上 下
26 / 117
第五章その3 ~夢のバカンス!~ 隙あらば玉手の竜宮編

昔話は色んなバージョンがある。みんなめっちゃうろ覚えで語り継ぐし

しおりを挟む
「じゃあみんな眠った後、すぐ亀を助けたのか。おっと」

 足元をわらわら歩くシーサーを踏まないようにしながら、誠は皆に質問した。

「鳴っちは疑り深いもんな。さっさと助けたら、縛られずに済んどったのに」

 難波は面白そうにニヤニヤしている。

 既にバカンスモードになった彼女達は、白いTシャツに短パン姿だ。足元はビーチサンダルだし、額にはサングラス。

 もうどこから見ても南国の観光客そのものだ。

「竜宮に罪人風のご招待とは、お釈迦様でも予想出来んだろうな」

 南国の日差しを反射し、太陽そのもののような香川が言うと、宮島も頭の後ろで手を組んで言った。

「しっかし信じられねえよなあ。ついこないだまで、讃岐さぬき平野で地獄の撤退戦やってたのに。まさか竜宮城でバカンスなんてよ」

「そう言えば、香川があの時言ってたわよね。浦島太郎だなんとかって」

 カノンが宙を見上げ、懐かしそうに思い出す。

「意外とあの時、こうなるのが分かってたとか?」

「まさか。もしかしたら御仏みほとけが教えてくれたのかもしれんが……おっ、これはかたじけない」

 香川は答えつつ、宙を泳ぐタツノオトシゴからトロピカルジュースを受け取る。

 鶴は2人分ジュースを受け取り、肩のコマにも飲ませながら言った。

「もっちゃんは500年以上生きてるから、リアル浦島太郎よね」

 君も似たようなものじゃないか、とツッコミを入れるコマをよそに、誠がふと思い出す。

「そういや浦島太郎って、色んな結末がなかったっけ。おじいさんENDエンド以外に、鶴になって飛んでいくのもあったような……」

「ああもう、やっぱり! だから言ったでしょう、苦しみ終われば、つるになるのよ!」

 世界一のドヤ顔で喜ぶ鶴に、誠も何だか楽しい気分になった。

 それから珍しく現代風の格好をしている鶴に見とれた。

(ヒメ子が鎧じゃないなんてな……)

 艶やかなポニーテールの黒髪。

 楽しげで明るい笑顔。

 今はTシャツ姿であるが、それがいかにも健康的でよく似合っている……というか、正直言って可愛い。すごくだ。

 日本を奪還するために来た鎧姿のお姫様が、とうとうその鎧を脱いだ。長い戦いの終わりが、ようやく実感となって誠の中に溢れてくる。

「けど建物とか、意外と地上風なんやな。もっと海の底感あるんか思ってたわ。建物が珊瑚サンゴとか、椅子がぷよぷよしたイソギンチャクとか」

「現世ではないので、皆さんが思うバカンスのイメージで変化しますよ」

 難波の感想に、ニコニコしながら鳳が答える。

「竜宮に来られるのは凄い事なんです。神々と、ごくごく幸運な人しか来られないですから。私も役得ですね」

 あんなに冷静で張り詰めた雰囲気だった鳳も、今はとても嬉しそうだ。

 すらりと背が高い彼女なので、Tシャツと短パン姿も似合っているが、意外にあちこち出っ張っていてけしからん感じである。

「体の方は、先ほど現実のお食事をされましたから、今度は夢の中で魂を回復させるのです」

 誠は鳳に質問した。

「魂を回復って、何をすればいいんです?」

「とにかく遊べばいいんです、この楽園で徹底的に。人々を守るため、命がけで戦ってきた皆様には、その資格がおありです」

「そっか……避難区の子が見たら喜ぶだろうな。この竜宮、他の人は来れないんですか?」

「そのへんはご心配なく。みんな今頃、別の楽しい夢を見ておりますから」

 鳳の言葉が終わると同時に、どこかから声が聞こえてきた。

 沖縄と言えば私達デース……!

 九州で共闘した、志布志隊のキャシーの声によく似ている。

「夢が混線しとるんかいな」

「ゴホン。故郷への執念ですね……まあとにかく、普通はここに来られないのです」

 鳳は咳払いして適当に誤魔化すが、鶴は気にせず笑顔で言った。

「素晴らしいわコマ、いつか本当の琉球にも行ってみましょう」

「違うよ鶴、そっちはシーサーだよ!」

 慌てるコマに一同はまた笑ったが、そこで鶴が左手の一角を指差した。

「見てみんな、あっちに面白そうな場所があるわ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

恋の女神さまの逆鱗に触れてしまったらしく、無理難題をおしつけられました。

豆井悠
キャラ文芸
 学園異能スカートめくりバトル = パンチラバトル!  バトルに彩を添えるド直球ラブコメ、ギャグ、魔法少女!     坂崎高校の恋の女神さまのパンツを見てしまい、さらにそれをけなしたことで、三人の男子生徒たちは一年後にはパイパンになってしまう呪いをかけられてしまった。  その呪いを解くには、学校すべての女性(約三百人)のパンツを彼女に見せなけらばならない。  合法的にスカートめくりをするために、女神さまは三人に異能の力を授けた。が、同時に、敵対勢力『パンチラ統制委員会』も発足してしまい、スカートめくりをめぐるバトルが勃発する。  めくれるのか三百人?  パイパン回避はできるのか?  呪い発動まで、あと一年!?    ※スカートめくりは犯罪です。ダメ、絶対!

座敷童に見込まれました:金運が少しよくなったので、全国の公営ギャンブル場を周って食べ歩きします

克全
キャラ文芸
小説化になろうにも遅れて投稿しています。アルファポリス第1回キャラ文芸大賞に応募すべく書き始めた作品です。座敷童を預けられた主人公が小さな金運を掴み、座敷童を連れて全国の公営ギャンブル場を巡っり、キャンブル場とその周辺を食べ歩く。引退馬の悲惨な状況を知り、ギャンブルで勝ったお金で馬主となろうとしたり、養老牧場を設立しようとしたりする。

猫狐探偵事務所

銀狐
キャラ文芸
人通りが少ない神社があり、その裏には隙間がある。 隙間を通るとそこには古い建物があり、入り口の横にある看板にこう書かれていた。 『猫狐探偵事務所』 と。 ※ この作品は『第2回キャラ文芸大賞』の応募作品です。 よろしければ投票をよろしくお願いしますm(_ _)m

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三
SF
※本作はフィクションです。実在の人物や団体、および事件等とは関係ありません。 ※本作は海洋生物の座礁漂着や迷入についての記録や資料ではありません。 ※本作には犯罪・自殺等の描写がありますが、これらの行為を推奨するものではありません。 ※本作はノベルアップ+様でも同様の内容で掲載しております。  西暦二〇五六年、地表から高度八〇〇キロの低軌道上に巨大宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」が完成した。  宇宙開発競争で優位に立つため、日本政府は「ルナ・ヘヴンス」への移住、企業誘致を押し進めた。  その結果、完成から半年後には「ルナ・ヘヴンス」の居住者は百万にも膨れ上がった。  しかしその半年後、何らかの異常により「ルナ・ヘヴンス」は軌道を外れ、いずこかへと飛び去った。  地球の人々は「ルナ・ヘヴンス」の人々の生存を絶望視していた。  しかし、「ルナ・ヘヴンス」の居住者達は諦めていなかった。  一七年以上宇宙空間を彷徨った後、居住可能と思われる惑星を見つけ「ルナ・ヘヴンス」は不時着した。  少なくない犠牲を出しながらも生き残った人々は、惑星に「エクザローム」と名をつけ、この地を切り拓いていった。  それから三〇年……  エクザロームで生まれ育った者たちの上の世代が続々と成長し、社会の支え手となっていった。  エクザロームで生まれた青年セス・クルスも社会の支え手の仲間入りを果たそうとしていた。  職業人の育成機関である職業学校で発電技術を学び、エクザローム第二の企業アース・コミュニケーション・ネットワーク社(以下、ECN社)への就職を試みた。  しかし、卒業を間近に控えたある日、セスをはじめとした多くの学生がECN社を不採用となってしまう。  そこでセスは同じくECN社を不採用となった仲間のロビー・タカミから「兄を探したらどうか」と提案される。  セスは自分に兄がいるらしいということを亡くなった育ての父から知らされていた。  セスは赤子のときに育ての父に引き取られており、血のつながった家族の顔や姿は誰一人として知らない。  兄に関する手がかりは父から渡された古びた写真と記録ディスクだけ。  それでも「時間は売るほどある」というロビーの言葉に励まされ、セスは兄を探すことを決意した。  こうして青年セス・クルスの兄を探す旅が始まった……

後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~

絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

処理中です...