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第五章その4 ~神のギフト!?~ 魔王の欠片・捜索編

女神様は引きこもりたい

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 時は少しさかのぼって、神界の出来事である。

「……あのねえ、何度も言うけど、お姉ちゃんねえ」

 机に項垂れ、頭を抱える岩凪姫を見かねて、佐久夜姫さくやひめは声をかけた。

 しかし岩凪姫は顔を上げない。ただ頭を抱える両の手だけが、時折くしゃくしゃと長い髪をいじっているだけだ。

 いくら待っても返事が無いため、佐久夜姫はあらぬ方を見て言った。

「あっ、夏木くんが来たかも」

「うわっ!?」

 岩凪姫は立ち上がると、凄いスピードで隣の部屋へと駆け込んでいく。

 佐久夜姫が部屋を覗くと、姉は布団にくるまっていた。

「わ、わわわ、私なら居ないと言ってくれっ……! 頼む……!」

 普段の威厳などどこにもない姿に、佐久夜姫はため息をついた。

「誰かさんとそっくりねえ……」

 それから布団に歩み寄り、腰に手を当てて語りかける。

「あのねお姉ちゃん、ここは神界でしょ。夏木くんがいるわけないでしょ?」

「はっ!? そうだった……って騙したな!」

 岩凪姫は布団から飛び出し、赤い顔で抗議してくる。

「騙したも何も、何でそこまで動揺するの?」

「するだろう普通はっ! あ、あいつ頭おかしいぞ! 何がどうなったら、私なぞを好いておるのだ!」

「おかしいのはお姉ちゃんでしょ? 人の好みなんて色々あるんだから」

 佐久夜姫は肩をすくめる。

「それにお姉ちゃんはあれよ、たまたまタイミングが悪かったから勘違いしただけで……」

 説得を試みる佐久夜姫だったが、岩凪姫は手で耳を押さえる。そのまま嫌々をするように首を振って叫んだ。

「駄目だ聞きたくないっ! どうせあれだっ、天界のドッキリ企画なのだ! みんなで私をからかっているのだろう!? 何千年も経ってまだ蒸し返すとは、なんて酷い連中なのだっ!」

「いや、だからお姉ちゃん……」

「嫌だ嫌だっ、うわあああっっっ!!!」

 岩凪姫は話を聞かず、再び布団の中に潜った。

「あー……」

 見送る佐久夜姫は、深いため息をついた。

 確かに姉は遠い昔、神としての嫁入りに失敗した。

 それが多大なトラウマを生んだ事も理解しているが、数千年も前の事なのだ。

 さすがに立ち直っているだろうと思っていたが……一度傷が開けばこのざまだ。

 神としてあれだけしっかり日本奪還の戦いを導きながらも、本人は全く成長していなかった。

 色恋に1ミリたりとも免疫が無く、少し好意を寄せられれば、たちどころに動揺して引きこもってしまったのだ。

 佐久夜姫はもう一度ため息をつくと、虚空に映像を映し、竜宮の豊玉姫とよたまひめを呼び出した。

「あらっ、お義母様かあさまじゃないですか!」

 豊玉姫は笑顔で手を振ってくれる。

 佐久夜姫の息子・山幸彦の妻たる豊玉姫は、しっかり者で頼りになる自慢の娘なのだ。

 今回も消耗した鶴達を回復させるべく、急遽きゅうきょ竜宮での対応を依頼したのだが、それも問題無くこなしてくれた。

「ご要望通り、バッチリおもてなししましたよ。結構回復したはずです」

「ありがとうトヨちゃん、とっても助かったわ。ごめんね、みんな封印を支えてたのに、戻って竜宮を開けてもらって」

 義理の娘むすめの元気な報告に、佐久夜姫は微笑んだ。

「平気ですよ、こう見えてフットワーク軽いですから。この後すぐ高天原たかまがはらに戻りますので……」

 そこで豊玉姫はこちらをキョロキョロうかがっている。

「……あれ、ところで岩凪姫様おばさまは?」

「あ、うん、ちょっとね。何千年分のトラウマがね」

「はあ……結構な年月ですね」

 豊玉姫は首を傾げる。

「玉手箱でも送りましょうか? 一気に清算できますけど……」

「う~ん……耐えられるかしらね。ありがとう、また何かあったら連絡するわ」

 佐久夜姫は困ったように微笑み、義理の娘との通信を切ったのだが……そこで表情を険しくした。

 虚空に浮かんだ文字列を……つまり、全神連からの報告を目にしたためだ。

 しばし無言でそれを眺め、佐久夜姫は口を開いた。

「………………お姉ちゃん」

「嫌だっ、私は出ないぞっ」

「……違う、お姉ちゃん」

「だから私は……!」

「違うのっ、聞き分けて!!!」

 佐久夜姫は語気を強める。

「な、何だというのだ……?」

 岩凪姫は妹の異変を感じ、恐る恐る布団から這い出してくる。

 佐久夜姫の隣に立ち、虚空の文字に目を通すと……

「これは……!」

 たちまち岩凪姫の顔に、焦りの表情が浮かんだ。

 富士近郊にて警戒中の第3船団東海方面守備隊・第201混成大隊……総勢900余名が、一夜にしてその姿を消したのである。

 ……いや、正確には消えたのではない。

 幾つかの記録映像が映す通り、彼らは丸ごと『別の何か』に変わったのだ。

 正気を失い、次々に周囲の人を襲ってはむさぼり喰う兵達の姿は、まさしく地獄の沙汰さたであった。

「……情報を集めよう。ある程度めどが付き次第、鶴や黒鷹達にも知らせる」

 先ほどまでとはうって変わって、岩凪姫は真剣な眼差しで映像を睨んだ。
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