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第五章その3 ~夢のバカンス!~ 隙あらば玉手の竜宮編

沖縄の宴会! 一度参加してみたい

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「また急にあったかくなったわね」

 鶴の言うとおり、辺りは再び南国の日差しに包まれている。

 アスファルトで舗装されていない、土のままの道を進むと、時折古めかしいボンネットバスとすれ違う。

 やがてたどり着いたのは、広い平屋の民家だった。

 高い石垣や風除けの庭木。漆喰しっくいで接着した赤い瓦屋根。

 いかにも台風に強そうな、昔ながらの沖縄民家であった。

「せっかくの竜宮ですから、堅苦しいのは抜きで!」

「沖縄の家庭料理をお楽しみ下さい!」

 子犬達はそう言って、嬉しそうに跳ね回った。

 誠達が玄関に入ると、沢山の靴が所狭しと並んでいた。

 いかにも親戚が集まった感じであり、席は座布団にあぐらをかいて座るスタイルである。

 いくつも並べられた長テーブルに、どんどんご馳走が運ばれてくるが、そのどれもが沖縄風の家庭料理であった。

 有名なゴーヤチャンプルー、ニンジンシリシリもあったし、麺料理はソーキソバにソーミンチャンプルー。

 豚の足を煮込んだテビチ、耳皮を刻んだミミガーまでは分かったが、味噌を入れた赤い料理は何か分からなかった。でもおいしい。

 他にもお肉の入った炊き込みご飯と、ちょっと勇気のいる香りのヤギ汁。プチプチした海ぶどうも食感が楽しい。

 煮物に入っている薄緑で肉厚な野菜は、断面が白くてトロリとした食感だった。正体は不明だ。

 誠の大好物・豚の角煮……にそっくりなラフテーも山盛りになっていて、さっそく食べようと思ったが、子犬達が縁側に足を乗せ、目を輝かせていたので分けてあげた。

 誠も遅れて食べてみると、意外にあっさりした味付けに加え、皮の食感がプルプルして最高である。文句無しにこれはうまい!

 近所の魚が泡盛あわもりを持って集まり、べろんべろんに酔っ払って話しかけてくるも、一同は適当に話を合わせて楽しんだ。

 料理はどれも好みだし、この場の雰囲気のおかげか、特別に美味しく感じるのだ。

「ええやんええやん、テレビで見たでこういうの。沖縄の人は陽気やし、みんなでワイワイ騒ぐんよな」

 難波は関西人なので、すぐ雰囲気に馴染んでくつろいでいる。

 誠は箸を置き、ゆっくりと右手を開閉した。

「……痛むの?」

 カノンが心配そうに尋ねるので、誠は首を振った。

「いや、今はあんまり。みんなもカノンもいるし、楽しいからかな?」

 魔王ディアヌスと戦い、全身の神経に多大なダメージを負ったはずだが、この場にいると、そんな痛みも薄れるようだ。

 鳳が横から補足してくれた。

「魔王ディアヌス……八岐大蛇やまたのおろちは川の神、海とは逆の気を持ちます。だから竜宮の気を染み渡らせれば、邪気のダメージも回復しやすいはずですよ」

「あ、それでディアヌスは海を渡れなかったんですか」

「そういう事ですね」

 宴は更に盛り上がり、完全に出来上がった魚達は、三線サンシンの音色に合わせて踊りまくった。

 沖縄版・鯛やヒラメの舞い踊りであるが、メンバーのほとんどは熱帯魚であり、元ネタより色鮮やかで綺麗である。

 誠達は拍手喝采はくしゅかっさいしたが、踊る魚達に混じって、見慣れた若者達の姿が見える。

「久しぶりで楽しいデース!」

「ダディも一緒だ!」

 九州で共闘したキャシーとヘンダーソン、そしてその一家は、半透明の姿ながらも楽しげに踊っている。

「やっぱり知り合いに見えますけど……?」

 誠が言うと、鳳は気まずそうに咳払いした。

「……オホン、気のせいです。ほ、ほら黒鷹様、おソバおいしいですよ?」

 鳳はソーキソバをこちらに手渡して誤魔化した。

 鶴やコマ、難波や宮島も踊り始め、魚達が声援を送ってくれる。

 鶴に引っ張られて参加したカノンや鳳は遠慮がちであり、照れた様子が微笑ましい。

 ……とにかく、夢のように楽しい時間だった。

 これから日本はどんどん復興していくし、間違いなく楽しい時代がくるはずだ。

 素直にそんなふうに思えたのだ。
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