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第二章その1 ~九州が大変よ!?~ いよいよ助けに行きます編

しあわせを呼ぶ招き鶴。復興とセットで

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「わあ、すごいわ黒鷹、これが未来のいちなのね!」

 目の前に広がる光景に、鶴は感嘆の声を上げた。

 一言で言えば、そこはかつてのショッピングモールのような場所である。高い屋根に守られた通りがどこまでも続き、両脇に様々な店が立ち並んでいる。

 店先を覗けば、いかにもおいしそうな野菜に果物、魚介類や加工食品。あぶったじゃこ天やヒオウギ貝、タコのからあげなどを試食出来るコーナーまである。

 視線を上げれば、2階や3階にも店舗区画が広がっていて、全てのテナントを見るには数日を要するだろう。

 高縄半島にオープンした実験的な復興店舗区画、通称『高縄フェニックスモール』であり、戦いを終えた誠達は、基地にほど近いこの場所に立ち寄ってみたのだ。

 鶴は見る物全てが珍しいらしく、あちこち走り回っては、ちゃっかり試食品をもらっている。

「おいしい、どれも凄まじく新鮮だわ! こんな凄いいちが立つなんて、鶴ちゃんにっこり、えびす顔よ」

「確かに、よくここまで短期間で復興したよな」

 誠も答えつつ、ぐるりと周囲を見渡した。

 行き交う人々は皆楽しげで、子供達は風船を貰って上機嫌だ。不意に人ごみの陰から、幼い自分が走り出してきそうな雰囲気だった。

 所々に迷子の子供もいたが、係員が迷子防止用腕輪あんしんバンド情報読み取りスキャンすると、大型画面ディスプレイで親御さんの呼び出しが出来る仕組みだ。

 四国を取り戻した第5船団は、慢性的な土地不足の解消のため、ただちに復興に着手したのだが……そのスピードたるや驚愕きょうがくの一言だった。

 人型重機、つまり建設機械のパワーと人体の精密性を併せ持つ機体が使えるため、瓦礫の撤去も基礎工事もお手のもの。あたかも巨人の積み木のように、いかな作業もあっと言う間に終わるのだ。

「みんな頑張ってるし、ここは一つ、商いがうまくいくよう応援するわね」

 鶴は一軒の店に近寄ると、招き猫の着ぐるみ姿に変身した。

 するとたちまち注文の電話が殺到し、また客が雪崩のように押し寄せて、店員達はわけもわからず悲鳴を上げた。

 鶴がフロアを歩くにつれ、市場は無数の客に埋め尽くされる。

 客の人波に押し流され、生き別れになりそうな店員夫婦を見ながら、コマは慌ててツッコミを入れた。

「ちょっと鶴、やめたげなよ。忙しいのもほどほどだよ」

「えー、これからがいいところなのよ? コンちゃん達お稲荷さんの使いも呼んで、商売繁盛を祈願するのに」

「今でこれなら十分だよ。ほら元に戻って」

 鶴はしぶしぶ鎧姿に戻ったが、既に手遅れ、店員達は皆倒れていた。

 それでもあの絶望の時を乗り越えてきたからだろうか。倒れたスタッフ達はどこか満足げなのだった。

「みんな、なんちゅう安らかな顔で倒れとんねん」

「そりゃあ10年も我慢してきたからな。こんな日が来るなんて、神さん仏さんにしこたま感謝だ」

 難波の呟きに、香川が拝むような仕草で答えた。

 地名姓の通り彼は旧香川県の出身だったが、そちらも最近目覚しい復興を遂げているため、彼は機嫌がいいのだった。

 そんな香川を眺め、宮島が羨ましそうに言う。

「香川はいいよなあ、地元がガンガン復興してんだもん。なあ隊長、早く本州もバケモノから取り返そうぜ」

「せや鳴っち、うちの愛するたこ焼き王国もよろしくやで♪」

 宮島と難波の言葉に、鶴は神器のタブレットを取り出し、日本グルメ地図を表示した。

 制覇したグルメが旗印となって立ち並び、さながら戦国時代の勢力図のようである。

「まあ、お好み焼きとたこ焼きと言えば、お城で食べたおいしいやつね。2人の故郷を取り戻せば、あれがいつでも食べられるのね!」

 鶴は興奮し、ぐいぐい画面を差し出してくる。

「黒鷹、今すぐ本州に攻め上りましょう! 悪党どもを追い払って、残らずグルメを復活させるのよ!」

 タブレットを誠の頬にめり込ませる鶴に、誠は若干引き気味に答えた。

「うぐっ……そ、そりゃ俺もそうしたいけど、今の所、船団長の佐々木さん達が交渉中だろ? 勝手によその支配地に入れば、同盟どころじゃなくなるしさ」

「しゃらくさいわ、さっさと一つにまとまればいいのに!」

 鶴は尚も興奮しているが、コマが再び鶴をいさめた。

「そう焦っても無理だよ鶴。10年もバラバラになってた日本で、いきなり一つになれだなんてさ」

「ムム、仕方ないわねえ」

 鶴は渋々タブレットを誠の頬から引っこ抜いた。

「私は一刻も早く真面目に頑張りたいんだけど、交渉中なら遊ぶ事しか出来ないものね。うんうん、ほんとに残念だけれど」

 宮島は頭の後ろで手を組んで、傍らの香川に声をかける。

「遊びかあ、そんじゃ俺らは、後で食堂行ってくるか。香川、何食う?」

「俺は勿論、新メニューのうどんだな」

「オキアミうどんか。俺もそうしよっと」

「あんたら最近、6食ぐらい食うとるやん。カノっちも食堂の新メニュー食べたん?」

 難波はカノンに話を振ったが、先ほどから一言も喋っていないカノンは、急な呼びかけにびくっとなって顔を上げた。

「……えっ!? ご、ごめん、聞いてなかったかも……」

 カノンは目をまん丸にして戸惑っている。

 波打つ薄茶色の髪も、今日はあまり整えられていない。

 無防備な様もそれはそれで色っぽいのだが、難波はさすがに心配になったのだろう。腰に手を当て、まじまじとカノンの顔を覗き込んだ。

「カノっち、あんたほんとに具合悪いんとちゃう? 小豆島からずっとおかしいで」

「だ、大丈夫。ほんとにほんとに、平気だから……」

 カノンはそう言って首を振るが、誠はそこで思い出した。

(小豆島……そうだ……)

 どうしても思い出してしまうあいつらの事だ。鬼神族と名乗り、餓霊どもを従えていたあの連中……果たして一体何者なのか。餓霊とどういう関係があるのか。

「………………」

 誠はしばらく迷ったが、思い切って鶴に言う。

「……ヒメ子。悪いけど、岩凪姫と話させてくれないか?」

「もぐもぐ、ナギっぺと? 勿論いいわよ」

 鶴はあぶったじゃこ天に舌鼓をうっていたが、快く引き受けてくれた。
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