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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

岩の帳(とばり)

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「黒鷹、やったわ! 大成功ね!」

 鶴の笑顔が誠の機体の画面に映った。

 右手には木槌、つまり打ち出の小槌が握られている。

「サンキューヒメ子、助かった!」

 誠は答え、ひとまず胸を撫で下ろした。

 滅茶苦茶な作戦ではあったが、どうにかうまく行ってくれたのだ。

 種明かしは簡単である。

 まず最低限の砲撃要員だけを乗せた船を、打ち出の小槌で縮めてしまう。

 あとは術が解けないように、時々小槌で叩きながら阿蘇まで運んだのだ。

 元の大きさに戻った船は、即座に敵陣に砲撃を開始。

 巨大な艦船用の属性添加機だし、邪気の影響を受けない超低空の砲撃なので、その威力たるや絶大である。

 敵が船に近づけば、鶴は再び船を縮め、短距離の瞬間移動で別の場所に船を移す。

 これを繰り返すだけで、敵陣は滅茶苦茶に乱れていくのだ。

 混乱した敵の電磁バリアは著しく乱れ、本来強敵であるはずのボス級の餓霊達も、たやすく撃破されていく。

「いっつも思うけど、やる事がアホやな鳴っち。よおこんな事思いつくわ」

「ほんっとに、頭の中まで変態よねっ」

 画面に映る難波とカノンが、勝手な事を言っている。

「じゃないと勝てないんだよっ! どんだけ戦力差あると思ってんだ」

 誠が答えると、奮戦する宮島と香川の姿も映った。

「けどよっ、これこそ俺らって感じしねーか? こないだの四国防衛戦、普通すぎて物足りねえって思ったもん」

「そりゃー調教されすぎだぞ宮島。確かに退屈はしないけど、なっ」

「そーだな香川。いや、殿か」

「殿じゃないっ! 何度言ったら分かるんだ宮島っ、仏罰が当たるぞ!」

「出たで、香川の決め台詞! こりゃ勝ったも同然や……おっと!」

 仏像のように憤怒相ふんぬそうで怒鳴る香川だったが、隊員達は無駄口を叩きつつも、手早く餓霊を仕留めていく。

 誠達の横手では、志布志隊が奮戦していた。

 迫る巨体の餓霊に向かい、壮太の機体が突進していく。

「第6船団、ファイトォオオオ!!!!!」

 攻撃をかわして跳躍すると、壮太は右上段に刀を構える。

 そのまま一直線に降下し、巨大な餓霊を防御魔法ごと両断していた。

「見たか人喰いどもっ! この壮太様の示現流じげんりゅうを!」

「壮太、調子に乗らないでよ!」

 湯香里達がすかさず射撃し、壮太の隙を狙われないようフォローしている。

 誰かの行動を必ず誰かがカバーするチームワークは、始まりの地・九州を生き抜いてきた彼らの、勇気と経験の結晶なのだ。

 そこで巨大化したコマが誠達の傍に着地すると、その背に鎧姿の鶴が乗っている。

「弾は全部撃ったから、船のみんなは避難したの! ここからは私達も戦うわ!」

 味方は更に勢い付き、どんどん黒い社へ迫る。

 ………………だがその時だった。

 突如社の周囲に、赤い炎が湧き上がった。

 やがて炎が薄れた時。

 高さ数十メートルに及ぶ岩のとばりが、社全体を囲むようにせり上がっていたのだ。



 迫り来る人の軍勢を睨み、不知火は怒りに打ち震えていた。

「……忌々いまいましい人間どもめ……どこまでも我らの邪魔をしおって……!」

 彼がいるのは、明らかに人が作り上げた建物の中であり、室内であった。

 モニターや操作パネルコンソールが整然と並ぶ様から、何かの制御室なのだろうか。

 やがて室内は、いや、建屋全体が、激しく鳴動し始めた。

 不知火は吐き捨てるように呟く。

「夜祖様に借りは作りたくなかったが……仕方あるまい。貴様らの死をもって埋め合わせしてもらおう」



「ヒメ子、あれが何か分かるか?」

「ちょっと待ってね。よっと!」

 鶴は餓霊を雷でふっ飛ばしながら答える。

 その時、味方の流れ弾が岩壁に着弾した。

 岩の一部が崩れ落ちると、中から人工的な白壁が現れ出たのだ。

「人工物? なんでこんなものが……」

 誠は懸命に目を凝らすが、不意に味方から騒ぎが起こった。

 土煙を上げて駆ける何かが、社へ迫っているのである。

 一見して百足のような姿で、厨子王型ずしおうがたの下半身のような印象だった。

 誠は機体を操作して、銃の照準をそれに合わせる。

 だが次の瞬間、鶴が必死に声を上げた。

「待って黒鷹、撃っちゃだめっ!!!」

「っ!?」

 誠は射撃を思いとどまるが、その間に百足は岩壁に張り付いた。

 そのまま赤く身を光らせると、吸い込まれるように消えていったのだ。

「ヒメ子、一体……?」

 誠が問うと、鶴は珍しく真剣な表情で答える。

「人が乗ってたわ。子供が大勢……多分、神使のみんなも……!」

「何だって!?」

 やがて壁は大きく震える。

 表面の岩が崩れ落ちると、現れたのは、紛れも無く人造の建築物であった。

 この国の希望を背負って創られた高千穂研究所……その周囲を固めた外壁と、開閉式の巨大な扉。そう、かつて嘆きの門と呼ばれたものである。

「そうか……だから社の敷地が……高千穂研に似てたのか……!」

 誠はそこでようやく思い当たった。

 社は高千穂研究所の外壁を転移させ、その内側に建てられた。だから高千穂の見取り図と社の俯瞰図ふかんずが似ていたのだ。

 門はしばし鳴動すると、社を守るように、赤い光の結界を張り巡らせた。
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