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第五章その2 ~おめでとう!~ やっと勝利のお祝い編

こいつ、私が好きなのか…!?

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 夏木はしばし戸惑っていたが、気を取り直して話を続けた。

「親は家を継げと言ったんですが、僕は自衛隊に入ったんです。災害が多くなってたから、人の役に立ちたくて」

「それはそれで立派な志だ。吉備津彦きびつひこ殿も喜ばれているだろう」

「吉備津彦って……桃太郎で、神社のご祭神ですよね? 顔見知りみたいな言い方じゃないですか」

 夏木は少し笑って、それから海に目線を移した。

「……僕は桃太郎にはなれませんでした。あの日助けを求める人が大勢いて、僕は何も出来なかった」

「それは私も似たようなものだ。どれだけ力があっても、出来る事には限度がある。それでもお前は立派だと思うよ」

「……そう言っていただけると嬉しいです」

 夏木はこちらに顔を向けた。

「岩凪さんは、どうして戦おうと思ったんですか?」

「どうしてかな。きっかけはととさまの指示だったが、あえて言うなら…………そうだな」

 岩凪姫は昔を懐かしみ、宙を見上げた。

「昔、結構な恥をやらかして、嫁の行き場も無かったのだ。やる事もなくて、ただこの島でぼんやりしていた。そしたらある日近所の娘が、赤子を連れて挨拶に来た」

 夏木は黙って聞いてくれている。

「小さな赤子が可愛くて、珍しくて……つい頬をつついたら、泣かせてしまってな。同じようにつつくうち、島は私が泣かせた者ばかりになってしまった」

 瞬く星を眺めながら、岩凪姫は話を続ける。

「…………どうしてだろう。私が泣かせた者達を、他の者が泣かすのは許せぬ。我儘で、道理も通らぬが……そんなところか」

「なんとなく分かりますよ」

 支離滅裂な岩凪姫の言葉だが、青年は素直に頷いてくれる。

 少し胸の内がすっきりして、岩凪姫は微笑んだ。

「……ま、私はこんな性格だし、随分な醜女しこめだから、子を持つ事も出来なかったがな」

「し、醜女……?」

 青年は不思議そうに繰り返す。

「あの、醜女って、あなたがですか?」

「そうだが?」

「い、いやいや、ぜんぜんそんな……その、めちゃくちゃ綺麗だと思いますけど……されてる事も立派だし」

「何をまた。慰めなどいらぬよ」

「う、嘘じゃなくてですね」

「こら夏木、私はこう見えてあれだぞ、嘘はまるきし通用しないのだ。正確に言えば私自身はそういうのに鈍いのだが、勾玉にお前の思念を映せば、たちどころに内心が明らかになる」

「あれ、意外と占い好きなんですね。バリバリの現実主義かと思ってました」

 夏木は楽しそうに笑顔を見せる。

(さっきから何なのだこいつは。わざわざ私の元に来て、楽しげに話をする。一体何の願い事があって来たのだ?)

 岩凪姫はさすがに不思議に思った。

(あまりじらすのも悪いし、そろそろ心を見てみようか)

 そう思って、岩凪姫は虚空から勾玉を取り出した。

 軽く握り締めると、勾玉は眩い光を放つ。

 この光は夏木には見えないので、怪しまれる事はないのだが……光は淡い桃色であり、やがてハート型に変わった。

「……………………ん?」

 一瞬その意味が理解出来ず、岩凪姫は固まった。

「う、嘘なんかじゃありません。岩凪さんは、とっても素敵だと思います」

 夏木は赤くなりながら、尚も懸命に言葉を続ける。

「す、少なくとも……僕にはそう見えますから……!」

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 その横顔を見た時、岩凪姫の中で何かが繋がった。繋がったが、全力でそれを否定する。

(……いっ、いや待てっ、落ち着け私よ! そんなわけがない、そんなわけがないのだ! そうだ、きっと自分は疲れているのだ。だから勾玉の操作を間違った。そうに決まっているのだっ……!)

 そう、もう一度落ち着いて勾玉にこの男の心を読み取らせてみよう。

 生身ではないのに、体中に汗をかくような感覚だった。

 落ち着いて、冷静に……何度か深呼吸をして、再び勾玉に力を込める。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 先ほどを上回る、もの凄くまばゆい光。

 澄み渡る魂と、痛いぐらい真っ直ぐな思い。

 光は再び大きなハート型になった。

「えええええっ!!!???」

 動揺する岩凪姫をよそに、青年は更に語りかけてくる。

「あ、あの、もし良かったら、」

「良くないのでこれで失礼しようっ、さらばっ!!!」

 岩凪姫は立ち上がると、つむじ風を起こしながら駆け去った。

 しばし駆け、カーブを曲がってから空間転移する。

 どこに行けばいいか分からず、何度か滅茶苦茶に転移し、最終的にしまなみ海道の橋脚の上に着地した。

 それからたまりかねてしゃがみ込んだ。

「なっ……何なのだ……! 一体何なのだあいつはっ……!」

 頬が熱い。生身の体ではないのに、なにやら鼓動が荒いような気がする。

 いやいやをするように頭を抱え、女神は動く事が出来なかった。

(お、落ち着け私よっ、とにかく頭を冷やすのだっ……!)

 高い橋脚の上だから、冷たい風には事欠かないはずだ。
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