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第五章その1 ~ほんとに勝ったの?~ 半信半疑の事後処理編

あの戦い、ぜんぶ夢だったの…?

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「……………………???」

 いつの間に帰っていたのだろう。

 気が付くと、誠は懐かしい我が家の廊下に立っていた。

 年月を経て、あめ色に色づいた床板。

 いかにも田舎の家らしい、太く波打った頑丈な梁材はりざい

 廊下と部屋を隔てた建具たてぐのすりガラスは、細かな星型を刻んだレトロ調のもの。父が教えてくれた名前は、確か銀河ガラスだったか。

 窓から差し込む光は眩しく、十分に日が高い事を示している。

「…………?」

 ふと家の奥から、何者かが動く気配がした。

 誠は無意識に足を踏み出し、真っ直ぐな廊下を進む。

 台所の入り口には、木の球を数珠繋じゅずつなぎにした珠暖簾たまのれんがぶら下がっていた。

 誠の家は田舎なので、この暖簾も昭和の時代から受け継がれているのだ。

 大人達が両手で掻き分け、ジャラジャラ音を立てるのがうらやましい誠だったが、残念ながら身長が足りず、まだそういう行為はお預けである。

(なんだ、母さんか……)

 暖簾の下から見える後ろ姿は、他ならぬ母のそれだった。

 とても若々しく、いつも楽しそうな母は、今も上機嫌で何かの葉野菜をむいていた。

 流しの横に新聞紙が丸まっているので、近所で白菜でも貰ってきたのだろう。

「あら誠、帰ったの?」

 母は振り返って笑顔で言った。

「今日は怪我してないのねえ。車に撥ねられなかった?」

「うん、今日は避けれた。なんかゆっくりに見えたから」

 誠は無意識に答えていた。

「ねえ、遊びに行っていい?」

「そうね、母さんの子だもの、遊ぶ時は全力で遊びなさい! よく学びよく遊ぶ、それが子供の特権よ!」

「うん!」

 誠は元気に返事をした。

 それから玄関へひた走る。どうやら夢じゃないようだ。

 足裏に触れる床の感触も、ざらついた土の塗り壁も、やたらと現実感に満ちている。

 じいちゃん手作りのがりかまち……つまり、玄関の靴脱ぎ場にある木の踏み段もそのまんまだ。

(……そうか、あっちが夢だったんだ……!)

 誠はそう納得した。

 あの日本を守る戦いは、子供じみた夢だったのだろう。

 破天荒なお姫様と日本中を駆け回った事も、ちょっと怖い女神に助けてもらった事も、恐ろしい魔王と戦った事も。全部壮大な夢だった。

 以前ならがっかりしたかもしれないが、今の誠はそれが何より嬉しかった。

 だって誰も死なずに済んだんだもの。

 世界は磐石ばんじゃくだ。

 父がいて母がいて、祖父母も親戚もみんないる。

 これから友達の家に行って、一緒に楽しく遊ぶんだ。

 誠は急いで靴を履くと、玄関の戸を勢いよく開いた。

「………………えっ……?」

 引き戸を潜った途端、辺りは地獄に変わっていた。

 見慣れた景色は既に無く、近所の家は燃え上がっている。

 引き裂かれ、踏み砕かれ、あちこちに血の痕が溜まる町並みは、所々に断線した電気の火花が光っていた。

 サイレンがひっきりなしに鳴り響き、役場に残った職員の必死の叫びが、有線放送のスピーカーから聞こえていた。

 遠くで地響きが起きる度に、大量の火の粉が空に舞い上がっていく。

 やがて唐突に、誠の背後で轟音が起きた。

 振り返ると、住み慣れた家は崩れ、巨大な怪物が誠を見下ろしていた。

 ついさっきまで母がいたはずの家を、怪物どもは踏みにじる。

 誠は言葉にならない叫びを上げて…………そこで我に返ったのだ。
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