81 / 117
第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編
その儀式、待った!
しおりを挟む
儀式は滞りなく進んでいく。
『お二方』から賜った幣帛を収める奉幣の儀。
建築の神たる屋船豊受気姫命の加護を祈る立柱祭。
烏帽子を被った小工達が、木槌で柱を数度ずつ叩き清めると、柱はそれに応えるように、清い光を周囲に放った。
そして最終的には、国家の鎮守を願う厄除け祭事、国護御柱始式へと移るのだ。
これは作業に関わった全神連・御柱方全員で祝詞を奏上する儀式であり、『山に杭打つ』という意味合いから、大山咋神を始めとする日吉大社の祭神に……そして柱を立てる旧長野県の総鎮守・諏訪大社にも向けたものであった。
先頭に座す祭主・有待百代を眺め、台はふと考えた。
(有待……珍しく顔に出ているな……)
万感の思いを込めて柱を見上げる有待の心情は、台にも理解できた。
(当然でしょうね。この柱を作るため、全ての時を御柱殿で過ごしてきたのです。千年の長きに渡り、この国を守るためだけに生きた一族。私などはまだまだですね……)
この有待一族の晴れ舞台、本来であればもっと大勢が立ち会い、儀式にも参加する予定だった。
しかし今は未曾有の非常時。
10年に渡る災厄で全神連の人員も減り、さらには魔王の細胞の出現、テロ勢力の対応などで、殆どの者は走り回っているのだ。
よって柱の傍で儀式に参加するのは御柱方の面々だけ。法式殿から見守る一同も、通例よりずっと少ない数であった。
(本当に、未曾有の惨事でありました。この拙い身で、何とかお役目を果たせた事を、神々に感謝せねば……)
まだ気を緩めてはいけないものの、台は湧き出る安堵を抑え切れなかった。
数百年封じていた、女としての柔らかな感情がふつふつと溢れ、このまま倒れて眠ってしまいたいとすら思えた。
やがて永津彦様が、片手を前に掲げられた。手には青く輝く巨大な鍵が握られている。
次の瞬間、鍵が強く光を放つと、有待の頭上に転移していた。
鍵はゆっくりと降下し、有待は両手を伸ばしてうやうやしく受け止めた。
神による起動の許可……これをもって柱が動き始めるように作っているのだ。
(本当に長かった。犠牲になった配下の者達……そして外道に殺された無垢なる人々も……全ての者が報われる世になればいい)
だがそこで安堵の時は終わりを迎える。
その場に踏み込んだ不躾な輩、つまりあの黒鷹と呼ばれる少年によってだ。
転移のための魔法陣が輝き、着地と同時に少年は叫んだ。
「待った! その柱、動かすのはお待ちいただきたい!」
『お二方』から賜った幣帛を収める奉幣の儀。
建築の神たる屋船豊受気姫命の加護を祈る立柱祭。
烏帽子を被った小工達が、木槌で柱を数度ずつ叩き清めると、柱はそれに応えるように、清い光を周囲に放った。
そして最終的には、国家の鎮守を願う厄除け祭事、国護御柱始式へと移るのだ。
これは作業に関わった全神連・御柱方全員で祝詞を奏上する儀式であり、『山に杭打つ』という意味合いから、大山咋神を始めとする日吉大社の祭神に……そして柱を立てる旧長野県の総鎮守・諏訪大社にも向けたものであった。
先頭に座す祭主・有待百代を眺め、台はふと考えた。
(有待……珍しく顔に出ているな……)
万感の思いを込めて柱を見上げる有待の心情は、台にも理解できた。
(当然でしょうね。この柱を作るため、全ての時を御柱殿で過ごしてきたのです。千年の長きに渡り、この国を守るためだけに生きた一族。私などはまだまだですね……)
この有待一族の晴れ舞台、本来であればもっと大勢が立ち会い、儀式にも参加する予定だった。
しかし今は未曾有の非常時。
10年に渡る災厄で全神連の人員も減り、さらには魔王の細胞の出現、テロ勢力の対応などで、殆どの者は走り回っているのだ。
よって柱の傍で儀式に参加するのは御柱方の面々だけ。法式殿から見守る一同も、通例よりずっと少ない数であった。
(本当に、未曾有の惨事でありました。この拙い身で、何とかお役目を果たせた事を、神々に感謝せねば……)
まだ気を緩めてはいけないものの、台は湧き出る安堵を抑え切れなかった。
数百年封じていた、女としての柔らかな感情がふつふつと溢れ、このまま倒れて眠ってしまいたいとすら思えた。
やがて永津彦様が、片手を前に掲げられた。手には青く輝く巨大な鍵が握られている。
次の瞬間、鍵が強く光を放つと、有待の頭上に転移していた。
鍵はゆっくりと降下し、有待は両手を伸ばしてうやうやしく受け止めた。
神による起動の許可……これをもって柱が動き始めるように作っているのだ。
(本当に長かった。犠牲になった配下の者達……そして外道に殺された無垢なる人々も……全ての者が報われる世になればいい)
だがそこで安堵の時は終わりを迎える。
その場に踏み込んだ不躾な輩、つまりあの黒鷹と呼ばれる少年によってだ。
転移のための魔法陣が輝き、着地と同時に少年は叫んだ。
「待った! その柱、動かすのはお待ちいただきたい!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる