111 / 117
第一章その7 ~あなたに逢えて良かった!~ 鶴の恩返し編
初雪は勇気と共に
しおりを挟む
「ま、まずい!」
誠は慌てるが、画面上で岩凪姫が語気を強めた。
「うろたえるな、すぐに吸収されはしない! お前はやるべき事に集中しろ!」
「…………!」
誠は機体をみしまへ着艦させ、甲板に用意されていた対巨大餓霊用のライフルを受け取る。ライフルには既に幾本ものケーブルが繋がれていた。
「特殊属性添加弾装填。貫通属性、充填開始……!!!」
ボルトアクションで黄金色の弾丸を装填し、ケーブルから属性添加を開始する。
と同時に、激しいエネルギーが銃身に宿るのが分かった。心神の筋力をして辛うじて抑え込んでいるものの、銃身は暴れ馬のように揺れ動いた。
(この銃身のブレで、しかも揺れる船の上で……あの繭に当てられるのか?)
彼方にそびえる繭は、ごく小さな点にしか思えなかった。しかも僅かでも狙いを外せば、1人の少女の人生を台無しにしてしまう。
怖かった。
明日馬を殺め、雪菜を傷つけ、罪の意識に怯えた日々が思い出される。
息の振動ですら狙いが外れる気がした。
「……緊張しているかい? ナルセ」
「!」
ふいにかけられた思念の言葉に、誠ははっとして逆鱗を見やった。
あの祭神ガレオンが、誠の逆鱗に同期しているのだ。逆鱗は青く優しい光を放っている。
「短い間だったが、君の逆鱗に宿って、なかなか楽しかったぞ。色々な物を見て、色々な事を考えた。生まれた意味すら分からなかった私に、違う世界を見せてくれた君に、心から感謝している」
「……俺も、あなたに感謝してるよ」
誠も素直にそう答える。
「ガレオンがいなかったら、俺達は何1つ出来なかったから。人に戦う力をくれて、本当に感謝してる」
「それは私のためでもあるが、一応言葉は受け取っておこう」
ガレオンは尚も会話を続ける。
「人は興味深い生き物だ。己のためだけでなく、他者のためにあれだけの痛みに耐える事が出来るのだから……まだまだ観察の余地がありそうだ。あのディアヌスを倒したら、私も君と生きてみたい。新しい世界で、もっと知識を求めてみたい。この気持ちはディアヌスには分からないだろうな」
「……ああ」
誠は力強く頷いた。
そうだ、みんなで生きるのだ。新しい世界に、新しい時代に。そのために、絶対この一撃を当ててみせる……!!!
誠は再び狙いを定める。船の揺れも、繭の小ささも、もう何も気にならなかった。
やがて放たれた弾丸は、大気を震わせながら飛んだ。時代の闇を切り裂くために、絶望を打ち破るために。
弾は幾重もの防御魔法を打ち砕き、繭の本体へと突き刺さる。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
一瞬、物凄い力が周囲に撒き散らされる。
貫かれまいとする繭と、射抜こうとする弾がせめぎ合い……けれど弾丸は、光を帯びて飛び去っていく。
巨大な風穴をあけられた繭は、やがて大きく痙攣する。肉片が、どんどん高く盛り上がった。
「破裂する……失敗したのか?」
「いや、恐らく大丈夫だ」
誠の不安に、逆鱗に宿るガレオンが答えた。
「呪詛の組成を完全にかき乱した。あそこにあるのは、もう呪いとしての意味を為さない」
ガレオンの言葉通りだった。
膨張し、破裂した繭からは、白い光が溢れ出た。光は天高く舞い上がり、それから四方に飛散していく。
「………………」
人々は、ただ空を見つめていた。
降り注ぐ光は、少し早い初雪のように、辺りを白く輝かせている。
「綺麗だ……けどヒメ子は……!?」
誠は急いで機体を操作するが、そんな彼を制するように、モニターには2人の女神が映し出された。
「焦るな黒鷹、鶴は無事だ」
「当たる瞬間、コマちゃんが亜空間に飛んでくれたのよ。戻るまでちょっとかかるけど、安心して待っててね」
「……………………よ、よかった……!」
誠は全身の力が抜けて、ずるずると座席に身をもたせかけた。
安堵する誠を面白そうに眺めながら、岩凪姫が問いかけてくる。
「なんだ、当たったと思ったか?」
「いえ、もしかしたらと思って……」
「鶴に伝えてみよう。黒鷹が心配していたと」
岩凪姫は目を閉じて念じていたが、しばらくして目を開けた。
「鶴からの伝言だ。残念、それは分身です、だと」
誠は独りでに笑みがこぼれ出たが、そこで岩凪姫は、真面目な顔で語りかけた。
「黒鷹、お前に話がある」
誠は慌てるが、画面上で岩凪姫が語気を強めた。
「うろたえるな、すぐに吸収されはしない! お前はやるべき事に集中しろ!」
「…………!」
誠は機体をみしまへ着艦させ、甲板に用意されていた対巨大餓霊用のライフルを受け取る。ライフルには既に幾本ものケーブルが繋がれていた。
「特殊属性添加弾装填。貫通属性、充填開始……!!!」
ボルトアクションで黄金色の弾丸を装填し、ケーブルから属性添加を開始する。
と同時に、激しいエネルギーが銃身に宿るのが分かった。心神の筋力をして辛うじて抑え込んでいるものの、銃身は暴れ馬のように揺れ動いた。
(この銃身のブレで、しかも揺れる船の上で……あの繭に当てられるのか?)
彼方にそびえる繭は、ごく小さな点にしか思えなかった。しかも僅かでも狙いを外せば、1人の少女の人生を台無しにしてしまう。
怖かった。
明日馬を殺め、雪菜を傷つけ、罪の意識に怯えた日々が思い出される。
息の振動ですら狙いが外れる気がした。
「……緊張しているかい? ナルセ」
「!」
ふいにかけられた思念の言葉に、誠ははっとして逆鱗を見やった。
あの祭神ガレオンが、誠の逆鱗に同期しているのだ。逆鱗は青く優しい光を放っている。
「短い間だったが、君の逆鱗に宿って、なかなか楽しかったぞ。色々な物を見て、色々な事を考えた。生まれた意味すら分からなかった私に、違う世界を見せてくれた君に、心から感謝している」
「……俺も、あなたに感謝してるよ」
誠も素直にそう答える。
「ガレオンがいなかったら、俺達は何1つ出来なかったから。人に戦う力をくれて、本当に感謝してる」
「それは私のためでもあるが、一応言葉は受け取っておこう」
ガレオンは尚も会話を続ける。
「人は興味深い生き物だ。己のためだけでなく、他者のためにあれだけの痛みに耐える事が出来るのだから……まだまだ観察の余地がありそうだ。あのディアヌスを倒したら、私も君と生きてみたい。新しい世界で、もっと知識を求めてみたい。この気持ちはディアヌスには分からないだろうな」
「……ああ」
誠は力強く頷いた。
そうだ、みんなで生きるのだ。新しい世界に、新しい時代に。そのために、絶対この一撃を当ててみせる……!!!
誠は再び狙いを定める。船の揺れも、繭の小ささも、もう何も気にならなかった。
やがて放たれた弾丸は、大気を震わせながら飛んだ。時代の闇を切り裂くために、絶望を打ち破るために。
弾は幾重もの防御魔法を打ち砕き、繭の本体へと突き刺さる。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
一瞬、物凄い力が周囲に撒き散らされる。
貫かれまいとする繭と、射抜こうとする弾がせめぎ合い……けれど弾丸は、光を帯びて飛び去っていく。
巨大な風穴をあけられた繭は、やがて大きく痙攣する。肉片が、どんどん高く盛り上がった。
「破裂する……失敗したのか?」
「いや、恐らく大丈夫だ」
誠の不安に、逆鱗に宿るガレオンが答えた。
「呪詛の組成を完全にかき乱した。あそこにあるのは、もう呪いとしての意味を為さない」
ガレオンの言葉通りだった。
膨張し、破裂した繭からは、白い光が溢れ出た。光は天高く舞い上がり、それから四方に飛散していく。
「………………」
人々は、ただ空を見つめていた。
降り注ぐ光は、少し早い初雪のように、辺りを白く輝かせている。
「綺麗だ……けどヒメ子は……!?」
誠は急いで機体を操作するが、そんな彼を制するように、モニターには2人の女神が映し出された。
「焦るな黒鷹、鶴は無事だ」
「当たる瞬間、コマちゃんが亜空間に飛んでくれたのよ。戻るまでちょっとかかるけど、安心して待っててね」
「……………………よ、よかった……!」
誠は全身の力が抜けて、ずるずると座席に身をもたせかけた。
安堵する誠を面白そうに眺めながら、岩凪姫が問いかけてくる。
「なんだ、当たったと思ったか?」
「いえ、もしかしたらと思って……」
「鶴に伝えてみよう。黒鷹が心配していたと」
岩凪姫は目を閉じて念じていたが、しばらくして目を開けた。
「鶴からの伝言だ。残念、それは分身です、だと」
誠は独りでに笑みがこぼれ出たが、そこで岩凪姫は、真面目な顔で語りかけた。
「黒鷹、お前に話がある」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
後宮の記録女官は真実を記す
悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】
中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。
「──嫌、でございます」
男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。
彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる