上 下
29 / 117
第五章その3 ~夢のバカンス!~ 隙あらば玉手の竜宮編

乙姫ライブフェスへようこそ!

しおりを挟む
 屋外広場には、既に凄い熱気が渦巻いていた。

 会場に詰め掛けた魚介達は、手に手に団扇うちわやプラカードを持っていたが、そのどれもに乙姫2人が写っている。

 ギチギチと声を上げるイセエビが、熱心に何かを訴えかけてきたが、誠は適当に「そ、そうですよね……」と同意しておいた。

 やがて音楽フェスが始まり、前座の様々なバンドが登場する。

 イケメン?のカニ達が集まったグループ、イケガニ☆クラブが登場すると、ファンのカニが泡を吹いてひっくり返り、次々担架たんかで運ばれていく。

「地獄絵図だな……」

 誠が引き気味で呟いていると、突然ステージにまばゆいライトが灯った。

 無数の花火が打ち上げられ、お城のような舞台装置から、2人の女神が降りてくる。

 先ほど竜宮門で会った豊玉姫とよたまひめ玉依姫たまよりひめであり、巨大なモニターが2人を大映しにした。

「みんな~っ、今日は来てくれてありがとうです~♪」

 玉依姫が手を振って、魚介達が盛り上がると、豊玉姫が声を張り上げる。

「それじゃ、一曲目いくわね。厳島いつくしまのお三方からいただいた曲で、『恋の玉手箱』! 今あっちとも繋がってるから生演奏よ!」

 巨大スクリーンには、別地点にいるであろう女神3人が映って手を振ってくれる。楽器が得意だと聞いた事があるが、まさか他の神にも曲を提供しているとは……

 やがてライトが点滅すると、派手にドラムが打ち鳴らされ、夏っぽいポップな曲が始まった。ギターっぽい琵琶も軽快で、聞いているだけでウキウキしてくる。

 乙姫達は上機嫌で歌い踊り、誠の隣のイセエビは、しきりにこちらに何かを訴えかけてきた。

「そ、そうですよね、最高ですよね」

 誠は適当に答え、エビに渡された棒型発光器ケミカルライトを振るった。

「2人で~っ、開けるわ~っ、恋のた・ま・て・ば・こ!」

 サビの歌詞とともに女神2人がウインクすると、ステージから白い煙が吹き上がった。

 最初はドライアイスかと思ったのだが、最前列の魚介達が力なく浮き上がっていくので、どうやら老化ガスのようだ。

「玉手箱の煙か。危険なライブだ……」

 誠はドン引きだったが、他のみんなは十分楽しんでいるようだ。

 そのまま10曲近くが続き、多数の魚が力無く漂っているが、女神2人は汗を光らせ、キラキラした笑顔で手を振った。

「それじゃあみんな、このあと竜宮杯野球があるから、絶対観戦してね!」

 ファンの魚介が雄たけびを上げ、怒涛の勢いで移動するので、誠達も流されていく。



 着いてみると、球場は既に超満員だ。

 乙姫様の計らいか、誠達はバックネット裏に案内され、試合を間近で見る事が出来る。

「うわあ、楽しみだぜ、オヤジの試合以来だな! 海の野球って、どんな選手がいるんだろ?」

 野球好きの宮島は俄然元気になって、渡されたパンフレットに見入っている。

 鶴や難波は球場グルメをつまんでいたし、香川は照明を反射して真珠のように目立っていた。

 やがて両チームの選手が入場してくると、なぜか聞いた事のある曲が流れる。

「何で甲子園の曲なんだよ」

 誠がツッコミを入れると、鳳は興奮したように拳を握る。

「いいですよね、私は好きですよ」

 そこで鳳は誠を見て、顔中真っ赤になった。

「あっいえっ、好きというのは曲の事でして! はしたない女だと思わないで下さいっ!」

「お、思ってません! 思わないから落ち着いて!」

 鳳が手をぶんぶん振り回すので、誠は反対側に身を寄せたが、そこでカノンに寄りかかってしまう。

「あっ、ごめんカノン」

 誠は振り返るが、カノンはちょっと潤んだ目で、そっと首を振った。

「…………ううん、幸せ。今日の事、一生忘れない……」

「ええっ……!?」

 カノンも寄りかかってきて、球場デートみたいな雰囲気になるが、そこで試合が開始された。



 試合内容は凄惨を極めた。

 素行の悪いサメ原のラフプレー。

 足でかき回すマグロ川は、スパイクに包丁を仕込んでいる。

 ピッチャーのタコハチが8個のボールを投げるので、バッターのシャチ山は怒ってタコを追いかける。

 そこから乱闘が始まり、タコが墨を吐いて逃げるので、球場は最早カオスになった。

 見かねた審判が玉手箱を投げ込み、白いガスが充満すると、選手達は老化して力なく浮き上がった。

「いいぞっ、やれやれーっ!」

「これぞ諸行無常だな!」

 宮島や香川は喜んでいるが、これでは貴重な選手が寿命を迎えてしまう。

 審判は尚も催涙弾のように玉手箱を投げ込み、老化を恐れた選手が打ち返した玉手箱が観客席を襲った。

『ファール玉手にご注意下さい』と放送が入るが、そこで難波の手に玉手箱が落ちてきた。

「あかん鳴っち、パス!」

「うわっ、紐がほどけかけてる!」

 一同はラグビーのように玉手箱をパスしまくった。



 その後も会場を変えてイベントは続いた。

 竜宮プロレスは危険なデスマッチであり、鯛がマグロに玉手箱をたたきつけたところで箱が開き、両者ぶっ倒れてゴングが鳴った。

 結局王座チャンピオンベルトは空位くういになってしまう。

「気になるわ、第2戦はいつなのかしら」

 鶴は夢中でパンフレットを見ているが、誠が横からパンフレットを覗くと、歴代ベルト保有者の顔は、全員遺影の写真だった。

「王座が全員故人なのかよ……」

 夢の国なのにハードすぎるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...