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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

鬼神族は生身では無敵

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「良かった、何とか間に合った……!」

 銃を構えた天草の姿に、誠はひとまず安堵した。

 門の上部から侵入し、同じく内部に潜入していた鳳達と合流。

 高千穂研の構造に詳しい誠が、補助通路を使いながら案内し、人質がいるであろうコントロールルームを目指す……はずだったが、途中で発砲音を聞いて駆けつけたのだ。

 鳳は鬼達を見据え、厳しい顔で呟いた。

「……鬼神族。邪気からすると、恐らく始祖の血が濃いですね。相手としては最悪です」

「さ、最悪って……どういう事です?」

「強いのです。それもとてつもなく」

 誠の問いに、鳳は簡潔に答えた。

「鬼神族……それも上位の者は、小手先の術は使いません。ただ攻撃するだけで絶大な威力となり、逆にこちらの武器は、ほぼダメージが通りません。牽制の小技も無意味ですし、相打ち覚悟で来られれば終わりです」

「じゃ、じゃあ勝てない……?」

「平時であれば、色々準備いたしますが……この状況では厳しいですね」

 鳳は油断なく鬼達を見据えながら言った。

「熊襲といい、鬼神族といい……こうも始祖がらみの猛者が集まるとは……敵も勝負どころと見ているのでしょう」

「そんなかっこええもんじゃねーけどのお。こっちは単なる尻拭いよ。のお紫蓮」

 巨体の鬼が、指で耳をほじりながら言うと、小柄な鬼も同意した。

「まあな剛角、じゃが好機よ。急ぎのはずのこいつらがよお喋る。つまりわしらを引き止めたいのよ。だったらわしらがキッチリ仕留めて、熊襲どもがしくじるのが理想じゃ」

 鬼達はどこか聞き覚えのある声で会話を続ける。

(こいつら、確か以前に……)

 誠はそこで思い出した。そう、あの小豆島防衛戦で出会った相手である。

「……どうやら頭も回るようですね」

 鳳はそこで諦めたように呟いた。視線を鬼から外し、横目で誠を見てささやく。

「……ここは私が引き受けます。黒鷹殿は、先へお進み下さい」

「ちょっと待って、こいつら強いんでしょ? 鳳さん一人でなんて」

「私は全神連。死ぬ事も含めてのお役目です」

「で、でもこの前、お客さん扱いはしないって……」

「あれは私が守り切れると思ったから、緊張感を持たせるために言ったまで。本当に無駄死にを課す先達せんだつなど、全神連にはいません」

 鳳は静かに言うと、長い太刀を抜き放った。

 白い指先で刀身をなぞると、青い複雑な光の模様が、幾重にも太刀を覆った。

「…………」

 誠はしばし押し黙った。

 生身の戦いに不慣れな自分が、いきなり最高難度の鬼神族と戦うなんて、足手まといもいいところだ。

 だが誠がいなくても、鳳が有利になるわけではない。

 術がきかず、太刀も効果が薄い相手に2対1では、確実に殺されてしまう。

(……考えろ俺っ、諦めたら鳳さんが死ぬ。何か……何か手はないか……?)

 誠はしばし思案したが、そこである事を思い出した。

 つい先日、同じように活路を探した事があると。

 ……それは確か、あの女神が課した鬼との特訓だった。

 地獄から来た鬼達は、まったく誠の話を聞かなかった。狂戦士というとあれだが、のめり込みやすく、頭に血がのぼりやすいのだろう。

(……そうだ。鬼は強いけど、夢中になると周りが見えなくなるんだ。だったら、あれが使えるかもしれない……!)

 誠は決意して鬼達の方に向き直った。

「やっ、やい、鬼の2人っ」

「なんじゃ?」

 鬼達は割と素直に呼びかけに答える。

 誠は腰のサイドポケットを探り、小さなたまを取り出した。

 直径数センチほどの輝く珠を見つめ、鬼達は色めきたった。

「ん? ちょい待て、そりゃー約定珠やくじょうだまか?」

 剛角が目をこらすので、誠は珠を投げ渡す。

「そうだ、約定珠やくじょうだまだ。小豆島で俺が受け取ったものだ」

 誠はそこで手を前に出し、時代がかった身振りで言い放つ。

「やあやあ、我こそは三島大祝家みしまおおほうりけに仕えし、鳴瀬誠! ちょい照れるけど……当代一の使い手なりっ! ここであったが百年目、鳳さんと戦う前に、まず俺との約束を果たしてもらおう!」

「あーっ!? お前、あの時の白いやつかぁっ!」

 剛角は途端に色めきたった。

 誠を指さし、足を地団太じだんださせて喜んでいる。

「なんちゅう幸運じゃ紫蓮! 熊襲の下働きかと嘆いとったが、まさか敵一番の猛者が来とるとは!」

「おうよ剛角、これぞ双角天様のお導きじゃ! わしらがこいつを仕留めれば、名誉挽回、万々歳じゃ!」

 あの小柄な鬼でさえ、目を輝かせて喜んでいる。

 盛り上がりまくる鬼に対し、誠はそこで口を挟んだ。

「……じゃ、じゃあ、どっちが戦うか決めてくれっ」

「…………」

「…………」

 鬼達は、一瞬ぽかんとして誠を見たが、しばし後、剛角がごほんと咳払いした。

「……よ、よし紫蓮、ここはわしが相手をするか」

「何をぬかすかっ、ここはわしじゃろ!」

「だってお前、あれはわしの約定珠やくじょうだまだろうが!」

「やかましい、あの場はお前以外もおったじゃろうが! 鬼神族全員の果たし状じゃぞ!」

「紫蓮、お前へ理屈言うて、結局戦いたいだけじゃねえか!」

「あったりまえじゃ、土蜘蛛も熊襲も倒せなんだ、敵いちばんの武将首じゃぞ! ここを逃してたまるものか!」

 鬼達がヒートアップした頃合いを見計らい、誠はとどめの一言をかける。

 冷や汗が全身を流れるのを感じながら、誠は最大限の勇気を搾り出した。

「……だ、だったら、どっちか強い方と戦うから……!」

「よしきた、だったらわしじゃあ!」

「何をぬかすか剛角、わしにきまっとるじゃろうが!」

「ふざけるな!」

 鬼達が斧と金棒で打ち合い始めると、通路全体に轟くような音が響く。

 まるで怪獣のケンカである。

 誠はそこで鳳の顔を見た。

 鳳は誠の意図を察し、ぎこちなく頷いた。

 戦いの騒ぎに乗じ、鳳は素早く何かを足元に落とした。

 白い紙で出来たそれは、型代かたしろと呼ばれるものである。

 型代は床に落ちると、瞬く間に誠達の姿に変わった。

 その隙に、誠達はそっと横手へ……先ほど出てきた整備用の補助通路へと入っていった。
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