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第一章その1 ~始めよう日本奪還~ 少年たちの苦難編
あの日守ってくれた人達のように
しおりを挟む夕闇が迫る避難区に、絶望のサイレンが響き渡る。耳を劈く甲高いその調は、怪物どもの襲来に怯える人魚姫の叫びのようだ。
落日は空を燃えるような丹塗りに染め上げ、青鈍色の積雲が、千切り絵のごとく天を不吉に切り裂いていた。
爆発とともに時折炎が立ち昇ると、舞い上がる火の粉が辺りを妖しく彩っている。
『第16特別避難区の方々、落ち着いて、かつ迅速に避難して下さい!』
『乗船ゲートの割り振りは変更となっております! 確認してお急ぎ下さい!』
放送が耳に入っているかどうかも定かでないが、人々は避難バスから降りるなり、皆が救いの揚陸艦に殺到していた。
「来るよ、そこまで来てるってよ!」
悲鳴のように叫ぶ顔は、一様に恐怖で歪んでいた。
「鳴瀬少尉、さっきはお手柄だったな」
ふいに誠の機体の画面に、中年男性が映し出された。
短髪でがっしりした体躯で、旧陸上自衛隊の迷彩服を身に付けている。あちこち止血帯を巻かれているが、その表情は力強い。
彼はこの避難区守備隊の指揮官、池谷中佐である。
これまでの莫大な損害により自衛隊は解体され、身寄りのない若者を加えた『国防自衛軍』として再編された。
当然服装も刷新されたのだが、生き残った元自衛官は古い装いをする事が多い。
それは一目で自分がベテランだと示すためであり、被災者や戦闘経験の浅い若者に、責任とリーダーシップを提供する強い意志を表していた。
この10年でくたびれ、色あせた迷彩服は、人々を守ってきた隊の誇りがまだ消えていないと主張しているかのようだ。
「池谷中佐、おケガは大丈夫でしょうか」
「なに、先に逝った仲間に比べたら、大した事ないさ。それよりすまないが、状況がまた悪化している。情報を送るから確認してくれ」
やがて画面にデータが送られてきた。
現在この避難区は、半島の東岸・西岸の2箇所の港へ住民を誘導しているのだが……東岸のルートを選んだ人々が、敵の支配エリアに取り残されているらしい。
「見ての通り、東部防衛線が敵の強襲で突破され、子供を含めた数百名が逃げ遅れている。動ける隊が少ないため、もう一度出てもらいたいが……問題ないだろうか」
「勿論、問題ありません」
「よし、すぐに特務隊に許可を取る。それまでこの場を確保してくれ」
「了解しました。繋がりにくいと思いますので、念のためこちらからも打電します」
誠は通信を終えると、操縦用のグリップを握り直した。人工筋肉の稼動でゴムを圧縮するような音が響き、誠の乗る人型重機は一歩前に踏み出した。
全高約10メートル、本体重量9・75トン。
一見ロボット然とした装甲に覆われているものの、関節部には青い筋肉が見え隠れしている。
培養した『生体筋肉』を金属の骨格に搭載した人造の巨人であり、俗に『人型重機』と呼ばれる汎用防衛兵器なのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ふいに一際大きい爆発が起こった。空に火柱が昇ると、きらきら輝く物体が、星屑のように天に舞った。
次の瞬間、無数の破片が降り注いでくる。
『荷物を頭上に! 頭を低くして、身を守ってください!』
放送が悲痛な叫びを上げている。
金属片が銃弾のごとく大地を叩き、前方で屈みこんだ母子の横を、何かの破片が掠めていった。
「宮島、難波は車両を守れ! 香川とカノンは桟橋を頼む!」
誠は隊員に指示するが、そこで再び爆発が起きた。
空に舞う数個の破片は、先ほどのものより遥かに巨大だ。
誠は素早く機体のOSに告げた。
「緊急起動、接続操作モードへ移行!」
『了解、接続操作モードへ移行』
機械音声が応えると、操縦席に青い光のラインがいくつも走った。人工筋肉も青く輝き、機体と誠の感覚が同期していくのだ。
(……っ!!!)
流れ込む大量の情報に耐えながら集中すると、迫り来る破片の動きが急激にスローに感じられた。
そのまま巨大な自動小銃で射撃。迫る破片に立て続けに命中させ、空中で四散させた。
だが最後の一射は射軸がずれ、弾は標的を掠めただけだ。無茶苦茶に回転しながら落ちる破片は、先ほどの母子に襲いかかった。
「くそっ、間に合えっ!」
誠は機体を走らせつつ、左腕に電磁シールドを展開。輝く光の盾を振るい、巨大な破片を弾き飛ばした。
『状況終了、神経接続を解除。機体の冷却を開始します』
OSの言葉と共に、操縦席の青い光も消えていく。
誠は外部拡声器で眼下の母子に呼びかけた。
「こちら高縄半島避難区守備隊・人型重機小隊の鳴瀬です。そこの方、ご無事ですか。動けないなら救護班を要請します」
「あ、あの、平気ですっ、ありがとうございます!」
母親は何度も頭を下げ、子供を抱えて小走りに避難していった。
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