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第一章その7 ~あなたに逢えて良かった!~ 鶴の恩返し編

駆け付けた勇者達

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「……砲兵はねじ伏せたけど、これじゃ生きて帰れそうにないね……!」

 奮戦していた小牧隊も、今は苦境に陥っていた。

 全員限界まで消耗している。

 武器弾薬も底をつき、属性添加機の出力は大幅に低下。

 対空呪詛の霧は色濃く張り巡らされ、飛行して撤退するのも叶わぬ夢だった。

 千春は小さく息をつき、隊員達に言った。

「あんた達、今までありがと。滅茶苦茶楽しかったよ?」

「こっちの台詞だぞ、姉御」

「そうだよ、死んでもみんな一緒だよ」

 玄太とこころが答えたその時だった。

 遠方から迫る光の球が、迫る餓霊どもを吹き飛ばしたのだ。

「!?」

 千春は咄嗟に振り返る。

 土煙の向こうに見え隠れするのは、鎧騎士のごとく居並ぶ勇姿。

 そう、味方の増援部隊が到着していたのだ。



「嘘でしょう……?」

 艦橋ブリッジで報告を受ける雪菜は、我知らず涙を流していた。

 通信兵は興奮した様子で、続々と集まる味方の状況を報せてくれる。

「第二海浜隊及び第五生産拠点防衛隊、合流します。その他の隊も順次集結しています」

 雪菜は感謝の気持ちでいっぱいだった。

 自分達大人は、この国の子供達を粗末に扱った。彼らの明日を奪ったと言ってもいい。なのに彼らは、自らの意思で命がけの戦いに参じてくれたのだ。

 やがて傍らに光が輝くと、あの女神2人が現れた。

 雪菜は慌てて涙をぬぐい、女神達に一礼する。

「あっ、これはようこそ……!」

「いいのよ、私達も分霊わけみだもの。解毒ももうすぐ終わるけど、本体はまだ向こうなのね」

 サクヤ姫は気さくに手を振って微笑んでくれる。

「こっちもうまく行ったみたい。全部の基地と船に、みんなの頑張りを流してきたの。そのぐらいしか出来ないけど、電波ジャックってやつ。それで来てくれたのは、正直嬉しいわ」

 サクヤ姫の言葉に、岩凪姫も頷いた。

「あの白い人型重機は、かつて日本中の人々の希望となったものだ。いわば形を変えた現代の信仰心が、あの機体に集まっている。だからこそ、皆の心をまとめあげたのだ」

「…………」

 雪菜は再び画面を見つめ、奮戦する誠の機体を見つめた。

 明日馬が始め、誠が受け継いだこの国の英雄という演目は、今大きくその実を結ぼうとしているのだ。

 だが雪菜が感慨にふけっていたその時、傍らで鶴が小さく尋ねた。

「……あの、あたし、行ってもいい……?」

 振り向くと、鶴は岩凪姫の前に佇み、懸命に顔を見上げていた。

 鶴は潤んだ目で、震える声で、心から女神に嘆願している。

「もう我儘言わないわ、修行だって頑張ります。お願いだから行かせて下さい」

「……そうだな、よく頑張った。偉いぞ鶴」

 岩凪姫は微笑んで、鶴を己の豊かな胸元に抱き寄せた。

「お前は立派な聖者だし、私の自慢の娘だよ」



 やがて岩凪姫は背を曲げて、鶴と目線を同じにした。

 鶴の頭に手を置き、いたわるように軽く撫でる。

「さあ行って、愛する人を守りなさい」

 鶴は女神を見つめていたが、やがてぺこりと頭を下げる。それからきびすをかえし、懸命に駆け出した。

 彼女の足元には、1匹の小さな狛犬が、主人を守ろうと付き従っている。
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