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第二章その1 ~九州が大変よ!?~ いよいよ助けに行きます編

望月カノンの恋わずらい1

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「………………」

 誠はしばし、神器の画面を見つめていた。

 鶴は珍しく気を遣ったのか、誠に味方してくれる。

「ナギっぺ、相変わらずけちだわ。頼んでも大抵許してくれないのよ」

「それは鶴が遊んでばかりだからだろ」

「まあ、とんでもない偏見だわ!」

 もめる鶴とコマをよそに、誠は思いを巡らせた。

 自分で調べるにしても、既に混乱の始まりに関する資料はあらかた目を通している。

 別の船団に行けば手がかりがあるかもしれないが、今は政治的な交渉中のため、勝手に乗り込むわけにもいくまい。

 そこでカノンが恐る恐る声をかけてきた。

「……元気出しなさいよ。今は駄目でも、そのうち教えてくれるって言ってたじゃない?」

「………………」

 誠はしばし躊躇ったが、カノンの方に向き直った。

「……いや、それともう一つ、カノンの事も気になるんだけど」

「えっ!? あ、あたし?」

「小豆島の戦いもそうだったし、さっきもずっと上の空だっただろ」

「そっ、そそそれは、その……」

 カノンはしどろもどろになるが、鶴がずいと身を乗り出した。

「そうね、もっちゃんについては、私も変だと思っていたの。いつもより動きが悪いし、あれじゃ命を落とすわよ。何か悩み事でもあるのかしら」

「な、なな無いわよ。ほんとに無い、まったく無いから!」

 鶴はまじまじとカノンを見つめ、したり顔で頷いた。

「いえ、これはあるわね」

「無いってば!」

「大丈夫、家臣の悩みを聞くのも将の務めよ。今日は徹底的にもっちゃんの悩み事を解決しましょう」

「ちょっと、頼むから話聞いて!」

 もっちゃんこと望月もちづきカノンは必死に訴えかけるが、コマがカノンの肩に飛び乗って言った。

「無理だよ、鶴に話を聞かそうだなんて。僕なんて何百年もやってるんだから」

「そっ、そんな……」

 カノンはおろおろしていたが、やがて脱兎のごとく駆け出していく。

「あっ、下手人げしゅにんが逃げたわ!」

 鶴はピーピーと指笛を吹き鳴らした。

 するとたちまち虚空が輝き、神使達が飛び出してくる。

「姫様、お呼びですかい!」

 眼帯アイパッチを付けた狛犬が言うと、鶴はカノンの後ろ姿を指差す。

「みんな、もっちゃんを捕まえて!」

 神使達は御用提灯ごようちょうちんを振りかざし、すぐにカノンに追いついてしまう。

「御用や! 御用や!」

「モウ観念するのです!」

 カノンは後ろ手に縛られ、こちらに連れてこられてしまった。

 カノンを椅子に座らせると、鶴は遠慮なく問いかける。

「さあ、これで逃げられないわ。それでどんなお悩みなの?」

「……だ、駄目よ……駄目……」

 カノンは椅子に縛られたまま、赤い顔でふるふる首を振っている。

 そこでアイパッチを付けた狛犬が、前足を上げてとんでもない事を言う。

「そうですぜ姫様、心を映す神器を借りてきやしょう」

「ああ、ナギっぺの勾玉ね」

 カノンは椅子ごと飛び上がって慌てた。

「かっ、借りたらまずいわよ! そんな、私なんかのために勿体ない……!」

「もしもしナギっぺ?」

 鶴は全く話を聞かず、既に神器のタブレット画面で女神に呼びかけている。

 画面には先程の岩凪姫が映し出され、鶴は手短に用件を説明した。

「いきなりで悪いんだけど、もっちゃんの悩みを解決したいから、神器を貸して欲しいの。ほら、いつも私を怒る時に使う、心を映す勾玉のやつね」

「何だ、そんな事か」

 岩凪姫は先ほどとはうって変わって、穏やかな表情で快諾する。

「本来あれは乱用禁止だが……さっき黒鷹の頼みを断ったからな。終わったらすぐ返せよ」

 岩凪姫が指を弾くと、たちまち鶴の手に勾玉が現れた。

「ありがとうナギっぺ、またね」

 鶴は通信を切ると、さっそく勾玉を指でいじる。

 勾玉は光り輝くと、小さな黒い映写機へと姿を変えた。

 大きさは数センチ程で、丁度ガチャガチャのカプセルに入ってそうなサイズ感である。

「ちょっと現代風にしてみたわ。それじゃ、さっそくもっちゃんの悩み事を、包み隠さず映し出すわね」

 鶴はカノンの頭に映写機を乗せようとするが、カノンは嫌々をするように首を振っている。

「手ごわいわね。でも乗せられないなら、線を繋げばいいのよ」

 鶴は映写機からケーブルを延ばし、カノンを更にぐるぐる巻きにする。

 だが映写機に光が宿ったところで、カノンが椅子ごと飛び上がって倒れた。

 その拍子にケーブルが千切れ、映写機の光は消えたのだ。
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