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第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編

封印の柱の秘密

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「取り急ぎ、かいつまんでお伝えいたします」

 資料を集めた宝書殿ほうしょでんに辿り着くと、鳳は手早く説明を始めた。

 幾つかの書物に手をかざすと、半透明の映像が宙に浮かび上がる。

「ご存知の通り、この日の本の地の底には、多くの邪神が封じられております。大地のエネルギーを利用し、結界の網を作っているのですが、その網目の要所を押さえるのが封印の柱です」

 映像は日本を空から見たものである。

 日本全土に光の網目が広がり、その所々を十数本の光の柱が押さえている図式だ。

「柱のほとんどは魔族によって破壊されましたが、最も巨大、かつ最も重要な要柱かなめばしらが旧長野県に現存しています」

 映像は旧長野県を拡大し、そこに巨大な光の柱が表示された。

 誠はそのスケールに圧倒される。

「こんな大きな物があったら、大騒ぎになりそうですけど」

「物質ではありませんので、起動して馴染めば普段は見えません。また人が本能的に近付きたくない波長の霊気を出しております」

 鳳は答えると、次の映像に切り替えていく。

「柱の構造は極めて複雑で、超高密度の呪詛の複合体です。わらをより合わせて巨大な注連縄しめなわを作るとお考え下さい」

 鳳の言葉通りだった。

 柱は最初、1本の太い棒のように見えていたが、拡大されるにつれ、非常に細かい部材パーツの集合体である事が分かった。

 内部が透けて表示されると、中は意外にもある程度の隙間があり、様々な霊的パーツが幾層にも組み合わせられていた。そのそれぞれが別々の方向に動いており、精巧な時計の内部のようである。

「柱はある程度自律思考し、多少結界にトラブルが生じても、引き締め圧テンションを調整して対処します。さすがに1000年に1度の地脈変動には対応できませんが……」

 鳳は懸命になるあまり、次第に誠に身を寄せながら説明する。

「外層の防御を受け持つ部分は、めまぐるしく防護魔法の組成を変化させます。よってその組成を読み取って、術を解きほぐす事は出来ません。また1度起動すれば、膨大な地脈のエネルギーを取り込んで強化されますので、例えディアヌスでも強引に破壊するのは不可能でしょう。極端な話、攻撃を受けたそばから回復していきます」

 どんどん近づく鳳に戸惑いながら誠は頷く。

「つ、つまり……常に変化し続けるセキュリティシステムみたいなもんですかね。パスワードもどんどん変わるし、ダメージもすぐ回復すると」

「はい、良い例えだと思われます……あっ!」

 鳳は顔を上げ、そこで近付き過ぎていた事に気付いた。

 頬を赤らめて離れながら、彼女はそれでも言葉を続ける。

「……しっ、失礼いたしました。と、とにかく封印の柱は、光の呪詛の多重複合体です。膨大な術が編み上げられ、作り出された人工精霊。護国のための巨大な式神。考える柱であり、この柱そのものが人造の守護神なのです」

(自己防衛システムを持ち、常に修復し続ける封印か……)

 情報を整理しながら、誠は懸命に考えた。

(攻撃も受け流すし、解除しようとしてもどんどん組成が変化する。どうやっても解けそうに無いけど、夜祖はどうするつもりだったんだ……?)

 誠の疑問をよそに、鳳はどんどん映像を切り替えていく。

「この柱は全神連・東国本部の霊的空間で鍛造たんぞうされ、発動のその時まで大切に保管されます……と言っても、完成したのはつい先日ですがね。あとはシュミレーションで見てみましょう」

 鳳の言葉通り、映像は柱が起動した際のシュミレーション動画を映し出した。

 旧長野県の上空に現れた光の柱は、螺旋らせん状に回転しながら降下し、古い柱の上部に接触したのだ。

 そのまま古い柱を取り込みながら同化し、情報を上書きして着地するのである。

「これが柱の架け替えです。そのエネルギーは凄まじく、起動時には近づく人や魔族の霊魂が壊れる程の力となります」
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