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第一章その6 ~急展開!~ それぞれの恋の行方編
ひらめきは突然に
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「く、黒鷹!?」
突然現れた誠に、鶴が目を丸くしている。
てっきり格納庫に戻されるかと思っていたので、誠もこの展開は予想外である。
しばしの沈黙の後、鶴は恐る恐る話しかけてきた。
「あ、あのね、黒鷹……」
いつもの元気は全くなく、鶴は少しおどおどしている。
「大丈夫? その、あんな事ばかりして」
「えっ!? い、いや、別にあれは何もしてない。たまたま、そうたまたまタイミングが悪かっただけで」
「違うよ黒鷹、そういうラブい意味じゃなくてさ。君の昔の記録を見ていたんだよ。君が夜毎に何をしてたかもね」
見かねてコマがフォローを入れる。
鶴はぺこりと頭を下げ、素直に誠に謝るのだ。
「ごめんなさい。でも、どうしても気になったから」
「……そっか。いいよ別に、気にしなくて」
誠はそう言って首を振った。岩凪姫への義理もあったが、目の前の鶴が落ち込む様は、確かに可愛そうに思えたからだ。
「ヒメ子には、ほんとに感謝してる。色々助けてくれて、ほんとにありがとな」
「……うん。でも黒鷹がいたから、全然しんどく無かったわ」
鶴は少しだけ嬉しそうに口元を笑みの形に変えた。
「あの、色々ごめんね。あたしお調子者だし、黒鷹に見られると舞い上がっちゃって、ついわけのわからない事しちゃうの」
「それは俺も同じだし」
誠も苦笑した。
(俺も人の事言えない。俺だって、雪菜さんに見られると……)
誠はそこで目を見開いた。
「見られると!?」
誠は両手で鶴の肩を鷲掴みにする。
「ひわっ!?」
鶴は変な悲鳴を上げるが、誠は構わず彼女に尋ねた。
「見られると、緊張するって言ったか!?」
「え、は、はいっ!」
「やった、それだったんだ! サンキューヒメ子!」
誠は無我夢中で鶴を抱き寄せ、ありったけの感謝を伝える。
「ごめん、先に戻ってる!」
誠は鶴を解放し、我知らず駆け出していた。
今まで何度やっても、細胞増殖の規則性が掴めなかった。それは細胞が、観測者である誠の意思を感じ取り、混乱させようとしていたからではないか?
騙そうとしているからこそ、どうやっても解けなかったのではないか?
そもそもそこに法則性などないのだから。
誠は風のように駆け戻ると、保存してあったデータを調べる。見える全てが正解だと鵜呑みにせず、嘘がある事を前提に、本筋を探そうと検証したのだ。
「すごい……はっきり分かるぞ……!」
それは美しく整理された、ただ1つの筋道だった。
変異した細胞が人の身に取り憑き、どう行動するのかを誠は理解する。それを引き剥がすために何をしたらいいかも理解した。
今まで不規則だと思っていた過去のデータは、全て本筋を隠そうとしたものだった。
……そう、ただ単純に、嘘をつかれていた。こんな簡単な事に気付かなかったのか、と思いかけて、誠は思わず首を振った。
総身に潮が満ちるまで、意地を張り通した結果なのだと……あの子がそう言ってたじゃないか。
たまたま最後のきっかけがこれだっただけで、順序が逆でも、結局同じ道だったはずだ。
ともかく、全ては一気に実を結び始めていた。
蓄積した経験が、学んできた全ての事柄が、力強い潮流のように音を立てて流れ始める。
誠は機器にかじりつき、治療用電磁式の組成を組み直した。夜を徹した作業が続き、やがて東の空が白み始めた頃、それは終わった。
「最後の……実験だ……!」
誠は冷凍庫から筒を取り出し、ありったけの細胞を解凍したのだ。
突然現れた誠に、鶴が目を丸くしている。
てっきり格納庫に戻されるかと思っていたので、誠もこの展開は予想外である。
しばしの沈黙の後、鶴は恐る恐る話しかけてきた。
「あ、あのね、黒鷹……」
いつもの元気は全くなく、鶴は少しおどおどしている。
「大丈夫? その、あんな事ばかりして」
「えっ!? い、いや、別にあれは何もしてない。たまたま、そうたまたまタイミングが悪かっただけで」
「違うよ黒鷹、そういうラブい意味じゃなくてさ。君の昔の記録を見ていたんだよ。君が夜毎に何をしてたかもね」
見かねてコマがフォローを入れる。
鶴はぺこりと頭を下げ、素直に誠に謝るのだ。
「ごめんなさい。でも、どうしても気になったから」
「……そっか。いいよ別に、気にしなくて」
誠はそう言って首を振った。岩凪姫への義理もあったが、目の前の鶴が落ち込む様は、確かに可愛そうに思えたからだ。
「ヒメ子には、ほんとに感謝してる。色々助けてくれて、ほんとにありがとな」
「……うん。でも黒鷹がいたから、全然しんどく無かったわ」
鶴は少しだけ嬉しそうに口元を笑みの形に変えた。
「あの、色々ごめんね。あたしお調子者だし、黒鷹に見られると舞い上がっちゃって、ついわけのわからない事しちゃうの」
「それは俺も同じだし」
誠も苦笑した。
(俺も人の事言えない。俺だって、雪菜さんに見られると……)
誠はそこで目を見開いた。
「見られると!?」
誠は両手で鶴の肩を鷲掴みにする。
「ひわっ!?」
鶴は変な悲鳴を上げるが、誠は構わず彼女に尋ねた。
「見られると、緊張するって言ったか!?」
「え、は、はいっ!」
「やった、それだったんだ! サンキューヒメ子!」
誠は無我夢中で鶴を抱き寄せ、ありったけの感謝を伝える。
「ごめん、先に戻ってる!」
誠は鶴を解放し、我知らず駆け出していた。
今まで何度やっても、細胞増殖の規則性が掴めなかった。それは細胞が、観測者である誠の意思を感じ取り、混乱させようとしていたからではないか?
騙そうとしているからこそ、どうやっても解けなかったのではないか?
そもそもそこに法則性などないのだから。
誠は風のように駆け戻ると、保存してあったデータを調べる。見える全てが正解だと鵜呑みにせず、嘘がある事を前提に、本筋を探そうと検証したのだ。
「すごい……はっきり分かるぞ……!」
それは美しく整理された、ただ1つの筋道だった。
変異した細胞が人の身に取り憑き、どう行動するのかを誠は理解する。それを引き剥がすために何をしたらいいかも理解した。
今まで不規則だと思っていた過去のデータは、全て本筋を隠そうとしたものだった。
……そう、ただ単純に、嘘をつかれていた。こんな簡単な事に気付かなかったのか、と思いかけて、誠は思わず首を振った。
総身に潮が満ちるまで、意地を張り通した結果なのだと……あの子がそう言ってたじゃないか。
たまたま最後のきっかけがこれだっただけで、順序が逆でも、結局同じ道だったはずだ。
ともかく、全ては一気に実を結び始めていた。
蓄積した経験が、学んできた全ての事柄が、力強い潮流のように音を立てて流れ始める。
誠は機器にかじりつき、治療用電磁式の組成を組み直した。夜を徹した作業が続き、やがて東の空が白み始めた頃、それは終わった。
「最後の……実験だ……!」
誠は冷凍庫から筒を取り出し、ありったけの細胞を解凍したのだ。
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