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第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編
全神連の暗殺部隊
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通路に並ぶ3人は、どう見ても異様だった。
まず左端に立つ女である。
白い衣を床まで引きずり、多数の勾玉や首飾りを纏っている。
長髪で顔の半分が隠れており、辛うじて覗く左目は、霊気を帯びて妖しく輝いていた。特に武器らしいものは持っていない。
対照的に右端に立つ青年は、全身に幾多の武具を携えていた。
両手に巨大な銅剣を下げ、背には丸木弓と矢筒。腰には蕨手刀も見える。
いずれの武器も、古墳から発掘されたような古めかしさだ。
そして中央に立つ男は、2人に勝る異質さだった。
歳は50代の半ば程だろうか。
痩せて頬のこけた顔立ちで、深く落ち窪んだ目は全てが黒目。更に体のあちこちには、ねっとりした赤茶色の土?がまとわりついている。
無理を承知で例えるなら、埴輪色をした粘性生物といったところだろうが、それは見る間に形を変えていった。
ざらざらと、無数の蟲が這い回るような音を立てて崩れると、また別の所に土の塊が現れるのだ。
(これが懲罰方か。鳳さんの言う通り、幹部がわざわざ来るって事は、部下は殆ど出払ってるはず。だったらこいつらさえ乗り切れば……!)
誠がそこまで考えた時、中央に立つ男が口を開いた。
「……とうとう血迷ったか、鳳飛鳥よ」
「懲罰方が御頭目、比良坂様。並びに巡刃様、千鏡様。どうかここをお通し下さい。ただちに柱を検分する必要がございます……!」
「……戯言を」
比良坂と呼ばれた男は、鳳の言葉を切って捨てた。
「……お前も知っているはずだ。柱には何人たりとも触れさせん」
「しかし、魔が入り込んでいるのです! 敵方の間者が……」
そこで長髪の女が声を荒げた。
「黙れ小娘っ、貴様がそうである可能性の方が高いのだ! 鳳の一族だからと見逃していたが、やはりお前も姉と同じく裏切り者かえ?」
「……っ!」
瞬間、鳳がびくりと震えた。
何かを言おうとして口を開き、そして思いとどまってしまう。
俯いて、悔しそうに……けれど何も言えない。そんな彼女を見るうちに、誠の中に強い感情が湧き上がって来た。
「…………っっっ!」
脳裏には、幼い日々が思い浮かんだ。
『こんな事になったのは、お前の親父のせいだろうが!』
『お前の親父が変な細胞いじってたからだろ!』
避難所にたむろす残虐な大人から、誠は日々虐げられていた。父のせいだと責められ殴られ、幼い自分は怯えて過ごしたのだ。
(もう誰もあんな思いはさせたくない。優しい鳳さんが、どれだけお姉さんの事を気に病んでたか……)
その事を、誠は痛いぐらい知っているのだ。
女はなおも言葉で鳳を嬲ろうとする。
「姉妹揃って神に弓引くとは、どれだけ恩知らずなのじゃ」
「やめろっっっ!!!」
誠は咄嗟に叫んでいた。
「それ以上言うなっ! この人は、ずっと自分を責めてたんだ!」
女は誠に視線を移す。
「……小僧。貴様には関係の無い事であろう?」
「大有りだっ!!!」
誠は必死に言い返した。
「俺は傍で見てきたんだ。天音さんの事で、この人がどれだけ辛い思いをしたか……この人は滅多にそういう事言わないけど、でもっ……!」
「……もう一度言おう、これは貴様が関わらずとも良い事。部外者が口を出すでない」
女の言葉に、剣を持つ青年が後を続けた。
「小僧、魔王を倒して頭にのっているのか? 貴様1人で勝ったと思うなよ」
「ああ思ってない、全く全然思ってないさ。ヒメ子や女神、鳳さんや全神連のみんな……神使はまあ好き勝手やってたけど……でもみんなのおかげで勝てたんだ。俺1人で、あんな化け物倒せるもんかっ!」
青年は満足げに答える。
「ならば大人しく下がっていろ。その命があるうちにな」
「死んでも下がるかっ! 鳳さんに、さっきの言葉を撤回してからだっ!」
だがそこで、誠は肩に違和感を感じる。
「……?」
目をやると、鳳が誠の肩に手を置いていたのだ。
俯いたまま、何度も何度も頷いて、少し身を震わせている。
以前九州でそうだったように、首筋も、耳までもが赤くなっていた。
「………私は…………幸せ者です……!」
「え……?」
誠が尋ねるのと、鳳がぐいと誠の肩を引き、前に飛び出るのが同時だった。
彼女は太刀を横薙ぎに振るうと、迫り来る何かを弾いた。
そう、いつの間にか懲罰方から、無数の攻撃が仕掛けられていたのだ。
まず左端に立つ女である。
白い衣を床まで引きずり、多数の勾玉や首飾りを纏っている。
長髪で顔の半分が隠れており、辛うじて覗く左目は、霊気を帯びて妖しく輝いていた。特に武器らしいものは持っていない。
対照的に右端に立つ青年は、全身に幾多の武具を携えていた。
両手に巨大な銅剣を下げ、背には丸木弓と矢筒。腰には蕨手刀も見える。
いずれの武器も、古墳から発掘されたような古めかしさだ。
そして中央に立つ男は、2人に勝る異質さだった。
歳は50代の半ば程だろうか。
痩せて頬のこけた顔立ちで、深く落ち窪んだ目は全てが黒目。更に体のあちこちには、ねっとりした赤茶色の土?がまとわりついている。
無理を承知で例えるなら、埴輪色をした粘性生物といったところだろうが、それは見る間に形を変えていった。
ざらざらと、無数の蟲が這い回るような音を立てて崩れると、また別の所に土の塊が現れるのだ。
(これが懲罰方か。鳳さんの言う通り、幹部がわざわざ来るって事は、部下は殆ど出払ってるはず。だったらこいつらさえ乗り切れば……!)
誠がそこまで考えた時、中央に立つ男が口を開いた。
「……とうとう血迷ったか、鳳飛鳥よ」
「懲罰方が御頭目、比良坂様。並びに巡刃様、千鏡様。どうかここをお通し下さい。ただちに柱を検分する必要がございます……!」
「……戯言を」
比良坂と呼ばれた男は、鳳の言葉を切って捨てた。
「……お前も知っているはずだ。柱には何人たりとも触れさせん」
「しかし、魔が入り込んでいるのです! 敵方の間者が……」
そこで長髪の女が声を荒げた。
「黙れ小娘っ、貴様がそうである可能性の方が高いのだ! 鳳の一族だからと見逃していたが、やはりお前も姉と同じく裏切り者かえ?」
「……っ!」
瞬間、鳳がびくりと震えた。
何かを言おうとして口を開き、そして思いとどまってしまう。
俯いて、悔しそうに……けれど何も言えない。そんな彼女を見るうちに、誠の中に強い感情が湧き上がって来た。
「…………っっっ!」
脳裏には、幼い日々が思い浮かんだ。
『こんな事になったのは、お前の親父のせいだろうが!』
『お前の親父が変な細胞いじってたからだろ!』
避難所にたむろす残虐な大人から、誠は日々虐げられていた。父のせいだと責められ殴られ、幼い自分は怯えて過ごしたのだ。
(もう誰もあんな思いはさせたくない。優しい鳳さんが、どれだけお姉さんの事を気に病んでたか……)
その事を、誠は痛いぐらい知っているのだ。
女はなおも言葉で鳳を嬲ろうとする。
「姉妹揃って神に弓引くとは、どれだけ恩知らずなのじゃ」
「やめろっっっ!!!」
誠は咄嗟に叫んでいた。
「それ以上言うなっ! この人は、ずっと自分を責めてたんだ!」
女は誠に視線を移す。
「……小僧。貴様には関係の無い事であろう?」
「大有りだっ!!!」
誠は必死に言い返した。
「俺は傍で見てきたんだ。天音さんの事で、この人がどれだけ辛い思いをしたか……この人は滅多にそういう事言わないけど、でもっ……!」
「……もう一度言おう、これは貴様が関わらずとも良い事。部外者が口を出すでない」
女の言葉に、剣を持つ青年が後を続けた。
「小僧、魔王を倒して頭にのっているのか? 貴様1人で勝ったと思うなよ」
「ああ思ってない、全く全然思ってないさ。ヒメ子や女神、鳳さんや全神連のみんな……神使はまあ好き勝手やってたけど……でもみんなのおかげで勝てたんだ。俺1人で、あんな化け物倒せるもんかっ!」
青年は満足げに答える。
「ならば大人しく下がっていろ。その命があるうちにな」
「死んでも下がるかっ! 鳳さんに、さっきの言葉を撤回してからだっ!」
だがそこで、誠は肩に違和感を感じる。
「……?」
目をやると、鳳が誠の肩に手を置いていたのだ。
俯いたまま、何度も何度も頷いて、少し身を震わせている。
以前九州でそうだったように、首筋も、耳までもが赤くなっていた。
「………私は…………幸せ者です……!」
「え……?」
誠が尋ねるのと、鳳がぐいと誠の肩を引き、前に飛び出るのが同時だった。
彼女は太刀を横薙ぎに振るうと、迫り来る何かを弾いた。
そう、いつの間にか懲罰方から、無数の攻撃が仕掛けられていたのだ。
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