乱れて、夏木の白い将校服を包んだ。
(言葉よ間に合え。早くっ、早く私から出てくれ……!)
そんな祈りの甲斐あって、もどかしく震える喉から、ようやく声を絞り出す。
「……ああ、お前は守った。私を……ちゃんと守ってくれた……!」
心からの感謝の言葉を、岩凪姫は夏木に捧げた。
「ありがとう…………そなたは……立派な男だったぞ……!!!」
「……………………………………嬉しいな……」
それが最後の言葉だった。
夏木は僅かに微笑むと、やがて姿を消したのだ。
死んだのではない、彼の魂は消滅した。殲滅呪詛を食らい、あの世にもこの世にも存在しなくなったのだ。
今頃になって、涙がとめどなく溢れてくる。
霞む視界の片隅に、ふと何かが目に入った。彼に渡したお守りである。
震える手でそれを掴み、胸の前でぎゅっと握った。
「馬鹿者が……私なぞに関わるから、こんなふうに不幸になるのだ……!!!」
しかし時は待ってはくれなかった。
彼との別れを嘆く間も無く、その事実が迫っていたのだ。
「私も…………そろそろか」
何度か体に火花が走った。保とうとしても意識が遠退く。
夢を見ているような感覚で、ぼんやりと宙を見上げた。
長い長い旅だったような気がする。
神族に生まれ、何1つ怖いものがなかった少女の頃。
嫁入りに失敗し、泣いてばかりいた乙女時代。
そんな自分がよりにもよって、日の本奪還の大任を命じられた。
鶴や黒鷹達、全神連の皆と共に、なけなしの虚勢で戦い抜いた。
皆良く耐えてくれたし、本当に素敵な弟子達だった。
そしてまさかこんな自分が、人に愛される日が来るなんて…………本当に、何がなんだか分からないのだ。
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