上 下
60 / 117
第五章その6 ~やっと平和になったのに!~ 不穏分子・自由の翼編

弱者達よ、立ち上がりましょう

しおりを挟む
「な、何だこれ……」

 画面に映し出される惨劇を、誠達は呆然と見つめていた。

 玩具のように倒れる家屋、炎上する送電施設。

 おびただしい負傷者が折り重なり、サイレンがひっきりなしに鳴り響いている。

 一言で言えば地獄絵図であり、避難区を狙う卑劣なテロ行為だった。

 そしてそのテロの対象は、全てが安全な島嶼とうしょ部の高級避難区なのである。

 通信車の画面は青1色に染まり、テロ組織の犯行声明が流れ始める。

『我々は解放軍、自由の翼です。国民の皆様、あなた達は騙されています。今こそ目覚め、立ち上がりましょう』

 画面中央には、翼を生やした白い仮面のロゴマークが浮かび上がった。仮面は青い涙を流し、真っ直ぐこちらを見つめている。

『あなた達が怪物に怯えていた時、支配者達は安全な島嶼部から、震えるあなた達をあざ笑っていました。あなた達が血を流し、命をかけてこの国を守り抜くまで、彼らは隠れていたのです。そしてどうでしょう。恐ろしい魔王が倒され、日本に平和が戻った途端、彼らは何食わぬ顔で戻ってきたのです』

『気付いて下さい、そして声を上げて下さい。いつの日も犠牲を強いられるのはあなた方善良なる人々。その血をすするのは、残虐で卑劣な支配者なのです。我々はそれを許しません。今こそ正しき鉄槌を、醜き彼らに与えましょう』

『我々は、決して罪なき皆様を狙いません。狙うはあなた達を盾にして生き残った、人の姿をした外道のみ……』



「電波ジャックか? それにしては、こんな長時間堂々と割り込めてるけど……」

 誠が言うと、隣の鳳も頷いた。

「おっしゃる通りですね。専用の電波局でも確保したのでしょうか」

 力の誇示も兼ねているのだろう。襲撃映像には、正体不明の人型重機が避難区を蹂躙する様子が映っていた。そして炎の中でもがき苦しむ、大勢の子供達もだ。

 香川は画面を拝むように手を合わせた。

「むごい事を……いくら何でもやり過ぎだ」

「子供だって沢山いたのに……鬼でもここまでやらないわよ」

 子供好きのカノンも、怒ったように画面を睨んでいる。

「鳴っち、こいつら一体何者なんやろ?」

 難波の問いに、誠は迷いながら答える。

「まだ分からないけど……これだけの部隊を運用出来るなら、組織の規模も相当だろうな。思いつきのテロなんかじゃない……ずっと前から、こうなるチャンスを待ってたんだ」

 そう、人々が魔王を倒し、警戒が弱まる瞬間を……政府や自衛軍が再編成でごたつくその時を、虎視眈々こしたんたんと狙っていたのだ。

「それで黒鷹様、先ほど届いた物なのですが。各避難区に、このような資料がばら撒かれているそうです」

 鳳が差し出した薄汚れたビラには、支配者層のしてきた悪事が、証拠付きで示されていた。

 各種復興予算の使い込み、前線の若者達への支援物資の横取りなどなど。

 戦闘の活躍に応じた報酬……つまり貢献ポイントを貯めた若年兵のカップルが、避難順位の抽選で後回しにされ、順番待ちの間に死んだ事例まで載せられている。

 そしてその時の抽選には、当然のように不正が行われていたのである。

『頑張って手柄を立てれば、この地獄から救われる。安全な避難区に行けて、2人で幸せになれるんだ』

 そんな希望を支えに戦い抜いたカップルは、夢のチケットを手にする事無く、無残に死んで行ったのだ。

 当然ながら、若者達の怒りは爆発した。

 いつ死ぬかも分からぬ地獄で、僅かな可能性でも幸せを夢見ていたのに、それらが全て嘘だったなんて。自分達の命がけの奮闘を、影であざ笑っていたなんて。

 影響された若者は、大挙して避難区の市街に繰り出し、破壊や略奪を行っているのだ。

 そこで画面は切り替わり、数人の若者を大写しにした。

 背景には見慣れた計器が見えるため、全員が人型重機の操縦席にいるのだろう。

「あれっ、あいつこないだフォローに行った避難区のヤツやん」

 顔の半分にガーゼを貼り付けた少年を見て、難波が驚きの声を上げた。

「後遺症が治らん言うてたんや。顔がかなり膿んでて、替えのガーゼも無い言うてたから、うちの応急医療メディカルキットを渡して……なんでこんなのに出てるねん」

「そうだな。他の連中も、負傷して殆ど動けなくなってた奴ばかりだ。そんな連中だけ集めてるのか?」

 香川が言うと、画面の1人がこちらに向けて語りかける。

『みんな、早く目を覚ませ! 俺も治してもらった、新しい力をもらったんだ! 俺らを虐げてたクソみたいな連中に復讐できるんだ!』

 彼は顔を覆うガーゼを掴んで毟り取った。

「う、嘘やん……綺麗さっぱり治っとるで」

 呆然とする難波をよそに、少年の顔は嗜虐しぎゃくの喜びに歪んだ。

 彼はそこで操作レバーを握り、発射された弾丸が高級避難区を襲う。

 炎上する市街をよそに、少年は狂気の笑い声を上げ続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

後宮の記録女官は真実を記す

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。 「──嫌、でございます」  男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。  彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

純白の天使

鶴機 亀輔
キャラ文芸
「素敵な大人になったきみの幸せをパパは願ってるよ」 男に父はなく、早くに母を失い、おじ夫妻のもとで育てられたが、結局親戚獣をたらい回しにされ、養護施設行きとなった。 施設でも、学校でもいじめられて行き場のなかった男を救ったのは年若い男女の夫婦だった。 親の愛情を知らず、周りの人間を敵とみなしていた男は、赤子の父親となった。 結婚前夜、男は赤子を育ててきた日々に思いを馳せ、大切な娘に真実を明かす。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...