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第五章その6 ~やっと平和になったのに!~ 不穏分子・自由の翼編

10年前の国崩しに似ている

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「あいつ、パイロットじゃ無かったはずだろ? 操縦適性無かったはずだし、一体何がどうなってんだ?」

 宮島が呆然と呟くと、画面は再び仮面を映し出した。

『全ては天罰なのです。始めましょう、正しいこの国のことわりを。打ち立てましょう、新しい世界のいしずえを。腐った為政を終わらせ、真の革命をもたらすのです。全ては皆の幸せと、おぞましき支配からの開放のため……!』

 嘆きが凶行を呼び、凶行が新たな嘆きを産む。

 急激に……驚くほどあっという間に、凄まじい熱気が日本全土を飲み込んでいくのだ。



「……かなわんわ。あんまこういう事言うもんやないけど、混乱前の日本みたいや」

「確かに似てるな。ドクロのアプリが流行って、皆がこの国を壊そうとして……それであんな事になったんだし」

 誠もそう言って頷いた。

 当時人々の憎悪が連鎖的につながり、魔物どもの国崩しに利用されてしまったのだ。

 今の事態がそれに近いなら、この後一体何が起こる?

 香川は数珠をじゃらつかせ、犠牲者達の冥福を祈りながら言った。

「いずれにしても、このままには出来んな。折角平和になったんだ、これ以上仏さんを増やしてたまるか」

 そこで宮島が立ち上がり、ばしりと拳を手に打ち付けた。

「だったら俺らで待ち伏せて、あいつら捕まえようぜ!」

「ちょっと待って、どこに来るか絞らないと。全部の避難区に行くわけにいかないでしょ」

 カノンの意見はもっともだ。

 一同はしばし考え込むが……事態は誠達を待ってはくれなかった。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 猛烈な光、頑強な車体を揺らす振動。

「何やこれ、例のテロか!?」

 一同が車から走り出ると、既に野営陣地はあちこち炎に包まれていた。

 誠は手近な若年兵をつかまえて尋ねる。

「どうした、一体どうなってる!?」

「そ、それが、所属不明の敵機から襲撃です! 発見された細胞を狙っていると思われます!」

「分かった!」

 誠は地を蹴って走り出す。隊員達もほぼ同時だった。

 人型重機に乗り込み、この凶行を阻止するためだったが……その時、後ろから鳳が叫んだ。

「いけません黒鷹様っ! 黒鷹様は、もう以前のように戦えないのです!」

「…………っ!」

 誠は一瞬躊躇ちゅうちょする。

 鳳の言う通りだ。魔王ディアヌスと対峙し、巨大な人型重機・震天を操作した誠は、神経の殆どがボロボロになっている。

 こうして普通に走れただけで奇跡だったし、それはあの楽しい宴や、竜宮での癒しのおかげかも知れない。

 もし今度戦えば、2度と元の体に戻れなくなるかも知れなかった。

 それでも今は、他に選ぶべき選択肢が無いのだ。

「鳳さん、ヒメ子を頼みますっ!」

 それだけ言うと、誠は操縦席に乗り込んだ。

 全システムを短縮モードですっ飛ばし、機体を無理やり起動させる。

 視点が高くなった事で、よりはっきりと被害状況が見て取れた。

 野営陣地は既に火の海に沈んでおり、禍々しい青紫の人型重機達が、炎の合間にうごめいている。

 そして夜空に浮かぶリーダー格の人型重機が、配下の凶行を見下ろしていた。

 機体を覆う不気味な光は、強力な属性添加機で滞空している証だろう。

「………っ!」

 その機体を見た時、誠は猛烈に嫌な予感がした。

『そいつ』はやがてこちらに気付き、外部拡声器スピーカーで呼びかけてきた。

「久しぶりだな、出来損ない」

 忘れもしないその声は、あの特務隊を率いて暴虐の限りを尽くした青年……不是唯剋ふぜただかつのものだった。
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