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第五章その8 ~邪神が出ちゃう!~ 大地の封印防衛編

旧長野県上空にて

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 旧長野県の上空に、輝く3つの光があった。

 いずれも中に人型の存在があり、つまりはこの日の本を守る神々がまとった光である。

 一方で眼下の山間部には、巨大な柱が見て取れた。

 柱は2段重ねとなっており、下部にある古い柱は、既にかなりの部分が侵食されていた。上にのしかかった新しい柱が、下の柱を砕きながら吸収しているからだ。

「ぬううううっっっ!!!」

 やがて闘神・永津彦が全身に力をみなぎらせる。

 彼が胸の前で手を合わせると、巨大な柱を包むように、複数の光の輪が発生した。

「お姉ちゃん、私達も!」

「分かっている!」

 佐久夜姫、岩凪姫も同様に手を合わせ、同じような光の輪を柱の周囲に発生させた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 轟音が山あいに響き渡った。

 柱は回転速度を緩めたが、まだ完全には止まろうとしない。

「さすがに引きずられるわね……!」

 佐久夜姫が険しい顔で言うが、岩凪姫が後を受ける。

「いや、このまま続ければ止まるさ。柱の起動が不完全だった。お前や永津殿……それに全神連や黒鷹のおかげだ」

 神々は尚も力を込め続け、柱を締め付ける光の輪は、どんどんその数を増していった。

 時間をかけて複数の術を上乗せしているのであり、このままいけば、さしもの柱とて停止するだろう。

 3人の神は皆そう思っていたし、それが不可能になるなど、当時は誰も考えていなかった。

 …………けれど事態は、確実に最悪の方向に向かっていたのである。

 不意に神々の傍らに、女性の姿が映し出された。

 全神連の総代たる御殿みあらかうてなである。

 台は何度も口を開きかけ、躊躇ためらう事を繰り返している。最早泣きそうな表情にさえ見えた。

「許す、言え」

 永津が短く促すと、台はようやく言を発した。

「もっ、申し上げますっ! この期に乗じ、餓霊どもの軍勢が押し寄せております。数は不明ですが、東海地区の避難区が狙われており……!」

「なんだと……!?」

 永津も、そして2人の女神も絶句するが、やがて佐久夜姫が呟いた。

「……残った戦力を温存して、この機会に賭けてたのね」

「ああ。どう見ても陽動だが、いずれにせよ対処が必要だ」

 岩凪姫は頷くと、厳しい表情で台に告げる。

「台よ。我々は柱の傍から動けぬが、分霊わけみを使って各船団長に協力を要請する。お前達も尽力し、人の力で餓霊どもを撃退せよ」

「りょ、了解いたしましたっ……!」

 台は頭を下げ、映像は掻き消えた。

 岩凪姫は目を閉じ、思念の波動を彼方に送った。

「……気が進まぬが、黒鷹達にも伝えよう。あの子達の力も必要だ」
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