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第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編
寝るのかチョップか選べ。ロマンスはその後だ
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上層部からの伝達は、稲妻のように基地を駆け巡った。あちこちで同じ話題が飛び交って、誠達のいる格納庫にも、若者達の大声が聞こえて来る。
「聞いたか、今の戦力で応戦だってよ!」
「嘘だろ!? 増援も無しにかよ! みんな喰われて死ぬじゃねえか!」
彼らの声は会話というより、どちらかと言えば叫びに近い。皆死の恐怖に怯え、理性が根本から揺らいでいるのだ。
「ちきしょう、司令も普段は偉そうにしてるくせに、こう言う時は端末で死ね、なんてよ。何が申請してるだよ。何が希望を捨てないで、だよ」
「レジェンドだの何だの言っても、こうなった変わらないよな。顔見せたら文句言われるから逃げたんじゃね?」
「俺もう嫌だよ。どうせ死ぬなら逃げようぜ。運がよけりゃどっかの避難区に入れるだろ」
「私も、私も行く!」
格納庫の前を足早に駆け抜け、歩兵科の人員が抜け出していく。
でも誰も止められない。
上層部に見捨てられ、補給も増援もないのに、何をもって引き止めればいいのだろうか。
「……みんな逃げてくんだな」
宮島がぽつりと呟いた。
部隊の面々は誰も返事が出来なくて、目の前の作業に手を動かしていた。
水や携行食糧など、機体に搭載する荷物を交換し、グリーンの布製リュックに詰め込んでいく。
誠はしばらく迷っていたが、覚悟を決めて口を開いた。
「…………その、お前達も」
「嫌やで。うち、ここの暮らしが気に入っとんねん」
難波は即答した。
いつに無く真面目な声のトーンだったため、誠は思わず難波を見た。
彼女は少し俯いて、リュックに手を置いている。
「……初めてここに来た時な、うち、これで終わりやって……どうせすぐ死ぬって思ったんよ。けど鳴っちや、みんなのおかげで生き残れて……今は毎日、そこそこ楽しいねん。みんな気が合うし……行った事ないけど、毎日が修学旅行とか、合宿みたいやん?」
難波はリュックのポケットに非常食を詰め込み、しっかりとジッパーを閉じた。
「うちらは親も家族も死んどるし、前線でしか生きられへん。よそに行ってもどうせ戦うんやし、やったらここにおりたいわ」
他の隊員も頷いている。
「そもそも俺は冷蔵庫にうどんの生地を寝かせてるんだ。あれを置いて逃げるなんてあり得ないな」
少し毛が伸びてきて、頭が青くなりかけている香川はそうおどける。
誠は整備兵達に振り返った。
「整備の皆は」
「僕らも嫌です」
尚一は整備の手を休めずに答えた。
「避難してる人を放り出して逃げるなんて出来ませんよ。僕は弱いですけど、これでも日本男児ですから。仕事はちゃんとやり遂げます」
「わしらもお断りじゃ」
美濃木爺さんもそう言った。
「そもそもお前さん達、接続系の調整は終わったんじゃから、戦いに備えて無理にでも寝とかんかい!」
「そうですよ、あなた達が戦えないんじゃ整備する意味がないでしょ。早く行かないと、チョップをお見舞いしますよ!」
お下げのなぎさにも言われ、誠達はようやく格納庫を後にした。
「ほな、うちはシャワーでも浴びよっと。もしかしたら戦いの前にロマンスがあるかもしれんし、最後ぐらい、体は綺麗にしとかんとな」
「ちょっとあんた、ロマンスって何なのよっ」
カノンと難波は風呂場へと向かった。
「そんじゃあ俺は遠慮なく寝させて貰うぜ!」
「それじゃ俺は頭を剃って、座禅でもしておくかな」
宮島と香川は宿舎へと歩いていく。
「………………」
誠はしばし考えていたが、顔を上げると、足早に体育館へと向かった。
「聞いたか、今の戦力で応戦だってよ!」
「嘘だろ!? 増援も無しにかよ! みんな喰われて死ぬじゃねえか!」
彼らの声は会話というより、どちらかと言えば叫びに近い。皆死の恐怖に怯え、理性が根本から揺らいでいるのだ。
「ちきしょう、司令も普段は偉そうにしてるくせに、こう言う時は端末で死ね、なんてよ。何が申請してるだよ。何が希望を捨てないで、だよ」
「レジェンドだの何だの言っても、こうなった変わらないよな。顔見せたら文句言われるから逃げたんじゃね?」
「俺もう嫌だよ。どうせ死ぬなら逃げようぜ。運がよけりゃどっかの避難区に入れるだろ」
「私も、私も行く!」
格納庫の前を足早に駆け抜け、歩兵科の人員が抜け出していく。
でも誰も止められない。
上層部に見捨てられ、補給も増援もないのに、何をもって引き止めればいいのだろうか。
「……みんな逃げてくんだな」
宮島がぽつりと呟いた。
部隊の面々は誰も返事が出来なくて、目の前の作業に手を動かしていた。
水や携行食糧など、機体に搭載する荷物を交換し、グリーンの布製リュックに詰め込んでいく。
誠はしばらく迷っていたが、覚悟を決めて口を開いた。
「…………その、お前達も」
「嫌やで。うち、ここの暮らしが気に入っとんねん」
難波は即答した。
いつに無く真面目な声のトーンだったため、誠は思わず難波を見た。
彼女は少し俯いて、リュックに手を置いている。
「……初めてここに来た時な、うち、これで終わりやって……どうせすぐ死ぬって思ったんよ。けど鳴っちや、みんなのおかげで生き残れて……今は毎日、そこそこ楽しいねん。みんな気が合うし……行った事ないけど、毎日が修学旅行とか、合宿みたいやん?」
難波はリュックのポケットに非常食を詰め込み、しっかりとジッパーを閉じた。
「うちらは親も家族も死んどるし、前線でしか生きられへん。よそに行ってもどうせ戦うんやし、やったらここにおりたいわ」
他の隊員も頷いている。
「そもそも俺は冷蔵庫にうどんの生地を寝かせてるんだ。あれを置いて逃げるなんてあり得ないな」
少し毛が伸びてきて、頭が青くなりかけている香川はそうおどける。
誠は整備兵達に振り返った。
「整備の皆は」
「僕らも嫌です」
尚一は整備の手を休めずに答えた。
「避難してる人を放り出して逃げるなんて出来ませんよ。僕は弱いですけど、これでも日本男児ですから。仕事はちゃんとやり遂げます」
「わしらもお断りじゃ」
美濃木爺さんもそう言った。
「そもそもお前さん達、接続系の調整は終わったんじゃから、戦いに備えて無理にでも寝とかんかい!」
「そうですよ、あなた達が戦えないんじゃ整備する意味がないでしょ。早く行かないと、チョップをお見舞いしますよ!」
お下げのなぎさにも言われ、誠達はようやく格納庫を後にした。
「ほな、うちはシャワーでも浴びよっと。もしかしたら戦いの前にロマンスがあるかもしれんし、最後ぐらい、体は綺麗にしとかんとな」
「ちょっとあんた、ロマンスって何なのよっ」
カノンと難波は風呂場へと向かった。
「そんじゃあ俺は遠慮なく寝させて貰うぜ!」
「それじゃ俺は頭を剃って、座禅でもしておくかな」
宮島と香川は宿舎へと歩いていく。
「………………」
誠はしばし考えていたが、顔を上げると、足早に体育館へと向かった。
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