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第五章その6 ~やっと平和になったのに!~ 不穏分子・自由の翼編
弱者達よ、立ち上がりましょう
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「な、何だこれ……」
画面に映し出される惨劇を、誠達は呆然と見つめていた。
玩具のように倒れる家屋、炎上する送電施設。
おびただしい負傷者が折り重なり、サイレンがひっきりなしに鳴り響いている。
一言で言えば地獄絵図であり、避難区を狙う卑劣なテロ行為だった。
そしてそのテロの対象は、全てが安全な島嶼部の高級避難区なのである。
通信車の画面は青1色に染まり、テロ組織の犯行声明が流れ始める。
『我々は解放軍、自由の翼です。国民の皆様、あなた達は騙されています。今こそ目覚め、立ち上がりましょう』
画面中央には、翼を生やした白い仮面のロゴマークが浮かび上がった。仮面は青い涙を流し、真っ直ぐこちらを見つめている。
『あなた達が怪物に怯えていた時、支配者達は安全な島嶼部から、震えるあなた達をあざ笑っていました。あなた達が血を流し、命をかけてこの国を守り抜くまで、彼らは隠れていたのです。そしてどうでしょう。恐ろしい魔王が倒され、日本に平和が戻った途端、彼らは何食わぬ顔で戻ってきたのです』
『気付いて下さい、そして声を上げて下さい。いつの日も犠牲を強いられるのはあなた方善良なる人々。その血をすするのは、残虐で卑劣な支配者なのです。我々はそれを許しません。今こそ正しき鉄槌を、醜き彼らに与えましょう』
『我々は、決して罪なき皆様を狙いません。狙うはあなた達を盾にして生き残った、人の姿をした外道のみ……』
「電波ジャックか? それにしては、こんな長時間堂々と割り込めてるけど……」
誠が言うと、隣の鳳も頷いた。
「おっしゃる通りですね。専用の電波局でも確保したのでしょうか」
力の誇示も兼ねているのだろう。襲撃映像には、正体不明の人型重機が避難区を蹂躙する様子が映っていた。そして炎の中でもがき苦しむ、大勢の子供達もだ。
香川は画面を拝むように手を合わせた。
「むごい事を……いくら何でもやり過ぎだ」
「子供だって沢山いたのに……鬼でもここまでやらないわよ」
子供好きのカノンも、怒ったように画面を睨んでいる。
「鳴っち、こいつら一体何者なんやろ?」
難波の問いに、誠は迷いながら答える。
「まだ分からないけど……これだけの部隊を運用出来るなら、組織の規模も相当だろうな。思いつきのテロなんかじゃない……ずっと前から、こうなるチャンスを待ってたんだ」
そう、人々が魔王を倒し、警戒が弱まる瞬間を……政府や自衛軍が再編成でごたつくその時を、虎視眈々と狙っていたのだ。
「それで黒鷹様、先ほど届いた物なのですが。各避難区に、このような資料がばら撒かれているそうです」
鳳が差し出した薄汚れたビラには、支配者層のしてきた悪事が、証拠付きで示されていた。
各種復興予算の使い込み、前線の若者達への支援物資の横取りなどなど。
戦闘の活躍に応じた報酬……つまり貢献ポイントを貯めた若年兵のカップルが、避難順位の抽選で後回しにされ、順番待ちの間に死んだ事例まで載せられている。
そしてその時の抽選には、当然のように不正が行われていたのである。
『頑張って手柄を立てれば、この地獄から救われる。安全な避難区に行けて、2人で幸せになれるんだ』
そんな希望を支えに戦い抜いたカップルは、夢のチケットを手にする事無く、無残に死んで行ったのだ。
当然ながら、若者達の怒りは爆発した。
いつ死ぬかも分からぬ地獄で、僅かな可能性でも幸せを夢見ていたのに、それらが全て嘘だったなんて。自分達の命がけの奮闘を、影であざ笑っていたなんて。
影響された若者は、大挙して避難区の市街に繰り出し、破壊や略奪を行っているのだ。
そこで画面は切り替わり、数人の若者を大写しにした。
背景には見慣れた計器が見えるため、全員が人型重機の操縦席にいるのだろう。
「あれっ、あいつこないだフォローに行った避難区のヤツやん」
顔の半分にガーゼを貼り付けた少年を見て、難波が驚きの声を上げた。
「後遺症が治らん言うてたんや。顔がかなり膿んでて、替えのガーゼも無い言うてたから、うちの応急医療キットを渡して……なんでこんなのに出てるねん」
「そうだな。他の連中も、負傷して殆ど動けなくなってた奴ばかりだ。そんな連中だけ集めてるのか?」
香川が言うと、画面の1人がこちらに向けて語りかける。
『みんな、早く目を覚ませ! 俺も治してもらった、新しい力をもらったんだ! 俺らを虐げてたクソみたいな連中に復讐できるんだ!』
彼は顔を覆うガーゼを掴んで毟り取った。
「う、嘘やん……綺麗さっぱり治っとるで」
呆然とする難波をよそに、少年の顔は嗜虐の喜びに歪んだ。
彼はそこで操作レバーを握り、発射された弾丸が高級避難区を襲う。
炎上する市街をよそに、少年は狂気の笑い声を上げ続けた。
画面に映し出される惨劇を、誠達は呆然と見つめていた。
玩具のように倒れる家屋、炎上する送電施設。
おびただしい負傷者が折り重なり、サイレンがひっきりなしに鳴り響いている。
一言で言えば地獄絵図であり、避難区を狙う卑劣なテロ行為だった。
そしてそのテロの対象は、全てが安全な島嶼部の高級避難区なのである。
通信車の画面は青1色に染まり、テロ組織の犯行声明が流れ始める。
『我々は解放軍、自由の翼です。国民の皆様、あなた達は騙されています。今こそ目覚め、立ち上がりましょう』
画面中央には、翼を生やした白い仮面のロゴマークが浮かび上がった。仮面は青い涙を流し、真っ直ぐこちらを見つめている。
『あなた達が怪物に怯えていた時、支配者達は安全な島嶼部から、震えるあなた達をあざ笑っていました。あなた達が血を流し、命をかけてこの国を守り抜くまで、彼らは隠れていたのです。そしてどうでしょう。恐ろしい魔王が倒され、日本に平和が戻った途端、彼らは何食わぬ顔で戻ってきたのです』
『気付いて下さい、そして声を上げて下さい。いつの日も犠牲を強いられるのはあなた方善良なる人々。その血をすするのは、残虐で卑劣な支配者なのです。我々はそれを許しません。今こそ正しき鉄槌を、醜き彼らに与えましょう』
『我々は、決して罪なき皆様を狙いません。狙うはあなた達を盾にして生き残った、人の姿をした外道のみ……』
「電波ジャックか? それにしては、こんな長時間堂々と割り込めてるけど……」
誠が言うと、隣の鳳も頷いた。
「おっしゃる通りですね。専用の電波局でも確保したのでしょうか」
力の誇示も兼ねているのだろう。襲撃映像には、正体不明の人型重機が避難区を蹂躙する様子が映っていた。そして炎の中でもがき苦しむ、大勢の子供達もだ。
香川は画面を拝むように手を合わせた。
「むごい事を……いくら何でもやり過ぎだ」
「子供だって沢山いたのに……鬼でもここまでやらないわよ」
子供好きのカノンも、怒ったように画面を睨んでいる。
「鳴っち、こいつら一体何者なんやろ?」
難波の問いに、誠は迷いながら答える。
「まだ分からないけど……これだけの部隊を運用出来るなら、組織の規模も相当だろうな。思いつきのテロなんかじゃない……ずっと前から、こうなるチャンスを待ってたんだ」
そう、人々が魔王を倒し、警戒が弱まる瞬間を……政府や自衛軍が再編成でごたつくその時を、虎視眈々と狙っていたのだ。
「それで黒鷹様、先ほど届いた物なのですが。各避難区に、このような資料がばら撒かれているそうです」
鳳が差し出した薄汚れたビラには、支配者層のしてきた悪事が、証拠付きで示されていた。
各種復興予算の使い込み、前線の若者達への支援物資の横取りなどなど。
戦闘の活躍に応じた報酬……つまり貢献ポイントを貯めた若年兵のカップルが、避難順位の抽選で後回しにされ、順番待ちの間に死んだ事例まで載せられている。
そしてその時の抽選には、当然のように不正が行われていたのである。
『頑張って手柄を立てれば、この地獄から救われる。安全な避難区に行けて、2人で幸せになれるんだ』
そんな希望を支えに戦い抜いたカップルは、夢のチケットを手にする事無く、無残に死んで行ったのだ。
当然ながら、若者達の怒りは爆発した。
いつ死ぬかも分からぬ地獄で、僅かな可能性でも幸せを夢見ていたのに、それらが全て嘘だったなんて。自分達の命がけの奮闘を、影であざ笑っていたなんて。
影響された若者は、大挙して避難区の市街に繰り出し、破壊や略奪を行っているのだ。
そこで画面は切り替わり、数人の若者を大写しにした。
背景には見慣れた計器が見えるため、全員が人型重機の操縦席にいるのだろう。
「あれっ、あいつこないだフォローに行った避難区のヤツやん」
顔の半分にガーゼを貼り付けた少年を見て、難波が驚きの声を上げた。
「後遺症が治らん言うてたんや。顔がかなり膿んでて、替えのガーゼも無い言うてたから、うちの応急医療キットを渡して……なんでこんなのに出てるねん」
「そうだな。他の連中も、負傷して殆ど動けなくなってた奴ばかりだ。そんな連中だけ集めてるのか?」
香川が言うと、画面の1人がこちらに向けて語りかける。
『みんな、早く目を覚ませ! 俺も治してもらった、新しい力をもらったんだ! 俺らを虐げてたクソみたいな連中に復讐できるんだ!』
彼は顔を覆うガーゼを掴んで毟り取った。
「う、嘘やん……綺麗さっぱり治っとるで」
呆然とする難波をよそに、少年の顔は嗜虐の喜びに歪んだ。
彼はそこで操作レバーを握り、発射された弾丸が高級避難区を襲う。
炎上する市街をよそに、少年は狂気の笑い声を上げ続けた。
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