上 下
13 / 117
第五章その2 ~おめでとう!~ やっと勝利のお祝い編

ナギっぺはデリケートなの

しおりを挟む
 食事処が連なる場所や、海に続く商店街の跡地。

 それらを珍しそうに眺めながら、鶴は上機嫌で歩いていく。

 やがて2人は宮浦港に辿り着いた。

 社のような屋根がついた桟橋、その傍にある『一の鳥居』……そして石灯籠の並ぶ海辺の小道だ。

 ここでは昔、ハリウッド映画の撮影があったと母から聞いた事がある。

 その頃はまさか、現実に映画顔負けの大冒険をする事になるとは、夢にも思ってなかったのだが。

 すると突然、鶴が青い立て看板を指差した。

阿奈波あなば神社……徒歩20分。ああ、ナギっぺのお社ね。行ってみましょう」

 鶴はどんどん海辺の小道を進んでいく。

「ヒメ子、岩凪姫の社は怖くないのか?」

「平気よ黒鷹、ナギっぺも留守してるんだもの。そりゃあもう、鬼の居ぬ間に言いたい放題よ。ええ、今までのお説教の倍返しで」

「もし聞こえてたら?」

「その時は……コマが言った事にするわ」

「また僕のせいにする気? 全然成長してないじゃないか」

 ふとかけられた声に目をやると、石灯篭の上に小さな狛犬が乗っている。

 ジト目でこちらを見つめる彼は、ぴょんとジャンプして鶴の肩に飛び乗った。

「あ、あらコマ、そこにいたのね。ごきげんいかが?」

「いいと思う? それより目が覚めたなら呼んでよね。心配したんだから」

 コマは前足で鶴の頬を突っつく。

 鶴もコマに頬を寄せたし、やっぱりこの2人は根本的に仲がいいんだ、と誠は微笑ましく思った。



 社に続く海辺の道は、しきりにカーブを繰り返している。

 幼い頃は、春になると毛虫が横断しまくるこの道が、母との散歩コースだった。

 今はコンクリートで舗装されているが、500年前にカノンが走ったのはこの辺りだろう。

 更に進むと、右手の磯場に石像が見えてきた。言わずと知れた鶴姫像である。

 像の視線は宮浦港を眺めており、戦で戦死し、もう帰らない思い人……つまり、前世の誠を待っている設定かも知れない。何とも照れくさい話である。

 鶴は満足の権化ごんげのように頷きまくり、肩のコマに自慢する。

「ねえコマ、ここにも私よ。未来の人は、そんなに私がいいのかしらね」

「反面教師にしてるんじゃないかな」

 コマがツッコミを入れたので、鶴は「まあ、こしゃくな狛犬ね!」と返す。

 尚も言い争いしながら進むと、やがて海辺の社に……いや、かつて社だった場所に辿り着いた。

「改めて見ると、こりゃ酷いな」

 惨状を見かね、誠は思わず呟いた。

 元々こじんまりした岩凪姫の社は、大きな台風で壊れ、拝殿が解体されていたのだ。

 今は木箱に屋根がついたような本殿が、ちょこんと据えられているだけだ。

 鳥居は割れて崩れ落ち、左右の石の支柱だけが、ハの字になって支えあっていた。

 割れたお賽銭箱、無造作に積まれた大量の廃材。

 日本を守る戦いにおいて、人々を導いてくれた女神の社としては、かなり寂しい状況だった。

 誠は岩凪姫の言葉を思い出した。

『もちろんお前の知る通り、大きな台風で社は全壊し、もう島には帰るところもないがな』

『この国で、最も陽の当たらない神の私が、日いづる国を守り抜く! バカげた話と笑うがいい。笑わぬならばついて来い。この幸薄き負け組の神に……!』

 あの日女神が言った事が、今頃になって心に染みた。

「これから復興になるけど、再建はどうなるんだろうな」

 誠が言うと、コマが後を続けた。

「そうだね黒鷹。もっかい被害が出るくらいなら、別のところに移転するかも。大山祗神社の境内に、佐久夜姫さくやひめ様をお祀りした社があるし」

「それはコマ、ナギっぺが嫌がらなきゃよね」

 鶴は腕組みして、少し考えるように宙を見上げた。

「ナギっぺ、変に遠慮するところがあるから。意外とデリケートなのよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
『イケメン村で、癒しの時間!』 あやしさ満開の煽り文句にそそのかされて行ってみた秘境は、ほんとに物凄い美形ばっかりの村でした! おひめさま扱いに、わーわーきゃーきゃーしていたら、何かおかしい? 疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)
キャラ文芸
・ただ今《女装と復讐は街の華》の続編作品《G.F. -ゴールドフィッシュ-》を執筆中です。 - 作者:木乃伊 - この作品は、2011年11月から2013年2月まで執筆し、とある別の執筆サイトにて公開&完結していた《女装と復讐》の令和版リメイク作品《女装と復讐は街の華》です。 - あらすじ - お洒落な女の子たちに笑われ、馬鹿にされる以外は普通の男子大学生だった《岩塚信吾》。 そして彼が出会った《篠崎杏菜》や《岡本詩織》や他の仲間とともに自身を笑った女の子たちに、 その抜群な女装ルックスを武器に復讐を誓い、心身ともに成長を遂げていくストーリー。 ※本作品中に誤字脱字などありましたら、作者(木乃伊)にそっと教えて頂けると、作者が心から救われ喜びます。 ストーリーは始まりから完結まで、ほぼ前作の筋書きをそのまま再現していますが、今作中では一部、出来事の語りを詳細化し書き加えたり、見直し修正や推敲したり、現代の発展技術に沿った場面再構成などを加えたりしています。 ※※近年(現実)の日本や世界の経済状況や流行病、自然災害、事件事故などについては、ストーリーとの関連性を絶って表現を省いています。 舞台 (美波県)藤浦市新井区早瀬ヶ池=通称瀬ヶ池。高層ビルが乱立する巨大繁華街で、ファッションや流行の発信地と言われている街。お洒落で可愛い女の子たちが集まることで有名(その中でも女の子たちに人気なのは"ハイカラ通り") 。 ※藤浦市は関東圏周辺またはその付近にある(?)48番目の、現実には存在しない空想上の県(美波県)のなかの大都市。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三
SF
※本作はフィクションです。実在の人物や団体、および事件等とは関係ありません。 ※本作は海洋生物の座礁漂着や迷入についての記録や資料ではありません。 ※本作には犯罪・自殺等の描写がありますが、これらの行為を推奨するものではありません。 ※本作はノベルアップ+様でも同様の内容で掲載しております。  西暦二〇五六年、地表から高度八〇〇キロの低軌道上に巨大宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」が完成した。  宇宙開発競争で優位に立つため、日本政府は「ルナ・ヘヴンス」への移住、企業誘致を押し進めた。  その結果、完成から半年後には「ルナ・ヘヴンス」の居住者は百万にも膨れ上がった。  しかしその半年後、何らかの異常により「ルナ・ヘヴンス」は軌道を外れ、いずこかへと飛び去った。  地球の人々は「ルナ・ヘヴンス」の人々の生存を絶望視していた。  しかし、「ルナ・ヘヴンス」の居住者達は諦めていなかった。  一七年以上宇宙空間を彷徨った後、居住可能と思われる惑星を見つけ「ルナ・ヘヴンス」は不時着した。  少なくない犠牲を出しながらも生き残った人々は、惑星に「エクザローム」と名をつけ、この地を切り拓いていった。  それから三〇年……  エクザロームで生まれ育った者たちの上の世代が続々と成長し、社会の支え手となっていった。  エクザロームで生まれた青年セス・クルスも社会の支え手の仲間入りを果たそうとしていた。  職業人の育成機関である職業学校で発電技術を学び、エクザローム第二の企業アース・コミュニケーション・ネットワーク社(以下、ECN社)への就職を試みた。  しかし、卒業を間近に控えたある日、セスをはじめとした多くの学生がECN社を不採用となってしまう。  そこでセスは同じくECN社を不採用となった仲間のロビー・タカミから「兄を探したらどうか」と提案される。  セスは自分に兄がいるらしいということを亡くなった育ての父から知らされていた。  セスは赤子のときに育ての父に引き取られており、血のつながった家族の顔や姿は誰一人として知らない。  兄に関する手がかりは父から渡された古びた写真と記録ディスクだけ。  それでも「時間は売るほどある」というロビーの言葉に励まされ、セスは兄を探すことを決意した。  こうして青年セス・クルスの兄を探す旅が始まった……

後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~

絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

処理中です...